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公開シンポジウム「豊川を考える」基調講演・講演録

【開演挨拶】

 名古屋弁護士会(現愛知県弁護士会)豊橋支部(現東三河支部)支部長 後藤年宏弁護士〕

 私は、この豊橋で育ちまして、一時関谷に住んでおりましたこともありまして、非常に豊川は身近 な川であります。泳ぎも豊川で覚えました。ボートハウスもありまして、和船を漕いだり、ボートの漕ぎ方を覚えたのも、豊川であります。材木が貯木してあり ました。材木屋さんの丸鋸がチーンという音をたてて、関谷辺りでは活気がありました。

 今はそうした人の出も、動きも豊川では見られません。私のいる頃には、川砂・砂利もトロッコで 上げておりました。時々、砂の中からしじみを失敬したりもしておりました。 今では祇園の花火の頃に、人出で賑わうと、護岸工ことは立派になされておりま すけれども、閑散とした人気のない川になっているんではないかと、思われます。

 大村には渡船場もありました。少し上流に行きますと、桜淵公園があります。もう少し上に行きま すと、長篠の古戦場、そして鳳来寺山、田口まで行きまして、小学校の3年生の頃に、鮎の友釣りを教えて頂きました。今、もうとても釣ることが出来ませんけ れども、餌を付けないで魚を釣るという始めての体験でした。

 現在その設楽町に巨大なダムの建築が進もうとしております。人の手が自然に入りますと、下流で もそうでありますように、段々人が寄らなくなり、場合によっては、そうした構築物が人を寄せ付けない、という状況にもなりかねません。現在そうした巨大な ダムが上流の人にも、下流の人にも、本当に必要であるかどうか、ということを考えて見なければなりません。

 本日は弁護士会が主催させて頂き、豊川を考えるシンポジウムを開催することになりました。どうぞ、最後まで皆さんも参加して頂いて、豊川水系のことを改めて考えて頂きたいと思います。宜しくお願い致します。

 

【講師の紹介】

 新潟大学工学部の教授をされておられる、大熊孝さんです。

 大熊さんは1974年3月に東京大学大学院、土木工学博士課程を修了され、その後1985年7月に新潟大学工学部の教授になられ、現在に至っておられます。

 代表的な著書としては、「洪水と治水の河川史」「川が作った川、人が作った川」などがあります。

 

【講演:川が川を作る、人が川を作る】

 1.始めに

 皆さん、こんにちは。新潟から参りました大熊と申します。今日は大変天気の良い日にこれだけ沢山集まって頂いて、ありがとうございます。

 こういうちょっと変な題で、お話をさせて頂いて、中で少し設楽ダムのことだとか、豊川のことを考えていけたらなという風に思っております。

 2.山と川と海とは一体である

日本の国土の特徴
(スライド2)

 最初こういう図(スライド2)がよく使われていますが、日本の河川工学という教科書には必ず出てくる図ですし、これは、国土交通省が建設省時代に朝日新聞に全面広告を出した時にも使われ ていた図です。日本の河川は急勾配で、洪水になると一気に洪水として流れてしまうし、渇水になりやすいということで、この絵を見せられると、多分私が財務 省の人間としてこの絵を見せられたら、確かにもう、日本はダム作らなければならないと、それでは4千億認めましょうとかという風についついそう認めたくな るような、マインドコントロールする絵だと思うのです。

 だけどもう一つ、これは重要なことを言ってるのです。日本の川は大変短いということを言ってい ます。短いとどういうことになるかというと、その川に落ち葉が落ちてそれがずーっと海まで行って、海の栄養になるとか、それで海から鮭だとか鮎だとかそう いうものが戻ってくるということもよく分かります。例えば、ライン川やなんかで、中流にいる人が山のこと、何百キロも向こうの山のことを考えろ、思えと いってもなかなか思い出せませんね。海のこと考えろといっても考えられません。だけど日本人であれば、昔からこういうことは知っていたのです。

水俣川上流の状況とそのサンチュに点在する祠
(スライド3)

 これはたまたま、水俣川、水俣の水俣川です(スライド3の上)が、その上流に土石流の跡があるのですが、山の中にお見せしている様な祠がいくつかあります(スライド3の下)。こういう祠が全部で30近くあります。

祠の中にある海の幸・サンゴとアワビ
(スライド4)

 川自体は20キロ位の小さな川で、流域面積もそう大きくありませんが、30近くもあります。そして、この中を見ますと必ず、こういう風に珊瑚だとか、それからこれが鮑ですか、海の幸を山の中の祠の中に祭ってあります(スライド4)。これは、海の幸というのは山の中の落ち葉や何かが流れていって、海が豊かなんだということを、みんなが知ってたからこういうことをやっているのです。

 逆に、山からの色々な栄養がきて、海を豊かにして、海に行けば必ず魚が食べられたから水俣病になってしまったというところもあるのですが、それくらい豊かであると、日本の川は全部基本的に山と海と川とが一体となっていた、そのことをみんなよく認識してた訳です。

 3.洪水が起きるからこそ豊かな川の恵みがある

1995年7月関川洪水で流出してきた土石
(スライド5)

 ただ時々、こういう大きな災害が起こるのです(スライド5)。200年に1回とか300年に1回こういう災害が起こります。そして、こういう災害のある中で、我々は生きてきた訳で、ただ川沿いにずーっと住んでた訳です。

 それは、普段の恵みの方が結局のところ大きかったということだと思うのです。災害に時々遭う一 方、トータルとして川沿いにずーっと住み続けてきたということは、川沿い、川からの恵みが沢山あったということで、逆に言いますと、災害に遭いやすところ でないと人間は住めないのです。本当のことを言うと、岩盤の様なところだったら全然人間は住めません。

 災害の遭いやすいところほど人間が住み着きやすい条件があって、それで時々被害に遭うという、 これが災害の本質なのです。川を全部コンクリートで固めてしまえば、それは災害が起こらないかも知れませんけれども、逆に人間はそこに住めなくなってしまう。先ほど後藤先生がその様なことをちょっとおっしゃっていましたけれども、そういうところがあるだろうと思います。

アユの食み跡
(スライド6)

 今見て頂いてるのが、鮎の食み跡(ハミアト)と言われるものです(スライド6)。川の中の石が砂だとか、ヘドロに埋まってない、そういう石のことを浮き石と言いますが、こういう間に、新鮮な水が流れて酸素をドンドン供給します。こういうところに沢山色々な生物が育ちます。

