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「無料」と謳った求人広告。しかし...

中部経済新聞2022年11月掲載
「無料」と謳った求人広告。しかし...

〈無料広告のトラブル〉

 昨今、事業者が、広告業者から「無料で求人広告を掲載しませんか?」と勧誘を受け、完全に無料で広告が利用できると考えてファックスなどで広告掲載を申し込んだものの、後になって広告業者から広告料金を請求されるケースが多く見られます。それらのケースでは、利用規約をよく読むと「無料期間終了の○○日前までに文書で広告掲載停止通知を送らない限り、広告掲載が継続し、正規の広告料金が発生する」などと定められてあり、広告業者がこの条項に基づいて「無料期間終了後の広告料金」を請求するというものです。このような広告掲載で、事業者には広告料金の支払い義務が生じてしまうのでしょうか。また、事業者として気をつけるべきことはあるでしょうか。


〈支払義務が生じるか〉

 まず、一般論として、支払義務の根拠となる「契約」が成立したかどうかについては、必ずしも面前で署名押印して書面を交わすような方法でなくとも、ファックスやメールなどで意思が通知されれば契約は有効に成立する可能性があります。そのうえで、事業者同士の契約では、たとえその契約の条項が一方当事者に不利だとしても、それだけではその契約全体や条項が法律上無効となったり取り消したりすることができず(特定商取引法によるクーリングオフ制度や消費者契約法による救済がなく)、原則として法律上の効力が生じてしまいます。
 そうすると、広告についても、ファックスで申し込んだことにより契約が成立したと認められる可能性が高いと考えられます。また、事業者である以上、「停止通知を送らない限り有料となる」という条項も、その内容が事業者に不利だからという理由だけでは、これを取り消すことはできません。したがって、勧誘の状況や規約の定め方によっては、事業者に広告料金の支払義務が生じてしまう可能性が否定できません。

〈申込前の注意点〉

 このことからすると、これから申し込みをしようとする場面では、広告業者の口頭での説明の内容にかかわらず、利用規約等に書かれた契約条件をしっかりと読み、法律的な結論について完全に理解できた場合に限って申し込みすることが重要だといえます。また、広告業者が口頭で「いつまでも無料です」などと言っている場合には、これを録音するなどして、後のために証拠として残すことも有用です。

〈有料化前の注意点〉

 つぎに、実際に契約をした場合で、無料期間終了後には契約を継続する意向がないときは、規約にある停止通知の期限までに、無料期間満了をもって解約する旨を書面で通知することが重要です。その通知手段としては、解約するという内容の書面が相手に届いたという事実を証明できる「配達証明付・内容証明郵便」を選択してください(詳細は郵便局の窓口や、日本郵便株式会社のホームページをご参照ください。)。なお、規約では広告業者指定の書式でのみ解約できると定められていることも多いところ、広告業者に書式を送るよう求めても無料期間満了間際にしか届かないとか、そもそも送られてこないなどのケースも見られます。重要なことは解約通知を送ることであって書式は問いません。規約が定める「書式」にこだわらず、前述の内容証明郵便で確実に解約の意思を通知することが重要です。

〈有料化後の注意点〉

 さらに、契約した場合で、有料で継続するつもりがなかったのに無料期間を過ぎてしまったときは、安易に放置せず、弁護士に相談するようにしてください。事案によりますが、弁護士が、広告業者に対して支払を拒絶する内容の書面を送付したり、広告業者が勧誘した際の説明内容や、規約が定める有料期間への移行前の広告業者による確認の有無などの問題点を指摘したりすることで、対応できる場合があります。
 もし放置してしまうと、有料とされる期間が長くなる結果、より高額化した広告料金を請求されてしまう恐れがありますので、お早目に弁護士に相談してください。

〈契約全般の注意点〉

 以上からも、申込前に契約内容(利用規約等の文言)をよく理解することが何よりも重要であることがおわかりいただけたと思います。このことは、無料求人広告に限ったことではなく、事業者として締結する契約全般について当てはまります。特に、契約の相手方が定めた契約条項については、「きっと自分に有利に解釈してもらえるだろう」という希望的観測は危険です。必ず全ての条項に目を通し、理解できない点があれば、弁護士に相談することが適切です。
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