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子どもの事件の現場から(167) 血は繋がっていなくても・・・

会報「SOPHIA」 平成29年5月号より

会員 高 橋 直 紹

  1.  Mさんと初めて会ったのは5年前の夏でした。彼女は16歳。家庭の事情で幼い頃から児童養護施設で生活していました。途中で親権者であるお母さんが亡くなり、おばあちゃんが未成年後見人になりましたが、その後も彼女は養護施設で生活していました。そして、高校に入学したものの1か月で退学したことをきっかけに、養護施設を出て、子どもセンターパオが運営する自立援助ホーム「ぴあ・かもみーる」の利用を希望しました。私はパオの説明のために養護施設に赴き、そこでMさんと会ったのです。きりっとした顔つきの利発そうな子でした。
  2.  とんとん拍子で「ぴあ・かもみーる」利用が決まりました。パオでは利用してくれる子ども一人一人にパートナー弁護士が就くことになっており、私と下野谷順子弁護士が彼女のパートナー弁護士になりました。
  3.  「ぴあ・かもみーる」の生活が始まると、彼女はすぐに通信制高校進学を決め、バイトも自分で見つけてきました。自分でこうと決めたら突き進む意思の堅さを感じました。
     「ぴあ・かもみーる」の利用期間は約1年なのですが、Mさんは、半年くらいで「ぴあ・かもみーる」からの旅立ちを決め、バイトをしながら通信制高校に通う一人暮らしを開始しました。
     その後、おばあちゃんの未成年後見人辞退に伴い、私がMさんの未成年後見人になりました。実際には私はお金の管理くらいで、日々の困りごとの相談は、下野谷弁護士がきめ細かく対応してくれました。生計を立てながら通信制高校に通うことは本当に大変だったと思いますが、Mさんはバイトを掛け持ちしながら頑張っていました。
  4.  卒業を意識し始めた頃、いつものようにMさんと一緒にご飯を食べていた際、Mさんは突然大学進学について相談してきました。それまで、経済的な理由もあり、Mさんが大学進学のことを口にすることはありませんでした。大学に進学したいと聞き、私も下野谷弁護士も大喜びでした。Mさんよりも学費のことなんか考えていなかったかも知れません。そんなことは何とかなるから大学に行こう!と今から考えれば全く脳天気なことを言って大はしゃぎでした。そして、Mさんが希望する大学のオープンキャンパスに、嬉々として私と下野谷弁護士も同行したりしました。
     無事Mさんは大学に合格し、しかも、その年から試験的に開始された完全給付制の奨学金まで受けられるようになり、現在Mさんは無事大学生活をエンジョイしています。
  5.  去年20歳となり、私は未成年後見人ではなくなりましたが、その後もMさんからの依頼で彼女の貯金用通帳を預かっていました。
     つい最近通帳を一本化する必要があり、私が預かっていた通帳は用なしとなりました。そこで、Mさんに通帳を返す話をしました。すると、Mさんは、通帳返還の趣旨は分かったとした上で、「でも、もし通帳を返してもらうことで、今までの高橋さんや下野谷さんとの関わりがなくなるというのであれば、そのまま預かってもらいたい。」とラインを送ってきました。あぁ、おっさん弁護士の嬉し泣きポイントを知ってるんだなぁ。
     私は、柄にもなく、「私たちはあなたの親にはなれないけれど、あなたを娘のように思っている。血は繋がっていなくても、そういう関係はあると思う。」なんて返事をしていました。