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子どもの事件の現場から(165)
自分と未来は変えられる。
でも、一人では変えられない。
子どもの事件の現場から(165)
自分と未来は変えられる。
でも、一人では変えられない。
会報「SOPHIA」 平成29年3月号より
NPO法人再非行防止サポートセンター愛知 理事長 高 坂 朝 人
僕は警察に15回逮捕された犯罪者だった。地元の広島市で13歳から非行に走り、大人はみんな敵だと思っていたし、信じたら終わりだと思っていた。信頼していたのは、非行仲間や先輩たち。そんな僕が23歳の時、人生で初めて大人に助けを求めたのは、18歳時の弁護士付添人である秋田智佳子さんだった。
それから約10年経ち、33歳になった僕は、弁護士資格はないが、秋田さんのように鑑別所に面会に行き、付添人として審判に出席させてもらっている。平成23年6月から付添人活動を始め、25件の付添人をさせてもらい、不許可となった10件でも、家裁の許可の範囲内でサポートを行ってきた。
平成26年8月に、NPO法人再非行防止サポートセンター愛知(以下、再サポ愛知)を設立し、これまで50名以上の少年をサポートしている。コンセプトは、①鑑別所や少年院にいる時から社会復帰後も継続して、②非行少年の親も同時に、③非行経験のあるスタッフとないスタッフが、ペアになってサポートすることの3つ。社会内でのサポートは約半年間で、サポート終了後は、対等な人と人との関係となる。サポート中に逮捕された少年は0名で、終了後に逮捕された少年は2名。その2名は、今後もサポートを継続する。
今日、鑑別所入所中からサポートしていた少年の少年院仮退院の出迎えをした。出迎え後はカフェに行き、通信制高校の通学や勉強方法を説明し、仕事の希望を確認。「少年院で取得した溶接の資格を生かしたい」と希望したため、その場で保護観察所に電話をし、資格を生かせる協力雇用主のリストを本日中に少年に提示してほしいと相談したところ、保護観察官は快諾してくれた。もう一つ、少年には、「親子喧嘩をしたら、家出して投げやりにならずに、夜中でもいいから電話して。空き部屋があるのでいつでも入れるから」と伝えた。平成27年12月から定員6名の自立準備ホームを運営しており、親元・地元に住むのが困難な5名の少年が生活中である。
情熱ある弁護士に感動したこともあった。鑑別所入所中の少年を一緒にサポートし、少年が少年院を仮退院後、少年との食事にお誘いしたら飛んで来てくれた。その少年が、再サポ愛知の勉強会で自分のストーリーを発表する時も来てくれて、真剣に生き直そうとする姿を、涙を流しながら見守っていた。
多くの少年たちは、きれいごとを並べる大人よりも、非行仲間や先輩たちに心を寄せていると思う。もっともらしいことを言ってくれても、警察、鑑別所、少年院、保護観察等で仕事としてかかわっている時だけしか、かかわってくれないというのがあると思う。非行少年は、「正しい言葉を聞きたい」のではなく、「信頼できる人の言葉を聴きたい」のだ。
僕は、自分は絶対に変わることはできないと思っていた。でも、僕を担当した家裁調査官は「高坂君は絶対に変われる人です。私は信じています」と涙を流しながら言ってくれた。
周りの大人が、この少年は変われないと思ったら、自分は変われないと思っている少年は、本当に変われなくなると思う。僕たちは少年たちを諦めずに、信じ続ける。
すべての非行少年は自分と未来を変えられる。でも、一人では変えられない。