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連載 弁護士探訪 「子どもの権利をまもるスクールロイヤー」 ~竹内千賀子会員(59期)~

会報「SOPHIA」令和6年11月号より

会報編集委員会

 今回は「スクールロイヤー」として活躍される竹内千賀子会員(59期)にお話を伺ってきました。
 当会における「スクールロイヤー」の取組としては、令和元年から、自治体の要請があった場合に会員を推薦しています。竹内会員は、その6年も前の平成25年から一宮市で学校巡回相談を行い、スクールロイヤー的な役割を担ってきました。子どもの権利擁護活動をしている中で、学校側に子どもの最善の利益を考えて助言をする弁護士がいることの必要性を感じ、なんと、自ら一宮市に売り込んで、学校巡回相談を実現されたそうです。
 当会の「スクールロイヤー」の先駆け的存在ともいえる竹内会員に、「子どもの権利をまもるスクールロイヤー」への思いを語っていただきました。

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■法曹を志したきっかけを教えてください。
 母が四人姉妹の長女で、年下のいとこが6人おり、盆や正月にいつも世話をしていたせいか、子どもと遊ぶのが好きで、保育士になりたいと思っていました。ただ、高校で進路を考えた時に、文系志望だったので、法学部が一番現実的だと思って、大学は法学部に進学しました。自分の性格的にも、曲がったことは嫌いだし、困った人を助けたいという気持ちもあるし、理屈っぽいところもあるので、弁護士が向いているかなと思いました。
 大学4年生の時に司法試験を受験しましたが、択一試験で落ちました。働くのもいいかなと思って就職活動をし、採用された一宮市役所で働きながら司法試験の勉強をしました。最終的に合格してよかったです。
■主な業務内容やその変遷があれば教えてください。
 私の業務の3つの柱は、①子ども、②行政連携、③倒産再生です。
 最初の就職先である奧野総合法律事務所(東京)で、倒産再生案件を多く取り扱いました。当会に登録替えをしてからも、倒産実務委員会で活動し、最近は研修の講師等もしています。
 子どもの権利関係は、弁護士になった時からやりたいと思っていたので、東京弁護士会の子どもの権利委員会に入りました。東弁で行っていた「いじめ予防出張授業」を当会に持ち込んで、実現もしました。
 また、一宮市役所職員だった経歴を活かして、「自治体支援弁護士プロジェクトチーム」の立上げから関与し、行政連携の業務も行っています。
 こうして振り返ると、様々な経験をしたことが今の業務に繋がっているので、人生に無駄なことは一つもなかったなと思います。
 特に、スクールロイヤーは、子どもの権利と行政の双方の知識が必要といえる職務で、私がまさに注力してきた業務が掛け合わさった分野であることも、偶然ではないように思います。
■多方面でご活躍されていますが、スクールロイヤー(以下「SL」)になったきっかけを教えてください。
 もともとはSLという名称ではなく、学校へ行って先生の相談を受けるという「学校巡回相談」でした。子どもから相談を受けて学校と話す時に、学校の対応がおかしいとか、学校の先生の「子どもの人権」に関する意識が低いなあ、と感じることがありました。それで、子どもの権利の視点をもった弁護士が学校にいて、先生にアドバイスをすることが必要だと強く思いました。
 そこで、東京から愛知に戻ってきて独立したタイミングで、あちこちの知り合いや周囲の人に「学校の法律相談をやりたい」と話しました。その結果、話が繋がり、一宮市での実現に漕ぎつけることができました。
■令和元年から始まった当会のSL制度はSLを、「学校で発生する様々な問題について、子どもの最善の利益を念頭に置きつつ、教育や福祉等の視点を取り入れながら、法的観点から継続的に学校に助言を行う弁護士」としています。SLは、学校の代理人として活動することはあるのでしょうか。
 「SL」と呼ばれていても実は地域や制度ごとに活動内容が異なります。少なくとも当会の実施するSL制度は、学校の代理人として活動することは想定していません。保護者と会うこともしない前提になっています。