 これが苔が生えてきて、その鮎が食べたあとですが、この苔も、ドンドン成長していくと厚くなっ て美味しくなくなります。ですから、鮎にとってみると時々苔がはがれて新鮮な苔が生えてきて一週間ぐらいの苔が一番美味しいとか、それで鮎もにおいが良く なるとかという話なのですが、時々、石が転がって古い苔が生えて新しい苔が生えてくれることが大変大事なことなのです、鮎にとって。ということは、洪水が 時々起こってくれる方が良いのです。

 基本的に川というのは、その何百万年、何千万年の間、時々洪水が起こって撹乱が起こる、その中で生態系というのが作られてきている訳です。

 ですから、基本的に洪水であっても、無駄に流れてた訳ではありません、
 石を転がして、ちゃんとその川の生態系を確立するようにしてきたのです。

 4.河川工学への疑問~「川」の定義

 ところが、私は昭和38年に大学に入学しましたが、ちょうど40年前後を境にして大学で教育を受けた訳です。

 そこでは、洪水が無駄に流れていのでそれをため込みなさいと、それで普段に使うということで、一石二鳥だということでダムを作ることを一生懸命教わった訳です。

 それで私も、修士課程の頃は一生懸命ダムを作ることで、ダムの統合管理をやったらいいだろうと いう、そういう研究をやっていたのですが、ちょうど大学闘争があるなどして、自分の研究というのをもう一度考え直すという、そういう時があり、ドクター コースに行ってからは少し変わってしまったのです。

 それで、ともかくその時々川に撹乱が起こるということが川の生態系にとって大変大事なことなことなんだと、そういうことをまず知っておく必要があるだろうなと思います。

 私が川というのをどう定義しているかといいますと、地球における物質循環の重要な担い手である と共に、人間にとって身近な自然で、恵みと災害という矛盾の中にゆっくりと時間をかけて、地域文化を育んできた存在であると。今日そこの公明新聞を皆さん に買って頂いてると思いますけれども、その中にこれが書いてあります。

 下の定義は、河川工学の教科書に書かれている定義です。「河川とは地表面に落下した雨や雪など の天水が集まり、海や湖などに注ぐ流れの筋などとその流水等含めた総称である」と。この定義は、水循環の中に川が位置づけられているのです。私の方は、物 質循環で落ち葉が流れたり、土砂が流れたり、鮎が戻って来たり、鮭が戻ってくる、そういうことも含めて物質循環という定義をしています。

 下の定義ですと、ダム作ってもあまり心が痛みません。水は必ず1年経てば下流に流れていくのです。上の定義ですと、ダムを作ってしまうと、土砂を止めてしまいますね。木の葉も流れなくなりますね。鮎も上って行かなくなりますよね。

 そういう意味で僕は、川の定義は上でいくべきだと、下の定義でずーっと教育してきておりますか ら、今、土木工学科というところを出て、川のことをやっている人はみんな下の定義で考えていますから、ダム作ることに何らその、後ろめたい感じはしていま せん。上の定義で教わるべきだと思うのです。

ダムとは?
(スライド9)

 基本的にダムというのは、川の物質循環を遮断するものであって、川にとっては敵対物なんだと、そういう認識でいくべきだと思います(スライド9)

 我々は日本国中に今3千近いダムを作っていますが、ダムが作れそうだと思うと、あらゆるところにダムを作ってきたのです。で、やはり私の様な定義であれば川にお願いして作らせて貰う。

 私はやはり、日本のこの土地に1億2千7百万人が住むためには、ある程度ダム作らざるを得なかったと思います。そういう時に、川にダムを作らせて下さいとお願いして作るのか、ただただドンドン作りたいと考えるのか、その差はすごく大きかったと思うのです。

 恐らく今3千ぐらいあるダムのうち、半分以下で済んでしまったのではないのかな、という気もします。

 ですから僕は、川の定義ていうのは、すごく大ことだなという風に思います。特に教科書にどう書くかということは決定的なのかなと。

 5.地方のダムは都市の電力供給源にすぎない

 新潟の話で申し訳ないのですが、阿賀野川から只見川には17のダムがあります。ここに昔は鮎がドンドン上ってきていました。それから、鮭も何万匹と上っていました。

 その鮭を捕って、縄文時代から我々は住んでいたのですが、要は発電の為だけの川にしてしまったのです。他の川の機能をなくしてしまったのです。

 こういう川の扱いですから、この鹿瀬ダムと言うのが出来て、それで昭和電工がアセトアルデヒトを作って水銀を垂れ流して、新潟水俣病が発生したのです。こういう川の扱いだったら、そうなってしまうのもしょうがないのかなという気もします。

 一生懸命私の川の定義を普及しようと思ってるのですけれども、なかなか、全体には伝わらないですね。

阿賀野川・只見川における発電形態
(スライド10)

 ここで非常に気に食わないのは、ここに磐越西線というのが通っています。これは電化されていません。川の発電で電気を一杯上に出しておいて、それで東京やなんかはドンドンやっていますが、足下のところはJRも電化されていないという、馬鹿げたことが起こっています。

 (以上について、スライド10)

 川の恵みは基本的に最初に川沿いの人間が貰うべきだというのが私の考えです。それは、当然水害 に遭うわけだからです。それで、地元で使って充分余ったら他に差し上げて良いと思うのですけれども、ここは逆なのです。余ったやつだけ少しお裾分け頂いて 電気を灯してるという感じになっています。

 これは阿賀野川だけではなくて、信濃川もそうです。信濃川の中流部は、東京電力の西大滝ダムと いうのがあるのですが、この辺に長野県と新潟県の県境があります。少し新潟県に入ると宮中ダムというのがあります。これはJRの発電用ダムです。東日本 JRが使っている電気の25%をこれで賄ってます。

 平均流量は年平均で毎秒250立方メートルです。そのうち317立方メートルも取水してしまいますから、下流はカラカラです。

 水温は夏になるともう30度を超えてしまうということで、普通の魚は25度を超えるとなかなか住めないという話を聞いております。

 実をいいますと、この電気で東京の山手線を動かしています。でも、山手線に乗っている人はこのこと実を全く知りません。で、ここでも癪に障ることに、ここに飯山線という長野まで行くJRがありますが、これも電化されていません。

 ですから、東京の電車を動かす為に電気を出す、作っていますが、地元の電車は全然電化されてない、といったこういう馬鹿げたことが行われている。

信濃川中流部の発電形態
(スライド11)

 今までやはり、日本の明治以降の開発は東京中心でして、それは間違いないことで、地方のことなど考えられていないというのが実態だと思います。

 (以上について、スライド11)

