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シンポジウム第1分科会
「外国人労働者100万人時代」の日本の未来
~人権保障に適った外国人受入れ制度と多文化共生社会の確立を目指して~
シンポジウム第1分科会
「外国人労働者100万人時代」の日本の未来
~人権保障に適った外国人受入れ制度と多文化共生社会の確立を目指して~
会報「SOPHIA」 平成30年 10月号より
人権擁護委員会 国際人権部会 部会長 花井 増實
今まさに外国人労働者受入れの法案が国会で審議入りしようという時期に、1、あるべき外国人受入れ制度と、2、受入れ後の多文化共生というテーマで分科会が開かれた。特に、1に関しては、与野党から国会議員、経団連、連合、法務省から政策提言の中心的な人物を招き、最新の議論が行われた。
第1部 基調講演『外国人労働者受け入れと「人」の権利の保障―今、あらためて問う』(宮島喬氏・お茶の水女子大学名誉教授)
- 日本では、2017年10月時点で127万人の外国人労働者が働いているものの、その内26万人は技能実習生、30万人は留学生などの「資格外」活動者であり、正面から「労働者」として受入れをしてこなかった。
- 欧州では、戦後の経済成長のために外国人労働者が必要だったが、フランスは民族による選別をせず、ドイツは1961年からガスト(guest)アルバイターとして一時的な滞在を許可したが、その経験を経て長期滞在を許すよう方向転換した。西欧の労働組合は、外国人にも同一待遇を強く要求し、労働組合加入を義務づけた。1970年代からは、「人」としての受入れが進んだ。
- 移民・外国人の統合政策の展開は、(1)安定した滞在の保障、(2)社会保障的権利の保障、(3)民事的権利・市民的権利の実現、(4)第二世代の地位の安定・教育の保障の4つが柱となる。
- 日本は、正面から労働者としての受入れを開始する必要があり、①「技能実習」の名称廃止、②雇用主を変更する権利の保障、③(民間ではなく)公的機関による受入れ(送出し国との二国間協定の設置)、④日本語教育研修を国費で実施の4施策が求められる。
第2部 外国人受け入れ政策のあり方
- 技能実習生インタビュー(動画)
「母国で送出し機関に60万円支払った。来日後は朝7時~24時まで、当初は土日もなく働き、賃金は月平均14万円、支払いは一部振込で3~17万円、残額は金庫で管理され、残業代が支払われない」等の話がされた。 - 「強制帰国」の実態(鳥井一平氏・移住者と連帯する全国ネットワーク代表)
国連からも技能実習制度に対して繰り返し改善が勧告されている。低賃金、残業の常態化、パスポート取上げ、受入側に都合が悪くなると「強制帰国」させるという実態が空港で撮影された動画等を示しながら報告された。 - 日弁連委員からの報告
6月15日「経済財政運営と改革の基本方針2018」(骨太の方針)が閣議決定され、新在留資格の創設、賃金は日本人同等、滞在期間は上限5年、家族帯同なし等の方針が示された。同時に、「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」(案)が示され、多文化共生政策も進められているが、問題の多い技能実習制度を存続させる等、課題も多い。 - パネルディスカッション
・木村義雄氏(自由民主党外国人労働者等特別委員長・参議院議員)
東京のコンビニ店員はほとんど留学生であり、実体として外国人労働者が求められている。米国の留学生は80%授業に出席しないと退学となるが、日本では、アルバイトが許され、留学生が就労目的で来日している。技能実習についても、「カラスは白い」という受入れ方法は止め、「特定技能」の在留資格で労働者を正面から受入れたい。職場移転の自由は、制限しすぎると問題が生じる。
・井上隆氏(日本経済団体連合会常務理事)
グローバル化の中で、日本に魅力がなければ人材は集まらない。「受入れ」という言葉よりも「迎え入れ」が実態に適う。待遇を日本人同等にし、より長く働ける仕組みや上限の5年が経過した後の検討も必要である。
経団連でも、人権保障の観点から、サプライチェーン(製品供給網)における人権問題と位置づけ、大企業も取組を始めている。今後は、新制度が始まってから、これを検証する取組も重要である。
・石橋通宏氏(外国人の受け入れと多文化共生社会のあり方を考える議員連盟事務局長・参議院議員)
技能実習を廃止し、韓国の雇用許可制類似の制度創設を目指すべきである。骨太の方針は、家族の帯同禁止等、問題が多い。5年後の滞在継続の点も見据える必要がある。ブローカー排除のため、韓国同様に雇用主と労働者のあっせんを公的機関が担うべきである。日本語教育のコストも日本側で負担すべきである。法案提出は迅速にやって欲しい。
・村上陽子氏(日本労働組合総連合会総合労働局長)
人手不足の解消は、外国人労働者受入れだけでなく、他の要素の検討も必要である。
ただし、外国人労働者の受入れは、生活者受入れの視点が必要である。就業規則で日本人同等の賃金保障を定める等、法令遵守ができる事業所のみに受入れを認める仕組みを考えるべきである。日本語教育は労働現場の課題と捉えられるべきである。
・佐々木聖子氏(法務大臣官房審議官)
まず、新制度は、技能実習の上乗せでも代用でもなく、人手不足に対応するための別の制度であることを指摘したい。対象職種は未だ諸官庁と協議中であるが、建設、農業等、人手不足の対応が前提であり、それ故に滞在に5年の上限がある。新制度では「登録支援機関」を設置し、労働者の支援をさせ、適正化を図る。同機関を受入側で有効に活用できるようにしたい。法案は迅速に作成したい。
・鳥井一平氏
人手不足は待ったなしで、「教えても短期間で帰国」では、企業の希望とも合致しない。これまで30年間、外国人労働者の境遇を見てきたが、オーバーステイ、日系人、技能実習生と、隷属化の深度が高まっている。
第3部 「受入れ後」の多文化共生
- まず、日弁連委員のドイツ・スウェーデン視察の報告があった。ドイツでは2004年移民法制定で、国家レベルで統合政策を取り、スウェーデンは2015年11月から難民受入れが一時的滞在のみとなったが、労働移民には基本的に寛容で、社会的権利も国民同様に保障される。
- 次に、日本は、ヘイトスピーチの横行、入管での長期収容、在留外国人の社会保障、日本語教育等、在留外国人の政策課題も多いことが報告された。現状報告の後、外国人の教育問題に焦点をあて、北川裕子氏(のしろ日本語学習会代表)、松岡真理恵氏(浜松国際交流協会主幹)、田仁氏(東京都立一橋高校定時制教員)、長南さや佳氏(スウェーデン・マルメ大学移民政策研究所研究員)、宮島喬氏、渡辺マルセロ氏(日系人・行政書士)によるパネルディスカッションが行われた。研究者、当事者、現場教員に加え、在住外国人数が多く自治体を挙げて取組を進める浜松市、これと対照的に、在住外国人数が少なく予算も付かない能代市(秋田県)の民間団体と、多角的な視点から取組が紹介された。
- 議論の中では、大学、教育委員会、教師のレベルで総合的な政策が必要であること、日本企業は定住外国人の就職に消極的であり、その変革が求められること、外国人支援にあたる現場の担当者を法的にも予算的にも位置づけ、政策提言に繋げられるよう専門性を備えるべきであること、日弁連は法令、権利という側面では積極的に発言すべきであること等、活発な意見交換がなされた。