 もちろん学校側に代理人が必要であるというケースもあります。しかし、「子どもの最善の利益」を一番に考えて活動する弁護士その人が、学校の代理人として矢面に立つことは、矛盾を内包します。仮に代理人ではなかったとしても、学校側の話を伝えると対立関係の様相を呈し、そこから融和や次のステップに進みづらくなってしまいます。「子どもの最善の利益」を目指すアドバイスをするSLという立場で入る以上は、学校の代理人をすべきではない、と考えます。
 また、公立学校の場合、学校設置者である自治体は、その気になれば学校を擁護する代理人に依頼する費用等の予算を議会に通すことが容易ですが、子ども達の方は、自分達の利益を擁護する弁護士の予算を獲得することはほぼ不可能です。そうした絶対的な力の差がある現状において、弁護士会が弁護士をSLとして学校へ派遣する以上は、学校の代理人としてではなく、弱い立場にある子どもの権利をまもる弁護士を派遣するべきであるし、そこに意義があると思います。
■具体的に、学校からはどのような相談があるのでしょうか。
 いじめ、学校事故、それに伴う保護者からの過度の要求、PTA問題、先生のメンタル、体罰、教員の勤務の問題等、幅広い相談がきます。
 例えば、「わが子が体罰を受けた」と保護者から言われたが、当該教員は指摘された行為は確かにしたけれどもそれは体罰ではないから謝らないと言っているという事案で、学校の管理職から、対応に困っている、という相談を受けたとします。
 SLとしては、まず子どもの状態や意向を含め事実関係がきちんと把握できているかどうか、を確認します。
 学校側が起きた出来事をきちんと説明できない場合には、事実調査ができていないことが問題である、ということを指摘して再調査を促します。事実関係を把握した上で、次に、対応方法を検討します。体罰があれば当該教員の教育をし、それでも当該教員が謝りたくない場合には、その事実を保護者に説明して管理職の教育不行き届きを謝るなどです。
 学校の先生達は「常識」があるので、悪いことをしたなら本人に謝らせないといけないと考えがちです。だから、本人が謝らなくていいんですか!と驚かれます。
 しかし、内心の自由があるから、本人の意思に反して無理やり謝らせることはできない、謝らせること自体が人権侵害になる、ということを説明します(子どもについても同じです)。また、親にではなく、子どもに謝ったかどうかを確認します。
 そのほか、学校には、起きた問題はすぐに解決しないといけないという「常識」もあるので、話し合いが平行線のままであることを嫌います。そのため、無理に問題を解決したことにしようとすることもあるので、SLとしては、解決しない問題もあるということを理解してもらいます。
■「いじめ事案」について、SLはどのように関与するのですか。厚労省の「いじめ」の定義によると「当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの」とかなり範囲が広いもので、学校内の人間関係のトラブルの多くがあてはまる印象です。
 学校の先生は、子どもの問題は自分達で解決できる(と思っている)ので、例えばいじめ事案が起きても、それだけでは弁護士に相談に来ません。いじめ事案に関し保護者から不満や強い要望(クレームと言われます)が入った時に、困ってようやく弁護士に相談に来ます。保護者からのクレームは、そもそものいじめの問題が解決できていない(子どもが置き去りにされている)から生じているものなので、そもそもの問題を解きほぐすことになります。
 具体的な事例を通じて、学校の先生方に、いじめ事案への大人の関わり方について学んでもらうことで、次は子どもへの関わりが改善され、同じ失敗をしなくなります。これが事前予防です。この事前予防がSLの活動の本質だと思います。
■不登校事案について、SLはどのように関与するのですか。
 語弊があるかもしれませんが、不登校事案には基本的には関与しません。学校が、不登校を問題だと思っているようであれば、不登校は問題じゃないよ、という話をします。あとは、本人が希望するようであれば、不登校でも学校で授業を受けているのと同じ教育を受けられるよう手配するよう伝えます。
■学校の先生は、保護者対応についても悩まれることが多いと思いますが、SLとして、どのように関与するのでしょうか。
 まずは、家族構成等その家庭の状況を全部聞きます。学校側が答えられないようであれば、情報把握をお願いします。学校と保護者の関係も、やはり人対人なので、保護者の置かれている状況に応じて、保護者の悩みにも寄り添うような対応が必要です。