鹿瀬ダムとその魚道(1928年)
(スライド12)

 こういうところにこういう魚道が作られています(スライド12)が、階段状の折れ曲がった魚道でなかなか魚が登らないというのが実態です。

 信濃川の場合も、ここに昔は何万匹と鮭が上ってました。信濃川の河口から290キロ上流の松本 まで、5万匹鮭が上ってきたという記録があります。それが今全然上れないという状況です。長野の子供達が鮭を放流しているのですけれども、それが全く戻っ てこないという馬鹿なことを今もやっていますが、時間があればまたお話しするとして、進ませて頂きます。

 6.治水計画~治水容量、利水容量のまやかし

ダムでの堆砂の仕方
(スライド13)

 ダムの土砂の貯まり方というのは、こういう風に貯まっていきます(スライド13)

 当然ですね。水が貯まってるところに洪水が入り込んできて流速が急激におちるから、重たい土砂をこの末端で貯めていくため、こういう貯まり方をします。

 ところが、治水計画のダムの計画の容量の取り方、洪水調節容量ですとかについて、これは川辺川ダムのこと例ですが、利水容量とか、堆砂容量というのを取りますが、堆砂容量は水平にしか考えていません。ここに一つ、河川工学のダム工学の弱点があるのではないかと思います。

流域面積62km
(スライド14)

 これは設楽ダムです(スライド14)。設楽ダムもこの堆砂容量はこう水平に考えていますね。さっきのように土砂がこう貯まっていくのだからと、百年間分でこれだけ貯まるという百年間の堆砂容量ていうのは取っています。

 だけど現実にはこう貯まっていく訳ですから、利水容量、治水容量を造った瞬間からドンドンくわ れていっている訳です。で、この治水容量、利水容量の為に巨額なお金を出している訳ですから、それが毎年出来た途端に減っていってる訳です。水平に考えて いるというなら、だいぶ矛盾するところだと思います。

 序でですが、設楽ダムのこの堆砂容量、1年間で1平方キロメートル辺り出てくる土砂の量は、他のダムから見るとちょっと少な目ですね。そういう地質なのかとは思いますが、この辺ちょっとチェックする必要がある。もうちょっと大きくても良いかという気はしています。

 それから、洪水調節容量が設楽ダムの場合、1900万立方メートルだと言いますが、そういうこ とを言われてもちょっと分かりません。流域面積、つまりこのダムより上流の雨が降ったらそれが全部流れ込んでくる流域が62平方キロメートルです。ですか ら、この1900万立方メートルで、降った雨を何㎜貯められるかということを考えると、306㎜までため込めるということです。豊川の治水計画では、1日 に306㎜降るという雨を想定して考えているわけです。

 降った雨は全部流れてくる訳ではありません。しみ込んだりして、山の中やなんかですとちょっと 多めにみて、降った雨の8割ぐらいが流れてくるとすると、380㎜ぐらい降っても全部ため込めるという、そういう大きさです。ですから、この治水容量というのはかなり大きな容量であるという風に考えて頂いていいと思います。

 それから利水容量の7千7百万立方メートル。これを流域面積の62平方キロで割ると、1242 ㎜です。この設楽ダムの上流は1年間にどれ位雨が降るのですか、...多いときで2000㎜位か...私今回忙しくて、雨量データまであたってきていませんので、 皆さんの方でチェックして頂きたいのですが...降らない時にはもっと少ないだろうと思いますけれども...、そのうちだいたい3分の1位が蒸発します。そうする と、2000㎜降ったとしても、1300㎜とかそこいらが流れ込んでくるという状況で、それを全部ため込めるという、そういうダムであるということです。 逆に言うと、雨の少ないときには7千7百万立方メートルたまらないダムでもあるということです。

 ですから、流域面積からみて、恐らく日本のダムの中で五本指の内に入る巨大なダムだということになるだろうと思います。ダムの大きさというのは、やはり流域面積との比較で考えなければいけないと思います。

 1000㎜以上ためられるダムと言うのは、日本の中で本当に数えるほどしかありません。日本の 平均的なダムの規模は100㎜です。100㎜から200㎜です。ですから、それの10倍か5、6倍あるという、そのような利水容量で見てもかなり巨大なダムであるということです。その辺を少し頭の隅に入れておいて頂いて、あとのパネルディスカッションの時の参考にして頂ければと思います。

 7.堆砂容量と排砂ゲートの問題

 先程、堆砂容量は水平にしかとらないと言いましたが、唯一このように斜めに取ったダムがありま す。これが黒部川の宇奈月というダムです。この黒部川の宇奈月ダムは、排砂ゲートというのを持っておりまして、洪水の時に、ピークが過ぎた後で、その土砂 を下流に流すというものです。

 今までのダムは、この排砂ゲートがありませんから、いずれ、先程百年間分の堆砂容量を考えてる と言いましたけれども、いずれ5百年先か千年先か分かりませんけれども、土砂で満杯になってしまうのです。その時どうするということを全く考えないで作っ てきたのです。それで、宇奈月ダムでは、黒部川ですごく土砂が多くて、すぐたまってしまいますから、排砂ゲートを設けたのです。

宇奈月ダムの計画堆砂面は傾いている
(スライド15)

 その排砂ゲートを設けた中で、堆砂容量を始めてこのように斜めにとったダムです(スライド15)。 3千いくつあるダムの中で堆砂容量を斜めにとったのはこれだけです。それで、あの宇奈月ダムの上流には、関西電力の出平ダムというのがあります。これが、 排砂する排砂ゲートを備えた最初のダムです。そして、どうやって排砂するかと言いますと、普段水があると、土砂は流速がおちて流れませんから、空にしま す。空にして、土砂を流動で押し流します。

黒部川・出し平ダム(関西電力)土砂吐けゲートによる排砂の仕方
(スライド16)

 洪水のピークの時は下げませんが、洪水のピークが過ぎてから急いで空にして洪水の末端の押し流す力、掃流力と言っているのですが、掃流力でその土砂を押し流すということをやっております。

 そして、この出し平ダムが出来て、その下流に宇奈月ダムが作られて、今、この連携排砂ということで、排砂をしております(スライド16、スライド9。 実を言うと私は、この排砂を許可する、排砂評価委員会というところの委員の一人をやっていますが、6年間程、排砂しなくて土砂をため込んでみました。そう したら、落ち葉が無酸素状態でヘドロ化しまして、それを海にドーンと捨てたものですから、海がヘドロで一杯になって魚が死んだのです。

