はじめに

 令和4年5月15日(日)、愛知県弁護士会館5階ホールとZoomウェビナーの併用で、シンポジウム「子どもの権利が守られる社会に~子ども基本法を考える~」が開催され、多くの方にご参加いただきました。

第1部 基調講演

 認定NPO法人国際子ども権利センター(シーライツ)の代表理事である甲斐田万智子さんに「子どもの権利条約に則った子ども基本法・こども家庭庁を求めて」と題して、ご講演いただきました。

 甲斐田さんは、海外で、子どもの権利を伝えることで、子どもが意見表明や問題解決できる(エンパワーされる)ように尽力された経験をお持ちです。
 まずは、そのご経験を基に、カンボジアやネパールで、子どもがグループになることで意見を洗練したり、発言力を増し、一方で、大人が子どもの意思を受け入れる体制(予算設定など)を作ることで、子どもの意見表明の機会を保障することに成功した実例をご紹介いただきました。

 次に、これを踏まえて、子どもの意見表明が大切である10の理由をご説明いただきました。
 その理由には、「子どもも一人の人間だから、子どもの意見を聴くのは大人の責務である」といったものから、子どもが当事者として問題を一番分かっているという見方や、子どものコミュニケーション力や自己肯定感の養成、民主的な社会をつくる、対話解決による人権保障といったものまで、多角的な視点が盛り込まれており、その重要性が詳細に語られました。

 また、非常に重要であるにもかかわらず、日本で子どもの権利がなかなか普及しない理由に、自己責任論や「義務とセット」といった権利に対する大人の理解不足があること、今回の子ども基本法、こども家庭庁に残る問題点、子どもコミッショナー制度の必要性をご指摘いただきました。

第1部 基調講演

第2部 「子どもの声」とパネルディスカッション

 基調講演をしていただいた甲斐田さんに加え、首藤隆介さん(公立中学校教諭)、粕田陽子さん(愛知県弁護士会子どもの権利委員会委員長、名古屋市子どもの権利擁護委員)をパネリストとし、竹内景子さん(愛知県弁護士会子どもの権利委員会委員)をコーディネーターとして、パネルディスカッションが行われました。

 第2部の冒頭では、「子どもの声」として、子どもたちが、子どもの権利について、日頃抱いている印象や疑問、率直な感想を話してくださった映像を流しましたが、そこでは、子どもたちが感じている窮屈さや意見が聞き入れられないことに対する失望感が語られました。
 これを受けて、子どもが十分な意見表明を行えるだけの環境が整っていないこと、その原因が大人の環境づくりや権利に対する理解不足にあるという課題が共有されました。

 パネリストのみなさんからは、三者三様の立場で、それぞれこの課題を解決するために行っている活動や、どのような対策が必要であるかが語られました。
 その中では、子どもの環境と切っても切れない学校教育に対する期待も挙げられた一方で、受験や評価、教員が置かれている状況等、学校が子どもの意見表明を推進する役割を担うことが難しい状態にある、といったご意見もいただきました。

 権利を守るために必要なことは何かという問題に対しては、首藤さんからは、教師自身が自分の権利に対する意識・理解をまず高めることで、人権を尊重する空間づくりをすることが必要であること、粕田さんからは、大人と子ども双方の権利に対する理解を高める必要があること、甲斐田さんからは、子どもの権利を伝えることで学校・家庭共に変革が起きたカンボジアでのご経験から、国の制度改善を求めるだけでなく、社会のあらゆる場所で子どもの声を聴くことが大切であることが語られました。

第2部 「子どもの声」とパネルディスカッション

おわりに

 甲斐田さん、首藤さん、粕田さんには、子どもの権利を取り巻く問題について、深く議論していただきました。
 子ども基本法が制定されたとしても、それで満足するのではなく、コミッショナーの設置など子どもの権利の保障により役立つ子ども基本法となっていくよう、子どもとともに声を上げていくことが必要と感じられるシンポジウムとなりました。

※なお、本シンポジウムのアーカイブ配信は予定しておりません。