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子どもの事件の現場から(170)
子どもの気持ちを一番に考える機関~豊田市子どもの権利擁護委員制度~
子どもの事件の現場から(170)
子どもの気持ちを一番に考える機関~豊田市子どもの権利擁護委員制度~
会報「SOPHIA」 平成29年8月号より
会員 間 宮 静 香
- みなさんは、お住まいの自治体に「子ども条例」があるかご存じですか。名古屋市をはじめ、愛知県内では、8市町村が子ども条例を制定しています(平成28年10月末時点)。
- 平成19年10月、県内初の子ども条例を施行した自治体は、豊田市です。豊田市子ども条例は、子どもの権利条約の理念を踏まえ、子ども達の意見を取り入れて成立しました。「安心して生きる権利」「自分らしく生きる権利」「豊かに育つ権利」「参加する権利」を子ども達の特に大切な権利として規定しています。子どもにもわかりやすいよう条文の言葉も工夫され、末尾が「です・ます調」になっているところも画期的です。
- 豊田市子ども条例の最大の特徴は、子どもの権利侵害が生じた場合の救済機関として、子どもの権利擁護委員(以下「擁護委員」とします)制度を採用していることです。手前味噌ですが、全国的にも豊田市の擁護委員制度は高い評価を受けています。なお、愛知県では唯一の常設の救済機関です。
私は、初代・故吹野憲征元会員、二代目・高橋直紹会員から引き継いで、平成26年10月より擁護委員を務めています。
擁護委員は大学教授ら3名で構成され、相談員4名とともに常設の「子どもの権利相談室」の運営を行っています。水曜日から日曜日まで、相談員が子ども達からの電話相談や面接相談を行っています。
また、毎日、相談員から業務の報告があり、電話で指示をしたり、場合によっては、面談や調整活動のために豊田市に出向きます。関係機関の会議出席等も含めると、多い時は週3日も豊田市に通っています。 - 条例上、市の機関は擁護委員の仕事を支援する義務があります。また、擁護委員が必要と認めるときには、勧告や要請という強い権限も行使できます。
市長にも毎年業務報告を行います。教育委員会等他機関との意見交換や、学校に出向いて子ども達に「権利学習」を行います。教職員向け研修に呼ばれることも増えてきました。 - 「子どもの権利相談室」が大切にしているのは、子どもの意見を尊重し、子どもの力を引き出すことです。保護者から御相談をいただくこともありますが、その場合でも、保護者の意向のみで動くことはなく、必ず子どもから意向を確認します。親子間で意見が異なる場合も少なくありませんので、親子別々で面談を行い、子どもの気持ちを整理していきます。
どんなときでも「ここは、子どもの気持ちを一番に考える機関です」と言い続けることで、保護者も、学校の先生も、子どもの意思を尊重する重要性に気付くように感じます。
実際、学校も保護者も気持ちを聞くことができていなかった不登校の子に相談員が会い、気持ちや意見を聞き、保護者や学校に伝えたことで再登校できるようになったケースもありました。 - 学校に関する問題で大切なことは、誰かを一方的に責めるのではなく、学校や関係者と子どもが同じ方向を向いて進むことです。
私の所属する子どもの権利委員会でも、「どちらかの味方」ではなく、「中立な第三者」として活動を試みる案件がありますが、同じような活動を条例上の根拠をもってできるところに擁護委員制度の大きな意味とやりがいを感じています。