 そして、そのあとどうも富山湾の漁場が回復しないということが言われておりまして、毎年わりとすぐ満杯になってしまうダムなのですが、毎年土砂を流しているのですけれども、その漁場が回復しないということで、私は漁民から今責められています。

 今のところ、ダムの発電を止めて全部ゲートを上げてしまえば、自然状態になるのですけれども、 まだ発電を止めるというところまでコンセンサスが得られていないので、年に一回排砂をしながらこのダムの維持をしているのです。可能な限り分かるデータは 全部、水質から何から全部とっているのですが、、今のところ科学的なデータとしては、毎年排砂していれば影響はないだろうという結果になっています。ただ 富山湾の漁場が回復してないというのもこと実です。その辺でちょっと問題がありますが、そういう排砂が出来るダムがあるということですね。

 もう一つ、これもやはり関西電力のダムですが、奈良県の十津川にある朝日ダムと言うダムは、この辺分かりにくくて申し訳ないのですが、20年ぐらい前に、作られました。

 それで、土砂がだいぶたまってきたので、平成10年にバイパストンネルを作りまして、普段の洪水が来ると、このトンネル最大通水量は毎秒140立方メートルですが、洪水時には1000立方メートルぐらいが来て、1割ちょっとしか流せないのです。

 しかし、洪水の時の土砂は下の方が濃いですから、その濃いところ全部こう流すということで、このダムにとって堆砂は、それまでの堆砂した状況から10分の1の量に減りました、堆砂量、1年間にたまる量が、です。

十津川水系旭川旭ダム(関西電力)の土砂バイパス
(スライド17)

 それで、その代わりに、実はこの中のコンクリートが、中を大きな石がゴロゴロ流れますから、側 壁が全部引っかかれて、だいぶ摩耗したりなどするのですが、冬の間は洪水がないので冬の間に補修すればいいだろうということでこういうことをして、それ で、下流に大きな石が流れてくるようになって、また鮎たちが育ち始めたということが言われております。

 (以上について、スライド17)

土砂の堆積は見苦しい。警官の破壊
(スライド18)

 ただ、この十津川には下流まで一杯ダムがありまして、このダムだけこういうことやっても、十津 川全体としては生態系が回復したという訳ではありません。まだ部分的なのですが...ともかく今3千くらいダムがある内、こういう土砂対策が現在完成してるの はこの3つだけです。それで、今実は天竜川の四川の壬生川に三和ダムというのがあります。これがダムサイトです。土砂がこんなに貯まってきました(スライド18、スライド19)。 昔は良い、すばらしい渓谷だったのが、本当にみっともない姿で...。私は土木屋ですが、土木屋としてやはり国土を作り替えて、それが見苦しくなっているとい うのは、やはり私としては我慢のならないことです。我々の作ったものが、やはり美しくあってほしいと思っているのですが、こういう状態になってここにやは り土砂バイパスを造ろうということで、今現在、工事が行われております。こういうトンネルを造っています(スライド20)

美和ダムの排砂システム
(スライド19)

佐久間ダム
(スライド20)

 私が1年半前ぐらいに見に行ったとき、半分ぐらいまで出来てましたが、もうかなり出来てきてい るのではないかなと思います。それで、ここは、確かに土砂を下流に流しますが、側壁が摩耗するといけないということで、上流にこういう貯捨ダムと言うのを 作りまして、大きな石は全部ここで掘削、浚渫してダンプトラックで運搬して細かい物だけ流すということにしています(スライド21)。これは確かにこうすればダムの堆砂は防くことができますけれども、細かい物ばかり流すと、浮き石の間にその細かい土砂が入ってきて、酸素を含んだ新鮮な水が石の間を流れてなくなります。

天竜川ダム再編事業
(スライド21)

 そうすると、トビケラとかそういう昆虫が育たなくなってしまい、川の生態系が壊れるということで、三和ダムの場合は、川の生態系まで配慮したものではありません。自分のとこだけ、堆砂で満杯にならなければよいいうやり方です。

 徐々にこういう風に排砂をするダムは出来つつありますが、今、天竜川をちょっと見て頂いていますスライド18。 天竜川も、ダムが一杯出来て、前後のダムは全部満砂しています。「満砂」というのは、ゲートを上げる天場まで全部土砂で一杯になっている状態です。ただ佐 久間ダムだけは、3億2千680万立方メートルの内、今、1億2千680万立方メートルぐらい土砂が貯まってしまいました。昭和31年に作られましたか ら、これが出来て48年ですか、佐久間ダムが出来たときには、私は小学1年生くらいでしたが、世界銀行からお金を借りて造ったりした訳ですし、このダムが 出来た時には、これで日本の戦後のあの電力不足は解消できて、日本はこれから復興していくということで、提灯行列をやったような思いもあります。そういう 風に日本国中が喜んだダムでした。ところが、半世紀経たずして土砂がドンドン貯まっていて、今、毎年40万立方メートルぐらいはダンプトラックで運び出し ていますが、100万立方メートルぐらいドンドン貯まってきています。で、もうどうしょうもない、このまま放っといたらどうしようもないということで、排 砂ゲートを造るか排砂バイパスを造るかそういうことを、今700億円ぐらい予算がありましたか、この天竜川の土砂対策をどうにかしなければならないという ことで、国土交通省が調査・研究を始めて、事業化に踏み切ろうとしております。

 ということで、日本の多くのダムがかなり排砂で、排砂というか堆砂問題で、喘いでいるというのが現実です。で、基本的にダムというのは副作用の多い激薬だと、出来れば使わない方がいいということだと思うのです。

 8.治水の問題

 利水の方はちょっと後でパネルディスカッションで議論出来ればと思っておりますが、治水の方で ダムがない場合に何とかなるかどうかという議論です。今までは、川の中に洪水を押し込めて、早く海に突き出す、あるいはダムに貯めてということで、川の中 だけで全部洪水を処理しようという考え方、それを「河道主義治水」と言っておりますが、それではどうしようもなくなってきてるというのが現実なのです。

 それで、「氾濫受容型治水」に変わらなければいけないということを考えていますが、実は国土交 通省は、1977年からそういうこと考えています。それで総合治水対策ということを言っていますし、1987年には溢れても堤防が切れさえしなければ大水 害にならないだろうということで、スーパー堤防を。それから1997年には河川法を改正して第3条に樹林帯と言うものが入ってきました。これも後でお話しします。更に、2000年の最後の河川審議会では、溢れた場合でも何とか安全な人が死なないそういう治水をやればいいのではないかという、そういう答申を 出しておりますね。

木曽三川の改修方針
(スライド23)