 また、先生と保護者が対立する必要はないですし、先生が保護者を言い包める必要も勝つ必要もないので、保護者から学校への要求に対して、応じられないことはきちんと線引きをして、できませんと回答すればいいとアドバイスをします。
 あと、学校へ暴力的な態度で申入れをする親は、家庭内でも子どもに激しいことや厳しいことを言っている可能性があるので、先生達には、子どもの居場所を奪わないよう、注意してみてもらうよう伝えています。
■SLとして「子どもの最善の利益」を判断する時、様々な事情や要素を検討すると思いますが、もっとも重要視していることはなんでしょうか。
 やはり、子どもの意思・意見です。時々、保護者の意見だけ聞いて、相談に来る方もいますが、子どもの意見を聞かずに動くと、解決に向かわない可能性が高いです。ですので、子どもの意見を聞くことが一番大事だと思います。ただ、子どもの意見は時間と共に変わっていくことがあるので、以前に聞いた意見に固執するのではなく、今現在の子どもの意見を把握しておくことが大事だと思います。
■大人は「子どものため」と言いながら、「パターナリスティック」に陥りがちになるように思いますが、そうならないためにどのようなことに気をつければいいのでしょうか。
 大人が、パターナリスティックになってしまうということを知っておくことが重要だと思います。「指導」という言葉から、ともすると大人と子どもで上下関係があるかのように錯覚するので、そうなりがちだと大人が知ることで補正ができると思います。
 子ども達から信頼される先生と信頼されない先生の分水嶺は、子どもを一個人として尊重しているかどうか、だと思います。
■SLのやりがいを教えてください。
 学校の先生の人権意識の底上げが、学校トラブルの予防につながる、という点だと思います。
 いじめが起きる教室は、先生が上下関係を作ったり、子ども同士を過度に競わせたりしていることがあります。それにストレスを感じる子どもが、そのはけ口としていじめを行うという構図です。他方で、先生が子どもを尊重して接している教室は、子ども同士も互いに尊重し合うようになり、いじめは起きにくくなります。
 私としては、先生達の相談にのって、その中で人権感覚を底上げすることで、教室でのいじめを予防できる、ということに一番のやりがいを感じます。
■SLになりたい場合、どうすればよいですか。
 まずは、当会でも研修がありますので、子どもの権利擁護について学んでください。学校が知り合いの弁護士に直接依頼する場合もありますが、当会へSLの推薦依頼が届いた場合、推薦依頼の内容にもよりますが、現在は、行政連携センター運営委員会、子どもの権利委員会、民事介入暴力対策委員会、弁護士業務改革委員会、法教育委員会、高齢者・障害者総合支援センター運営委員会等の委員の中から選ばれることが多いです。
 また、今後、学校に関する弁護士推薦の依頼に対応するために当会で名簿を作成することになるかもしれません。そうなったら、名簿に登載されるよう研修受講や子どもの権利擁護事案への取組をしてください。
■弁護士人生でのターニングポイントはありましたか。
 当会の副会長になったことです。これまで自分のことしか考えていなかったのが、副会長を経験して、弁護士業界全体のことも考えるようになり、視野が広がったと感じます。
■ストレス解消方法、休日の過ごされ方等を教えてください。
 推し(俳優)がいるので、出演するドラマを観たり、舞台を観に行ったりします。同じ舞台を何度も観に行ってしまいます。
■今後、挑戦したいことを教えてください。
 病児保育事業をやってみたいです。

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■当会の後輩達への応援のメッセージ等をお願いします。
 弁護士の資格は、無限の可能性がある資格だと思うので、小さくまとまらずに、やりたいことを伸び伸びとやって欲しいです。弁護士が必要だと感じる分野があったら、そこにトライしてもらいたいなと思います。あと、警鐘としては、楽にお金を稼げることはないので、甘い話には乗らないように気をつけて欲しいです。

 学校側に子どもの権利をまもる弁護士が必要だと感じて、自身の力でスクールロイヤーという道を切り開いてきた、その行動力に感服しました!
 弁護士としてのシャープな語り口の中にも、社会の宝ともいえる子ども達への優しく慈愛に満ちたまなざしが溢れていました。
 竹内会員、ありがとうございました!