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新人付添人奮闘記

子どもの事件の現場から(163)
新人付添人奮闘記

会報「SOPHIA」 平成29年1月号より

会員  渚   舞

その事件は私の2件目の少年事件で、私が付添人として担当したAさんは当時19歳の女性で、被疑事実は食料品の万引きでした。
 まず、令状が「勾留状」ではなく「観護状」であることに頭を抱えました。正直、「観護状」が何か分からなかったのです。慌てて調べると勾留ではなく勾留に代わる観護措置がとられていることは分かりましたが、文献には「勾留に代わる観護措置がとられることはあまりない」としか書かれておらず、なぜこの手続なのかは分からないままでした。不安を抱えつつ、とにかく会いに行こうと鑑別所に赴きAさんから話を聞いて分かったのは、彼女には帰る場所がなかったのです。
 Aさんがあっけらかんと話した身上は、人生経験浅い私にとっては衝撃的な半生でした。
 こんな大変な人生を歩んできた子をなんとかしてあげたいが、私のようなド新人に当ってしまったがゆえにこの子が不幸になったらどうしよう。自分の無力さにAさんへの申し訳なさが募りました。けれど、私が何かしなければ彼女は帰る場所がないというだけで少年院に行ってしまう。
 Aさんは、体育会系で明るくしっかりした子で、中学卒業後から住込みで長年働いてきた職歴があり、経験した仕事について活き活きと話すため、住む場所と仕事が確保できれば彼女は十分に立ち直れると思いました。
 しかし、私には住込みの仕事を紹介できる伝手はありません。そこで、少年事件のメーリングリストを思い出し、先輩方のお力を借りようと相談をしました。私が相談の投稿をすると、励ましの言葉と共に、何人もの先輩方が利用できそうな行政機関や就職先の紹介をしてくださり、惜しみなく指導してくださる温かさに感謝するばかりでした。
 その中で、主に児童養護施設出身者に対し住居提供を含めて就職採用する事業主の団体であるルーキーズを紹介してもらいました。
 ルーキーズの代表者の方はとても親身になってくださり、すぐにAさんの採用に手をあげてくれた事業主のリストを送ってくれました。そのリストから選んだ会社の社長がBさんです。
 B社長は、前世は僧侶か神父かと思うほど情け深い人でした。私が連絡をとると、鑑別所までAさんに会いに来てくれ、Aさんの人生設計を一緒に考えてくれました。そして、Aさんの事情を理解して、審判の日から入居できるようマンションを準備し、必要な家財道具と当面の生活費まで用意してくれたのです。審判には親の代わりに同席してくれました(後にAさんに聞いたところ、本当はしばらくしたら逃げようかなと思っていたけれど、B社長がいい人すぎて逃げる気は失せたとのことでした)。
 調査官と裁判官には、ルーキーズに連絡を取った時から住居と就職先が確保できることとAさんの就労意欲の高さをアピールし続けたところ、Aさんの受入体制が整っていることを理解してくれ、審判の結果は保護観察となりました。裁判官がAさんにかけた言葉は、今後を激励するものでした。
 その後、Aさんから「渚さんにも社長にも感謝しとるよー」とのメールをもらいました。このメールを見ると、自分の無力さに落ち込んで泣いたことを思い出すと共に、人の役に立ちたくて法曹をめざした幼い頃の夢を、少しだけ叶えられたのかなと思います。