 河道主義治水というのはどうしておこってきたのかということですが、これは木曽三川の状況です(スライド23)が、 木曽川、長良川、揖斐川が入り乱れていて、上流から土砂を含んだ洪水が流れてきますと、平野に出てきてバーッと広がる訳です。そうすると流速が落ちますから、全部平野に土砂を置いて行く訳です。そこで、そこを開発して輪中をつくって、稲作をしたり何か得たりしていて、時々水害に遭うということで、先ほど 言った様な災害の本質がここにある訳です。

 ある段階から、もう土砂が氾濫してもらっては困るということで、お雇い外国人で有名なデレーケ がこの木曽三川を設計し直す訳ですが、要は何をしたかと言うと、川幅をきちっと制約して、水深を深くして洪水時に土砂を海まで押し流し、途中に土砂を置い て行かない様な川にしようということで、こういう風に河道、川の道を堤防ではっきりと、決めてしまったのです(スライド23)。先ほど言いました掃流力というのを高めるということで、もともとは土砂対策でこういうことがされていたのを、土砂のことはちょっと忘れて、洪水を川の中に押し込めればいいという、そういう感覚で明治以降の治水が行われてきてしまったわけです。

利根川の高水流量配分図
(スライド24)

 今見て頂いてるのは、利根川の治水計画を決めている高水流量配分図って言われるものです(スライド24)>。これは多分、世界で一番複雑な治水のやり方だと思います。

 それで、基本高水、後でお話しますが、計画対象となるピーク流量が2万2千トンで、そのうち6 千トン分ぐらいは、上流のダム群で貯めて、1600トンだけ川に流して、途中から入ってくるものや、渡良瀬遊水地でため込むものや、江戸川に分派するもの だとか、こう色々考えられています。ところが、上流のダム群というのは、今八ツ場(ヤンバ)ダムというのが大変問題になっていますが、あれも戦後すぐに計 画が出て、まだすったもんだやって、まだその本体着工はしておりませんけれども、あれが出来たとしても、3千トン分ぐらいしかカット出来ません。残り3千 トン分ぐらいどうするのかというのは、何ら解決が付かない状況にあるのですね。

信濃川治水計画流量配分図
(スライド25)

 それからもっとすごいのは、利根川というのは本来もともと東京湾に流れていたのを、明 治時代、足尾鉱毒事件の関連で足尾鉱毒水が江戸川の方に流れてきてもらっては困るということで、千葉県と茨城県の間の利根川流に、利根川の洪水を押し込み ました。それで、その補償工事として、利根川放水路というのは考えられたのです、昭和14年に。ですがこれが未だに放置されておりまして、この利根川放水 路の計画線の上には家が一杯建っていて、絶対に作ること出来ないと思います。ということは、利根川の治水体系というのは、絶対に完成しない状況にあるので すね。これは利根川だけではありません。

信濃川水系概念図
(スライド26)

 信濃川もそうです。信濃川も基本高水は1万3千500トンで、そのうち2500トン分 を上流のダム群で溜めようと言っているのですが、それに必要な総ボリュームは3億2千万立方メートルぐらいと言われています。今現在出来ているダムは、大 町ダムの2千、サグリ川の1800万、それから阿武隈川の1260万、とてもこれに足らないのです。その足らない状況の中で、実は千曲川上流ダムというの は白紙になりました。京津川ダムは中止になりました。この中止をする委員会の一員で私は入っていましたが、ということは、信濃川の治水計画は完成しませ ん。どうするのですかという問題があるのですね。

 (以上について、スライド25、スライド26)

豊川の流量配分図
(スライド27)

 同じことが豊川にもあります。豊川は石田地点で流域面積が545平方キロ、まぁまぁ中規模になろうかと思いますが、基本高水と言われるものは毎秒7100立方メートル、これが治水計画の対象です(スライド27)。 そのうち3千立方メートル分は上流のダム群でため込んで、ここの石田地点には4100立方メートル毎秒あたり流そうということになっているのですけれど も、この設楽ダムで千トン分はカット出来るとかいう話なのですが、出来たらの話で、あと2千トン分はどうするのですか、前に寒狭川ダムというすごい3億ト ンとか何とかいう規模の計画を持ったダムがあったと思うのですが、あれはもう完全に中止になったとかいう話ですが、要するにこの治水計画は完成しないのです。設楽ダムが出来たって完成しないのです。だからどうするんだということ、やはりきちっと国土交通省は言うべきだと思います。

 それで、これは今、利根川、信濃川、豊川の話をしましたけど、石狩川でも同じです。吉野川でも 同じです。日本国中のほとんどの川が何時まで経っても完成しない、そういう治水計画を抱えていて、当面その場しのぎのことだけをやろうとしているというの が、現在の実態なのです。それで、私は、これを何とかやはり日本の河川工学の名誉にかけて、こういう治水計画は再検討して、きちんと国民に説明できる、説 明責任を果たす、そういう治水計画にすべきだということをずっと言ってきているのです。この30年間ぐらい言ってるのですけれども、全然そういう方向には 行ってないというのが実状ですね。

 9.基本高水と「技術の自治」

基本高水とは?
(スライド28)

 基本高水と言うのがなかなか難しいので、この図表(スライド28)をちょっと皆さんに理解して頂きたいなと思うのですが、計画を立てる上で計画対象とする洪水のハイドログラフと言うのです。時間と流量のこういうものをハイドログラフって言うのですね。河川砂防技術基準案にのっとり計画対象の降雨から流出計算で求められるものです。

 これはハイエイトグラフと言いますけれども、こういう雨量があった時に、こういう洪水が流れて くるから、このうち一部分はダムでカットして残りを川に流しましょうと、いった様なことを決めるその一番基本になるものが基本高水と言われているものなの ですね。で、この河川砂防技術基準というのは何なのかということなのですが、河川に関わる技術のすべて取り仕切っているもので、これに従わないと、補助金 が下りてこないという、そういうものです。ですから、ダムを作りたい、川を改修したいといった時に、河川砂防技術基準に乗っ取って色々計画して、国土交通 省まで上げて、お願いして、補助金を頂いて工事をやるという仕組みになっているのですが、私に言わせると技術の中央集権化が進んでいるという言い方をして います。まあ、日本の道路であろうが、川であろうが、建物であろうが国が決めた基準に従わないと補助金が下りてこないのですね。田んぼの圃場整備もそうで すね。で、長野県の栄村というところでは、補助金はいらないから自分のやり方で圃場整備させてくれということで、補助金貰わなくてももっと安いお金で、田 んぼの農地造成をやったりしていますけれども、今の日本は少し中央で決めた技術基準に従いすぎているというのが、私の感じです。

