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子どもの事件の現場から(174) 体験 思春期の子どもの手続代理人
会報「SOPHIA」 平成29年12月号より
会員 多 田 元
私はかねてから家庭での虐待、親の離婚等の争い、いじめ等困難に直面した子どものパートナーとしての「子どもの代理人」を夢想し、ときに子どもを守るために勝手に「子どもの代理人」と称することがあった。家事事件手続法によって「国選子どもの手続代理人」が制度化されたが、適用範囲は窮屈で理念も不明確、国選報酬の定めもなく、近頃やっと法律援助による手当てができることになった粗末さである。そんな不平を言ったせいか、平成28年4月に国選子どもの手続代理人に選任され、事例報告をする羽目になった。
事案は、中学3年生14歳の女性で、8歳で父母が離婚、父が親権者となり、母、兄、姉と別れ、父に引き取られたが、母との面会交流を継続していた。中学1年の夏休みに父との決別を決意して家出し、母のもとへ同居、転校した。父母の間で、親権者変更、監護者指定、子の引渡等の争いになり、母の親権者変更等の申立ては却下され、父から母に対する子の引渡請求の審判事件で、母の申立てによって、家裁が子どもの手続代理人を選任した。 家裁が選任する前に、母の代理人弁護士が私を彼女に引き合わせ、彼女の面接テストに一応合格させていただいた。
家裁からファクスで選任の連絡があり、家裁での約2年間に及ぶ父母の争いの相当量の記録を閲覧した。父側は、彼女の家出は本人の意思でなく、母の支配的な影響力と作為によりなされたことや母の監護能力への批判等、いわば民事的、刑事的手法による母側への責任追及をベースとする主張、立証が家裁、高裁の抗告審で効を奏しているが、家裁、高裁の審判、決定の理由には子どもの視点が欠如した「子ども不在」を感じさせられた。
そこで、思春期の彼女が父母の激しい争いの中に置かれた不安な状況のなか、彼女自身が親の付属物ではなく、アイデンティティ、主体性を確保し、自己決定と意見表明ができるように応援するのが自分の役割と思い定めて活動の方針を次のように決めた。 1)彼女の生活の現状の継続を望む気持ちをと りあえず尊重すること。 2)子どもの手続代理人の意見を述べて父母の争いに介入することを控え、とくに父と直接対立しないこと。そして、彼女自身の将来に視点を置いた解決に目を向けるようにして、父母らの協力を求めること。 以上の方針につき、面接で彼女と合意した。
審判まで約4か月間に合計8回私の事務所で彼女と面接した。初回は母同席で、母には次回からは本人だけの面接とし、本人との約束により面接の内容を母にも秘密にすることがあることを了解してもらった。
面接では、従前の父母間の家裁審判、高裁決定の理由を要約した書面を作成し、彼女と一緒に読んだ。彼女は、なぜ母と生活する希望が認められないのかなど、父と裁判官に尋ねたい事項があり、それを共同作業で質問書にまとめ、家裁への私の報告書に添付した。彼女は子どもの権利条約に関する私の講演録(中学生向け)を読んで学校の課題作文「子どもの権利・人権から感じたこと」を書いたので、その写しを報告書に添付した。審判期日間に彼女の同意のもとに、父、代理人弁護士と話し合ったが、結局平行線に終わった。
裁判官は、彼女に対し審判廷で質問書に丁寧に答え、審判は「子どもの明示の意思に反する結論を強いることは、特段の事情のない限り未成年者の福祉に反する」として父の子の引渡請求を却下し、そのまま確定した。
彼女はその後無事中学校を卒業し、志望校へ進学して夢に向かって進んでいる。手続代理人よりは余程しっかりしていると思う。