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子どもの事件の現場から(162)初めての少年事件

会報「SOPHIA」 平成28年12月号より

会員 野 田 侑 希

 5月から6月にかけて初めての少年事件を担当しました。初めての少年事件の当番待機日。事件が来るのかそわそわしていると、出動依頼のFAXが。「ついに来たか。」と警察署へ初めての接見に向かうと、金髪ですが、まだ幼さの残る少年がいました。
 彼の非行事実は、暴力行為等処罰に関する法律違反(集団暴行)で、他の少年と共謀の上、被害者に対して暴行を加えたというものです(彼自身は暴行現場にはいたものの被害者に手を出していません)。挨拶と簡単な自己紹介の後、勾留状記載の事実を一つ一つかみ砕きながら説明し、「ここに書いてある事実で違うところはない?」と尋ねると、少年から「共謀なんてしていない。」との回答。「一件目から否認事件か...。」と思いつつ、少年の話をよく聞いてみると、少年自身は手を出していないものの、暴行に至る経緯や状況等からすれば、審判となれば共謀が認められてしまう可能性はあるように思えました。また、本件非行事実以外にも、特に彼の現在の職場の人間関係に大きな問題があり、彼自身の課題にも向き合ってもらう必要があると感じました。
 初めての少年事件、何をやっていいか暗中模索のなか、私は少年のためにとにかくやれることは精一杯やろうと必死でした。2日に1回は少年に会って話をし、両親との面談だけでなく、当初から彼が最も気にかけていた少年の彼女とも(もしかしたら審判に出てくれるかもと淡い期待を持ちながら)面談をしました(その面談で交際開始翌日に彼が逮捕されたことを初めて知ることになりますが...)。
 少年と何度も話をしているうちに、少年は事件と直接関係のない話や自分の彼女のことについても話をしてくれるようになりました。そして、家裁送致が目前となったころ、突然、少年自身から「共謀とみられてもしょうがない。」という話をし始めました。驚いて「どうしてそう思うようになったの?」と聞いても彼はあまり明確に答えてはくれません(彼自身どこかに後ろめたい気持ちがあったのかもしれません)。しかし、それ以後は鑑別所でも自分の職場を含む交友関係の問題点、被害者のことや今後の仕事等について正面から自分なりに考え話してくれるようになりました。
 そして審判当日。少年は少年院仮退院中であったため、再度少年院に入る可能性もありましたが、付添人として彼と何度も話した結果に基づき、今回の非行は彼の非行性が進んだ結果ではなく、更生の過程での「つまずき」であったことを主張しました。また、少年も自分の問題点をこれからの生活でどう改善していきたいのか自分の言葉で伝えました。その結果、少年はもう一度だけ社会内更生のチャンスをもらい、保護観察処分となりました。
 こうしてなんとか初めての少年事件を終えることができましたが、振り返ってみると何が少年のためなのかという悩みの連続でした。自分なりに少年と向き合ったつもりですが、どこまで彼のためになれたのか自分ではわからないというのが正直なところです。
 審判後、少年は最愛の(?)彼女と別れたこと以外は特に問題なく、新たな職場で元気に生活しているようです。もし、彼がまた「つまずき」そうになったときには、すぐに声をかけてくれるよう、今後も彼とは「細く長く」繋がっていけたらと思っています。