 それで私は、最近、技術にも自治があるべきだということで、技術の自治という様なことを少し口走っているのですが、ついでに宣伝ですけれども、この2月28日に私の本が出ますので買って下さい、農山漁村文化協会という本屋から「技術にも自治がある」という題で、変な題ですけれども、そういう題で、副題が「治水技術の伝統と近代」というので出ますので、是非読んで頂ければと思います。

 ここで、ただ一つ問題なのはですね、この技術基準ってのは、昭和33年に決められた時には技術 基準だったのです。51年に改訂されてから案が取れてないのです。だから案が取れてないんだから従わなくたっていいんじゃないかと私は言うのですけれども、これに乗っ取って出さない限り補助金が下りてこない。案などが付いてるのはまやかしなのですね、だからもう取ってしまえと言ってるのですけれども、取 れないのです。だから問題があるのです。

雨量と流量の測り方
(スライド30)

 その前に、雨の計り方とか、流量というのはどういうものなのかと言うと、雨量を直径20㎝のこういう雨量計で計るのですね(スライド30)。だから流量というのは、こうやって浮きを流して、ストップウォッチで流れた流速を計って、この川の断面積がどうなのかということを洪水の前と後に計って、それで流速をかけて流量を求めているのですね。

 洪水が実際流れてる時に川の断面がどうなっているかは分かりません。洪水が終わって行ってしまうと土砂が堆積しているかもしれないのですね。ですからこういう洪水の計り方では、誤差が多いということです。

 雨量の方もですね、この雨量がここが雨量あの雨量計のあるところですけれども、これで、どれくらいの面積の雨量を代表するかというと、だいたい10億倍ぐらいです。直径20㎝の雨量計で計ったもので、何10平方キロの雨量を代表する訳ですから。

ティーセン分割法・等雨量線法
(スライド31)

 このやり方はです、ティーセン法という、雨量計と雨量計の間に二等線を引いて、この雨量計でここの間代表しますだとか等雨量線法で等雨量線を引いてそれでこの地域にこれだけ雨量がありましたという様なことをやる訳です(スライド31)。ですから、雨量だとか、流量だ等と言っても、1割や2割の誤差があるものなのです。

 そういう誤差があるものだということで対応していくべきなのですけれども、一度数字が歩き出しますと、もう絶対正確なものだというかたちで皆さん理解してるし、技術屋の方もそれでみんな押しつけるのです、皆さんの方に。その辺にかなり問題があります。

 そういう雨量だとか、流量の実測の値を前提としながらどういう風にして決められているかといい ますと、河川の重要度を決めます。豊川の場合150年に1回でしたか、それも今言いましたように、計画規模を決めて、その計画は150年に1回だとか、 200年に1回だとか、100年に1回ですから、実際そういう雨が降ってないところの方が多いのです。

 その計画規模まで実績の雨を引き延ばして、それを降らせてみて、流出解析といわれるもので先ほどのハイドログラフを見つけるということをやるのですけれども、その問題点は、雨量の引き延ばしのところなのです。

 降った継続時間はそのままにして時間雨量を増やすのです。それで、基本的に沢山雨が降れば降る ほど降ってた継続時間も長いはずですから、私は継続時間だって長くして議論をしなければおかしいんじゃないかと、いうことを言っているのですけれども、時 間雨量の引き延ばしをやっています。

出典:河川砂防技術基準(案)
(スライド32)

 それで、ハイドログラフ、基本高水を決めるのですけれども、計算した結果いくつか出てきます。 いくつか出てきた中で「カバー率50%以上」という変な言葉が使われているのですけれども、計算した結果の真ん中より上のものを基本高水、計画ハイドログ ラフとして、基本高水にしたらいいということが河川砂防技術基準に書かれている(スライド32)のですが、実は、ほとんどの川で計算された結果の一番大きな値を基本高水に採ってます。勿論、カバー率が80%ぐらいの川もあるのですけれども、日本のほとんどの川がカバー率100%といわれるものだと思います。

計画降雨量の決定
(スライド33)

 そこで、まず計画の重要度ですけれども、利根川、淀川は200年に1回ですね、信濃川とか豊川は150年ということで、150年に1回降るような雨を対象にしようということで、こういう確率紙というものを使って、いろんな方法がある(スライド33)のですけれども、これで100年に1回降る雨が過去の統計から何㎜だよと言った様なことで決めている訳です。これは他の川のこと例ですから、豊川の事例でなくて、242になっていますけれども、豊川の場合は314㎜、150年で316㎜という値になっている訳です。

実績降雨群の拙出
(スライド34)

 計画降雨というのが出されたら、過去の実際の雨の降り方を持ってきまして、その計画降雨まで時間雨量を引き延ばすのですね、この黄色いところが引き延ばしてるところです(スライド34)。で、 ただ引き延ばし率をあんまり何倍もしたらそれは余りにひどいだろうということで、引き延ばし率をだいたいのところは2倍以下にしなさいという風に河川砂防 技術基準には書かれてます。ただ、2倍という根拠はどこにあるかというのは、何にもありません。2倍ぐらいということでやっているだけなのです。先程言い ました様に、本来は降雨を引き延ばせば、降雨継続時間も長くなるんだから、そういう継続時間の方も考慮すべきではないかと、そういうデータはとりうるだろ うということを私は言ってるのですけれども、ともかくそういう形で計画降雨で引き延ばして、いくつか流出解析をやってハイドログラフが出てきました。この 中でカバー率50%以上であればいいということを言っているのですけれども、この中で普通一番大きいものをとっているということです。

計画降雨の流出解析
(スライド35)

 今お見せしてるのは、これは長野県の脱ダム委員会で使ったときの資料で、これは浅川ダムの事例ですが、このようにされています(スライド35)

 10.豊川の利水

 豊川の場合どうなのかというと、これはあの水源開発問題全国連絡会の嶋津暉之さんが作られた図 表からちょっと取ってきてるのですけれども、この辺の数字に若干違いがあるみたいなのですけれども、取りあえずこれでおおよそのことは分かると思いますので、これを使いたいと思います。

豊川の基本高水流量の計算結果(石田地点)
(スライド36)

 豊川の場合は、その実績降雨を316㎜に引き延ばして、流出解析したら計算された最大 流量がこういう値なのですね、一番大きいのが7110、一番小さいのが3720。それで、この一番大きい7110ということで、7100立方メートルを基 本高水のピーク流量にとっている訳です(スライド36)。50%以上でよければ、6千トンぐらいになってしまうのですね。b

