1 「特定商取引法5年後見直しシンポジウム」について

 消費者委員会では、例年、一般市民の方向けのシンポジウムを開催しているところですが、今年度は、特定商取引法5年後見直しにスポットを当てたシンポジウムを2023年9月23日に開催しました。

 特定商取引法(特商法)とは、事業者による違法・悪質な勧誘行為等を防止し、消費者の利益を守ることを目的とする法律です。特商法は、消費者被害の実情に対応するため、これまでにも定期的に改正されています。2016年の特商法改正では5年後見直し規定が設けられているところ、2022年12月をもって同改正法の施行から5年が経過しました。
 現行の特商法では実効的な消費者被害の救済を図るだけの法整備になっていないとの声が強く、当会を含む多くの弁護士会から、5年後見直し規定に基づき「所要の措置」を講じる必要があるとの意見書が出されています。

 そこで、消費者被害の実態を的確に把握し、特商法5年後見直しについて議論を深めるべく、本シンポジウムを開催しました。

 本シンポジウムでは、特商法に造詣の深い薬袋真司弁護士(大阪弁護士会)をお招きし、改正法下における消費者被害の現状と課題等についてご紹介いただきました。また、5年後見直しに関する当会の活動をご紹介し、消費生活相談員や弁護士から実際の被害事例についてもご報告しました。

2 第1部 基調講演

 第1部では、日本弁護士連合会消費者問題対策委員会幹事を務め、特商法に関して深い知見を有する薬袋真司弁護士を講師にお招きし、「特定商取引法5年後見直しの現状と課題」というテーマでご講演いただきました。

 特商法については、従前より、①訪問販売・電話勧誘販売対策、②インターネット勧誘販売(通信販売)、③連鎖販売取引等(マルチ商法)に関して抜本的改正を行う必要のある課題が存在し、これについて、2016年の改正法において、施行後5年後の見直し規定(附則6条)が定められました。しかし、施行日から5年以上経過した今になっても、消費者庁では上記の点についての検討がされていない状況です。

 そこで、日本弁護士連合会(日弁連)は、上記の3つの類型について、「3本の柱」として、抜本的改正を求める意見書を出しました(日弁連の意見書はこちら)。
 その内容を一部紹介すると、①訪問販売について、「訪問販売お断り」の貼り紙を家の門戸に貼っておくなどの方法で、あらかじめ拒絶の意思を表明した場合、「契約を締結しない旨の意思」(特商法3条の2第2項)の表示に該当することを条文上明記すべきです。
 また、②インターネット勧誘販売について、契約申込みの方法と同様のウェブサイト上の手続による解約申出の方法を認めるべきです。
 さらに、③連鎖販売取引等(マルチ商法)について、国による登録・確認等の事前審査を経なければ、連鎖販売業を営んではならないものとする開業規制を導入すべきです。

 また、日弁連・各弁護士会・各自治体の意見書に基づいて、各地の弁護士会や自治体が取組みを行っています。特に、訪問販売に対するお断りステッカーの配布については、それぞれの弁護士会・自治体が多種多様なデザインのステッカーを作成し、配布することで、訪問販売に対する効果的な規制につながっています。

 若者のインターネット通信販売やマルチ商法での被害、高齢者の訪問販売・訪問購入での被害など、被害及び相談件数が減らない現状において、消費者庁に特商法改正の検討を開始してもらうこと自体が第一の課題となってしまっている点が、この特商法5年後見直しの根本的課題となっています。

特商法5年後見直しシンポ写真

3 第2部 愛知県弁護士会の取組み

 第2部では、当会消費者委員会委員長の岩城善之会員より、当会の取組みに関する報告がされました。

 当会では、日弁連意見書と同趣旨の意見書の提出(当会の意見書はこちら)、そして、訪問販売お断りステッカーの配布を積極的に行っています(当会の訪問販売お断りステッカーについてはこちら)。ステッカー貼付により、勧誘行為の減少につながっているとのアンケート結果もあり、現状では法的な効果はなくとも(愛知県では、ステッカーを貼ってある消費者を勧誘することを禁止する条例がないため、法的な効果はありません。)、勧誘行為を抑えることにつながっています。

4 第3部 事例報告

 第3部では、名古屋市消費生活センターで消費生活相談員をされている和田恭子さんより、化粧品の通信販売による定期購入及びマッチングアプリを通じた連鎖販売取引についての事例報告、当会消費者委員会副委員長平野憲子会員より、SNSを通じた消費者被害についての事例報告、当会濵尚行会員より、住宅リフォームの訪問販売被害についての事例報告がされました。

 報告されたそれぞれの消費者被害について、今後の被害増加が懸念されます。特商法改正により、被害減少につながると考えられるため、消費者庁による一刻も早い検討が望まれるところです。

 今後も、当会では、消費者被害の予防と救済のため、シンポジウムに限らず、継続的に取り組んで参ります。

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