海外の企業との取引に関するトラブルの解決手段

国際仲裁ってご存知ですか?

「仲裁」とは

  愛知県の企業のみなさまの中には、海外の企業と取引をしていらっしゃるところも多いかと思います。その企業とずっと友好的な関係を保つことができればそれが一番理想的ですが、例えば、取引先の海外の企業が、支払ってくれるはずのお金を支払ってくれないなどのトラブルが起こった時、どうすればよいのでしょうか。契約を締結する時点で何か備えておくことはできないでしょうか。

 このような場面で、紛争解決の手段として世界的に近年利用されているのが、「仲裁(国際仲裁)」という方法です。契約を締結する時点で、契約書に紛争解決手段として記載しておくことで、紛争になった場合に仲裁を利用することができます。

 一般的な意味の仲裁は、例えば「ケンカの仲裁」等で使われるように仲を取り持つという意味で使用されます。しかし、紛争の解決手段としての「仲裁」は、当事者の合意(仲裁合意)に基づき、第三者(仲裁人)の判断(仲裁判断)による紛争解決を行う手続、平たく言えば、オーダーメイドの裁判所です。

仲裁のメリット

 仲裁には裁判と比較して、主に以下のような利点があります。

中立であること

 仲裁には、訴訟と異なり、手続、判断の中立性を確保できるという利点があります。

 訴訟の場合、裁判所は国家が運営している機関なので、紛争の相手方が所在する国の裁判所で紛争を解決する場合に、裁判所が相手に有利な判断をする恐れがあったり、国によっては裁判官の汚職が横行しているところがあるなど、裁判所・裁判官の質は国によってさまざまで、必ずしも裁判官が中立であるとは言えない場合があります。

 これに対し、仲裁の場合には、原則として、当事者が仲裁人を自由に選ぶことができますので、当事者と同じ国籍の仲裁人を選ぶか、第三国の仲裁人を選ぶかも、当事者が自由に決められますし、そもそも賄賂を要求してくるような仲裁人は回避できます。

専門家が判断すること

 また、上述のように、仲裁では仲裁人を自由に選ぶことができますから、当事者は、事案に応じた専門家を仲裁人に選ぶことができます

 そうすることによって、その仲裁人が紛争の重要な争点を的確に把握し適正に判断することができますし、また、争点を迅速に把握することもできるので、早期解決にもつながります。

手続が柔軟であること

 仲裁は、裁判と異なり、原則として、仲裁人の数や選任方法、手続言語、手続期間などの手続方法を自由に決めることができます

 とくに、裁判では、一般的に裁判所所在国の言語を使用することになりますが、仲裁では手続で使用する言語を当事者が自由に取り決めることができます。そのため、裁判所における手続と比べ、通訳や提出する書面の翻訳等に費やす時間や費用の負担を軽減することができます。

非公開の手続であること

 裁判手続が一般に公開されるのに対して、仲裁の手続は原則非公開で行われます。仲裁では、当事者の合意がない限り、部外者がその手続に参加することはありませんので、紛争を競合先、顧客に知られずに解決したい場合には、仲裁が優れています。

迅速な手続であること

 仲裁は裁判と違って上訴がなく、一審限りです。

 また当事者の合意により仲裁判断をすべき期間を定めることができるので、裁判に比べ紛争が解決されるまでの時間が短くて済みます

執行が容易であること

 裁判所の判決の場合、判決の効力は原則として、その裁判所の属する国内に限られ、外国で得た判決の執行は容易ではありません。

 仲裁判断もその効力は原則国内に限られますが、仲裁の場合には、外国の仲裁判断を国内で承認しこれに基づく強制執行を定めた「外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約」(通称ニューヨーク条約)があり、現在、150カ国以上の国が締結しています。主要な国のほとんどがこの条約の締結国となっていますので、裁判所の判決に比べて、外国の仲裁判断を執行するのはとても容易になっています

仲裁機関

仲裁機関として世界的によく利用されているのは、

  • アメリカ仲裁協会(American Arbitration Association(AAA))
  • 国際商業会議所国際仲裁裁判所(International Chamber of Commerce Court of Arbitration(ICC))
  • ロンドン国際仲裁裁判所(The London Court of International Arbitration)

などです。

 アジアでは

  • 中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)
  • シンガポール仲裁センター(SIAC)
  • 香港国際仲裁センター(HKIAC)

などがよく利用されているようです。

 日本にも、日本商事仲裁協会(JCAA)があり、また、平成30年5月に、国際仲裁専用施設である日本国際紛争解決センターが開設されるなど国際仲裁の環境整備が近年急速に進んでいます。

仲裁のデメリット

 以上のように、海外の企業との紛争解決手段としてさまざまな利点がある仲裁ですが、一方で、仲裁人の報酬を当事者が負担しなければならないため仲裁費用が高額に上るデメリットもあります。

 また、紛争解決手段として仲裁を利用したいと考えるのであれば、契約を締結する段階で少なくとも取引の実情に即した仲裁機関や仲裁地などを取り決めておいた方が良いとも言われています。

 そのため、仲裁条項を契約書に盛り込む際には、一度専門家へ相談することが推奨されます。

愛知県弁護士会の国際仲裁への取り組み

愛知県弁護士会では、日本弁護士連合会の中小企業海外展開支援弁護士紹介制度により、海外事案の経験が豊かな愛知県内の弁護士を紹介したり、公益社団法人日本仲裁人協会と共催して国際仲裁に関するセミナーを行う等、海外の企業と取引をする中小企業のみなさまへの支援や情報提供を積極的に行っております。

 海外の企業と取引をされている中小企業のみなさまにおかれましては、ぜひとも愛知県弁護士会のこれらの制度の活用をご検討ください。

以上