 だから、基本高水を6千トンぐらいにとれば、設楽ダムはなくたって、千トン分いらないというてことになる訳です。

 ここで問題なのは、計算した結果が、もう少し幅が狭ければ私は何とか納得するのですけれども、 こんなに離れてるのですね。7000から3700、普通の科学技術の計算値でこんなに幅があるものなど他にないです。これは、そういう意味ではやはり参考 値なのです。これが絶対正しいという値ではないのです。ですから、こういう幅の中から我々がどういう治水をやるのかを選択するときの参考値なのです。b

問題点・継続時間を固定した降雨量の引き伸ばし
(スライド37)

 これは、これもその継続時間と実績の雨との関係です(スライド37)が、データが沢山ありましたが継続時間で実際の雨量を全部とろうとしてもらいました。

 その実績降雨を引き延ばした事例ですけれども、こういう実績雨量をここまで引き延ばしてるとい うことです。それで、こういう値になってこれがどういう確率になってるのかというのをチェックしてもらったら、もともとこれが100年に1回の確率の線の ところ、200年に1回だとかそういうところ超えてしまっています。

 だから、その継続時間のことをきちんと考慮して再検討するとかなり高い確率のものになってるのです。その辺も問題です。

 基本高水に関してどういう風に考えたらいいのかですが、もともと測定値には誤差が多い。それか ら計算過程にはその200年に1回にしようか、100年に1回にしようかだとか、その引き延ばし率を倍に2倍以下にしようだとか、それからカバー率を 50%にしようだとか、100%にしようだとか、いろんな判断が入っているのです。

 計算過程にはいろいろな判断が入っていて、解は複数あって、正しい唯一解があるとそういうものではないんだということを基本高水のところで認識すべきなのです。

 11.安全だけが唯一の基準か

 それで我々はどういう治水をするのか、選択の問題なのです。

 我々が車買うときにロールスロイス買おうか、ベンツにしようか、カローラにしようか、と考える訳です。それで、ロールスロイスはとてもじゃないけど買えないなと、やめる訳です。

 ところが、今我々がしていることは、治水上でロールスロイスを買おうという様な、そういう状況にあるという風に思います。今までその選択肢の基準は治水も利水も安全としか考えていなかったのです。

 そうではなくて、ダムを作ったら環境を破壊するとか、財政も大変だとか、だからどう考えようかということが今問われてるのです。

 それに対して国土交通省は、1回決めた計画で、100年、150年に1回の計算でやって、 7100トンと出てきた、これで絶対やりますと言ってるだけなのです。だからそれは、我々国民が、あるいはこの流域の人達がどこまで守ってほしいのか、国 土交通省が言う通りに守ってほしいのか、その代わりダムが出来て環境を破壊する、川の堤防はコンクリート護岸がどんどん増えていくということなのですね。 その辺をどう判断するかということです。 

 勿論、治水も利水も安全であることには越したことはないのです。現状はそれなのです。ですが、それと引き替えにあまりに犠牲が大きいというのが現状なのですね。

ダム建設による安全度の向上と犠牲の増大
(スライド39)

 それはそうなのです。今この投資する費用と効果では。昔は、少し投資するだけで凄く利益があったのです。しかし今は、沢山投資しても少ししか効果が上がらないのです。もうこの、45度の点を越えてしまっているのです(スライド39)

 だから、そういう時に誰がそのバランスを取るのかというのは、やはり専門家の判断だけでなくて、地域住民を交えたところでどうするのということを決めなければいけない。

1977年:総合治水対策の考え方
(スライド40)

 先ほど言いました1977年の総合治水対策というのは、いろんな校庭や公園やなんかに一杯貯めて、川の負担を減らしましょうという訳です(スライド40)。 それから、スーパー堤防というのは、要は破堤してしまうと大被害になるので、オーバーフローした位だったら被害は小さいだろうということで、堤防の高さの 30倍ぐらいの広い堤防を造って、上は土地がもったいないから再開発して家建ててしまおうという、そういう堤防なのです。

 これでしたら、日本の洪水でこの堤防を越えて流れるのはせいぜい、1時間とか2時間でしょう。だから破堤することはないです。ただこれはすごく土砂がいります。

 そこで、総合的に判断しなさいということなのです。

1987年、高規格堤防の考え方(通称:スーパー堤防)
(スライド41)

スーパー堤防の推進状況
(スライド42)

 1987年に計画して、約798キロ、利根川だとか、江戸川だとか、荒川とか、淀川なんかで作りましょうという計画を立てたのですけれども、今現在20キロ位しか出来ておりません(スライド41。進捗状況としてスライド42)。800キロやろうとして20キロしか出来てないのですから、これが10何年掛かってますから、何年掛かるんでしょうか、千年ぐらい掛かりますか。

河川法改正第三条に規定された樹林帯
(スライド43)

 これで、お金もものすごく掛かるのです。とすれば、スーパー堤防で日本国中の川を何とかしようといっても、これは無理だろうということなのです。そこで、1997年の河川法の改正の時に樹林帯とて言うのが出てきたのです(スライド43)。樹林帯とはなんだというと、川沿いに樹林の帯を造ろうというのです。

水害防備林の水制作業と濾過作用
(スライド44)

水害防備林の濾過作用
(スライド45)

 そして、河川法の第3条です。河川法の第3条というのは、堤防とか護岸だとかダムだとか河川管 理施設が規定されているものです。そこに人工的に植えるかもしれませんけれども、人工物でない自然に育つ樹林帯というものが、法律の中の「河川管理施設」 にはいってきたのです。これは画期的なことです。それで、樹林帯があればどうなるかということですけれども、これは伝統的な工法で水害防備林と言われてきたもので、樹林帯がないと洪水が堤防の上を急激な流速で流れてどんどん堤防を侵食するけれども、樹林帯があると洪水の流速が落ちて、ほとんど破堤しないという、そういうものなのです。水害防備林の効果としては、土砂をこの中においていく濾過作用がありますといった様なことです(スライド44)。こういう水害防備林というのは昔は沢山あったのです(スライド45)

肱川の水害防備林
(スライド46)

 これは今肱川という愛媛の川ですけれども(スライド46)、吉野川にも沢山残ってますけれども、この辺にもあったはずです。

昭和50年8月24日洪水、石狩川右岸の破堤
(スライド47)

