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子どもの事件の現場から(161)時間をかけて更生していく少年に寄り添う

会報「SOPHIA」 平成28年11月号より

会員 犬 飼 敦 雄

 当時18歳の少年A君は、集団暴走を企て、後輩たちに集団暴走をさせたとして身柄拘束されていた。A君は、後輩たちに集団暴走の指示をしていないとして否認していた。
 私はA君の話を信じ、否認事件として活動し、警察官が「録音テープがあるぞ」と偽計による自白を取ったときは、検察官に抗議して調書を訂正させるなど活動してきたが、家裁送致後記録を閲覧すると、集団暴走した他の少年らの調書には、A君から指示されたという供述が散見された。
 付添人としては説得することも考えられたが、A君の否認に付き添い、状況説明をしながらA君の気づきに期待することにした。
 裁判官と協議し、裁判官も理解を示してくれ、まず同年のB君の尋問をし、その結果を踏まえて後輩少年を尋問するか決めることになった。私からA君には、A君が本当のことを話しているなら、B君は嘘をついていることになるので、私から厳しく質問するからねということを話しておいた。
 私が審判廷でB君の尋問をしていると、A君は途中から泣き出し、「もういいです」と言い出し、「Bの言うとおりです」と認める供述をした。
 審判後の面会で、A君は、B君の話を聞いて思い出したこと及びA君が主犯格とされていたが、B君が主犯格であることを認め、B君が鑑別所にいることを知り、納得できたと語り、ずいぶんスッキリした顔であった。
 ただ、自白してから審判までの期間が短く、またA君自身の資質的な問題などもあり、反省を深めることはできず、保護観察中の再非行であったことから、少年院送致になった。
 私は、審判後もA君と手紙のやりとりをし、金沢の少年院にも面会に行き、A君を励ましてきた。当初A君は少年院に行っても意味はないと考えていたが、少年院での生活で、少しずつA君に変化が見られるようになった。仮退院したことの報告を受け、仕事も始めたとのことでこのまま再非行がないといいなと願っていた。
 しかし、しばらくしてA君の親から連絡があり、20歳になってから共犯で車上荒らしと自動車盗をし、一審判決で実刑になったとのことで、控訴審を依頼できないかとのことであった。
 A君に接見に行くと、申し訳なさそうにしており、国選だと私に依頼できないと思って連絡しなかったとのことであった。A君は、彼女が妊娠し、結婚することになり、今後一切犯罪をしないと強い決意を抱いていた。守るべきものができたこともあり、ずいぶん成長したなと感じた。
 私が控訴審の国選弁護人となり、共犯者間の負担割合を調整し、親にもお金を準備してもらい、被害者の方々と交渉し、何とか示談書と嘆願書をいただき、A君は控訴審で執行猶予判決となった。
 控訴審判決後、しばらくして子どもが無事生まれたと手紙で報告してくれた。そこには、「償うというのはいろいろな意味がありますが、支えてくださる人のため、支えていかなければならない人のため、自分のために、社会人、父親としてこの先真剣に頑張って生きていきます」と書かれていた。
 その後6年になるが、A君から弁護人としての出動依頼はない。