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終身刑をめぐる世界の状況・京都コングレス報告

死刑事件についての勉強会(第13回)
終身刑をめぐる世界の状況・京都コングレス報告

会報「SOPHIA」 令和3年5月号より

死刑制度廃止委員会 副委員長 夏 目 武 志

1 3月7日から12日にかけて京都で第14回国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)が開催された。日弁連は京都コングレスにおいて死刑制度やアジア地域における終身刑に関するサイドイベント等を主催したが、日弁連コングレスWG委員として、サイドイベントで司会を務められた大野鉄平会員から、終身刑に関するサイドイベントの報告を中心に、終身刑をめぐる世界の状況について報告をいただいた。
2 コングレスについて
 コングレスは5年に一度開催される、刑事司法・犯罪防止分野における国連最大の会議である。過去には、国連被拘禁者処遇最低基準規則(1955年)、社会内処遇措置のための国連最低基準規則(1990年)、弁護士の役割に関する基本原則(1990年)が採択されている。
 京都コングレスには全世界から5600人が参加したが、コロナ禍のため、4200人はオンライン参加となった。
3 世界の終身刑
 まず、終身刑の種類として、法律上の終身刑と事実上の終身刑がある。前者には、①減刑不能な仮釈放のない終身刑、②仮釈放のない終身刑、③仮釈放のある終身刑、④必ず釈放される名前だけの終身刑がある。後者には、⑤実質的な終身刑(懲役99年等)、⑥有罪宣告後の不定期の予防拘禁(裁判所が「公衆保護のための拘禁」を言い渡すなど)がある。
 現在、183の国や地域で法律上の終身刑が使用されており、仮釈放のある終身刑(LWP)が最も世界で使用されている(144か国)。66か国では仮釈放のない終身刑(LWOP)が採用されている。LWOPとLWPが両方存在する国は22か国であり、世界では少数派とのことである。
 世界の終身刑受刑者の人数は、2000年から2014年にかけて増加の一途をたどっており、その背景としては、①死刑の減少(死刑廃止の国際的傾向と表裏の関係)、②厳罰化、刑期の長期化傾向がある。
 世界各国の終身刑受刑者の人数と比率も紹介されたが、国ごとに大きく状況が異なることが見て取れた。終身刑大国とされるインドでは、2014年に終身刑受刑者は71,632人いて、受刑者全体における比率は53%にものぼるが、それでも一時的な釈放が柔軟に認められている(たとえば、家族や社会との関係を維持するための短期の仮出所等)。
 国際人権基準では「希望に対する権利」が人道性の基本的側面として求められ、自由権規約では、たとえ重大犯罪で有罪とされた者であっても、更生して社会に戻り、自律かつ自立した生活を送る機会が与えられるべきとされている。
 ポルトガルでは、1867年に死刑が廃止され、1984年には終身刑も廃止され、有期刑しか存在しないが、それでも治安が守られており、世界には死刑も終身刑もない国が存在するという指摘もなされた。
4 日本には死刑があるため、これまで死刑をめぐる国際的傾向については学習する機会が多々あったが、終身刑をめぐる世界の状況を学ぶ機会は少なく、本勉強会は極めて貴重な機会となった。死刑の代替刑として仮釈放のない終身刑の導入が検討される流れの中で、今後、終身刑に関する世界の動向についても継続的に見ていく必要性を強く感じた。