 これは北海道の堤防が切れたこと例なのですけれども(スライド47)、 逆にこれはずーっとオーバーフローしていたのです。が、切れたから他はオーバーフローしていないのです。堤防というのは基本的に土で出来てますからオー バーフローしたら破堤するという前提で我々考えています。ただ現実には、草がはえていたりなどすると、なかなか切れないのです。ある意味では堤防というのは強いのです。ここ2キロ位溢れていたうち、破堤したのはこの1個所のところで30メートルだけです。だから逆にいうと土で出来ている堤防も強いんだと言うことが言えるのです。ここが何故壊れたかというと、ここに坂路があって地肌が出ていて、それで破堤してしまったのです。ですから私は、ここに水害防備林 がずっとあれば相当に強い堤防になるだろうと思います。

桂離宮書院は高床式の水屋
(スライド48)

 現実に、この桂離宮というのは1600年の始めに作られて、ここ桂川でこういう水害防備林があるのです(スライド48)。 洪水が溢れていってもみんな土砂を置いていって、比較的きれいな水だけゆっくり流れていって。日本の国宝にはなっていませんけれども、国宝以上の桂離宮の 書院ですけれども、これは10回以上床下浸水を受けているのですけれども、床上浸水になってないのです。すごい知恵だと思います、これは。

城原川(筑後川右支川)の野越
(スライド49)

城原川には、今でもこれだけの「野越し」が残っています。
(スライド50)

 こういう様な洪水を溢れさす越流提みたいなもの(スライド49)、ここだけ低くなっていて、越流していったここには水害防備林があるといった様な、こういう川もあります。これは九州の川です。今でもここは、9カところ今の様な低い堤防が残されているのです(スライド50)。で、ここも今上流に城原川(ジョウバルガワ)ダムというのを作ろうとしていて、もめているところです。

安全度を高める方法はないか?
(スライド51)

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(スライド52)

 堤防を造るときに、余裕高というのがあるのですが、計画高水位の上に堤防余裕高というのがあっ て、この余裕高までくい込んで洪水を流せば、ダムの分ぐらい出てくるだろうと、信濃川のこと例ですけれども、川幅約800メートルあって、余裕高2メート ルあって、表面流速が3メートルだとして、この余裕高までくい込めば4800立方メートル流せると、上流のダム群で2500カットするということになって たのですから、余裕高までくい込めばダムの分おつりがくるだけの河道の断面積は持っているのです(スライド51)。この余裕高というのは、川の流量に応じて高さが決められております(スライド52)。階段状に決められているのです。ですから、理論的に、論理的に決められたものではありません。階段状だということはですから。

 12.余裕高の工夫と高床式について

 だから、ある程度余裕高というのはいろんな考え方が出来ると思います。

五ケ瀬川の畳提
(スライド54)

 こういう余裕高の取り方もあるのです(スライド54)。 これはここに、洪水が来たときに畳を入れてそれで防ごうという、こういう形で余裕高を取ってる川もあるのです。こういう川が畳堤防と言って、日本に3個所 か、4個所ありますか。ですから、その余裕高は絶対的にこうでなければならないというものでもないのです。ただ私は、やはりその余裕高までくい込んで洪水 を流すためには、堤防を強化する必要があるだろうと思います。

堤防強化法はあるのか?
(スライド55)

出典:TRD工法協会パンフレットより
(スライド56)

 堤防強化法というのはいくつもある(スライド55)

 で、この中でも特に私が今推奨しているのは、連続地中壁工法ということで、こういう機械でカッターでダーっと動かしていって、セメントミルクを流して、堤防を強化することは簡単に出来るのです(スライド56)。 こんな斜めにも、この連続地中壁というのを作ることが出来るのです。土の強さ、コンクリートの強さですが、1平方キロに200キロとか、300キログラム 迄の力に耐えられるのですけれども、そんなに堅いものにする必要はありません。土が恐らく数キロですから、ここは少し堅い10キログラムから20キログラ ム、これは1平方センチメートル辺りです。それで、土とあんまり極端に差がない強度でいいだろうと思います。こういうもので堤防を強化すれば、余裕高までくい込んで洪水を流しても、十分可能ではないかと、こうしたらどうだと言っているのですが、「うん」と言いません。

 洪水、堤防、それでも堤防を強化しましたと、水害防備林を作りましたと、それでも堤防は溢れて くる洪水があると、破堤はしませんと、そしたらその溢れていた水で水害になるかもしれませんから、被害を出来るだけ小さくするために、床上浸水にならない ようにしておけばいいだろうと。それで、その為には住居をさっきの書院の様に高床式にしてとけばいいだろうと。それには、固定資産の減免や補助金をちょっ と出せば、今の住居は30年ぐらいで建て替えていますから、30年で床上浸水ゼロにもっていくことは出来るのですね。だから設楽ダムも、もう何年ですか、 何十年だから、もうこっちの方がよっぽどあの現実的な製作なのです。

雪国の高床式建物群
(スライド58)

 それが可能かと言うのですけれども、可能なのです、単純なのです。今雪国では、みんなこういう高床式になっています(スライド58)。 これは固定資産税が減免されただけです。町によっては補助金が少しずつでてます。30万円とか、50万円。ですが、1軒の家建てるのにこれ何千万からの家 ですか、もう20年ぐらいでもう雪国の家は全部こうなっています。雪は毎年ですから、毎年だからこうなってしまう。水害は多分、今の状況ですと何十年に1 回ですから、たまには床上浸水あったっていいやという人がいるかもしれない、それはそれでいいと思うのです。それは選択の一つで、ですが床上浸水に遭いた くないという人は補助金もらってこうすればいいということです。補助金政策であれば、ほとんど私はダムの分で議論してる治水の安全度は確保できるだろうと。

豊川の狭成部と遊水地
(スライド59)

 豊川の場合はまさに国土交通省がずっと1977年から言ってきた総合治水対策というのが、取りうる川なのです。この遊水地が、残されてきている(スライド59)、まさに今の国土交通省がやろうとしている治水の一番最先端に位置づけられるはずなのです。

 だから僕は、豊川の場合はこういうものをうまく活用していて、こう言うところの家は何年かに1回、水害に遭うでしょうから高床式にして、被害があったらその分補償するというそういう体制を作っていけば、トータルではずっと安いと思います。

 設楽ダムが2千億円と言われておりますけれども、多分だいたい出来ると4倍になりますから。 で、他にまだいくつかダム作らなければ豊川の治水計画は完成しない訳ですから。そういう方向はもう止めて、新たなというか、国土交通省が本来主張している 総合的な治水対策でやるべきではないかなという風に思います。

 どうもご静聴ありがとうございました。

 以上