1 はじめに

 愛知県弁護士会では、優れた人権擁護の活動を顕彰するため、愛知県弁護士会人権賞を定めています。人権賞は、この地方の人権の分野で優れた活動をした個人、団体を表彰し、その活動を広く社会に広め、さらに前進することを応援する趣旨から設けられたもので、本年度で33回目となります。

 本年度の当会人権賞は、「NPO法人シェイクハンズ」(以下、「シェイクハンズ」といいます。)が受賞され、2月15日に授賞式が行われました。そこで、シェイクハンズの活動と実績等について、ご紹介させていただきます。

2 立上げにいたるまでの経緯

 シェイクハンズの代表者である松本里美さんは、平成10年頃より、途上国への関心から個人でフェアトレードに取り組むようになりました。平成11年には、国際理解・協力グループ「まちかどの泉」という前身団体を立ち上げ、フェアトレードの啓蒙と商品の販売を始めました。

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(シェイクハンズ代表者の松本里美さん)

 松本さんは、フェアトレードに関わる中で、犬山市在住のペルー人より、彼らの子どもが学校で日本語が分からずに勉強についていけず、居場所がなく、教室でうつむいてしまっており、なかにはドロップアウトしてしまう場合もあると耳にしました。松本さんは、その子ども達を思い、心を傷めました。

 同じ頃、犬山市民活動支援センターには、犬山市南部地域の小学校より、外国につながる子どもの対応に困っているとの相談が寄せられていました。そこで、同センターがまちかどの泉と共に、外国につながる子どものサポートを行うことになりました。                          

 当初の活動は、松本さんを含めた4、5人の大人が、週に1度、外国につながる子どもと一緒に小学校から下校し、県営住宅の集会所で一緒に宿題をしたり、おやつを食べたりなどして、日本語や教科学習の支援をメインにするというよりも、居場所として大切にするものでした。

3 活動内容

⑴ はじめに

 松本さんによると、シェイクハンズは、活動を継続する中で、様々なサポートの必要性に気づき、見て見ぬ振りができずに放っておけない人達が集まっているため、「お母さん的発想でいろいろやって」しまった結果、現在に至っているとのことでした。

 現在では、大別すると、以下の3つの活動を行っています。

⑵ ①外国につながる子どもに対する日本語と学習の支援を中心とする活動

 活動を続ける中で、外国につながる子どもの親の日本語の理解が乏しいため、家庭学習ができず、週に1度の支援のみでは、学習の定着度が十分でないことに気づきました。そのため、現在では、当初の活動に加え、にじいろ寺子屋という学習支援の場も設けています。これらの学習支援の場では、日本語と学習の支援だけではなく、大学生との交流会やキャンプ・農作業等の体験も行われています。なぜなら、シェイクハンズは、座学の学習だけではなく、様々な経験を通じて、自己の強みを知り、それを伸ばし、社会で生き抜く力強さを身につけていってほしいと願っているからです。勉強ばかりでなく、自然体験や社会体験の中で、非認知能力や自己肯定感を高めていって、将来問題に出会っても、強く生きていってほしいと何よりも望んでいます。

 小中学生への学習支援を続ける中で、一生懸命に学習に取り組んでいる子どもの成果が出ない場面が多くありました。とりわけ、日本で出生した子どもは、学校では日本語、家庭では親の母語に接しており、どちらの言語も発達が不十分になってしまうことが多く、学習の基盤となる言語発達等が不十分な場合が多いと指摘されています。そのため、小学校入学時に、すでに日本の子との差がはっきりついてしまい、早い段階での日本語や就学前の支援の必要性を感じ、現在は年長児への就学前の日本語・生活習慣の支援なども、行政と協働して行っています。


⑶ ②その子どもの親も含めた在住外国人対する日本語や日本文化・社会の理解促進をする活動

 外国につながる子どもの生活環境を安定させるためには、その親が日本語や日本文化・社会を理解することが必要です。そのため、シェイクハンズは、その親に対する日本語学習支援も行っています。また、外国につながる子どもの親は、本国への仕送りのための長時間労働などの理由から子どもとのコミュニケーションが十分に取れない、行政機関からの子育て支援の情報も十分に得られていないなどの問題を抱えています。

 そこで、日本人親子も含め、親子のコミュニケーションの場を提供したり、生活指導や日本の教育環境について情報提供を行ったりもしています。

⑷ ③在住外国人への理解者を増やす活動

 外国につながる親子が地域社会の一員として暮らしていくためには、日本社会・地域の中に理解者を増やすことが重要であるため、多文化共生の啓発活動やまちづくりなどの活動も行っています。

 例えば、犬山市内の日本人小中学生に対して、犬山市子ども大学において、国際理解・多文化共生を図るべく、地域に住む外国人とともに様々な体験の場を作り、交流を深める活動をしています。

 また、地域住民と外国につながる親子との交流の場として、農園事業も行っています。

⑸ その他

 以上の活動だけではなく、多文化共生事業への講師派遣などや、他の多文化共生に取り組む団体との連携も行っています。

4 終わりに

 愛知県内には約9,000人の日本語指導が必要な外国人児童生徒がおり、名古屋市のように多くの外国人が居住する外国人集住地域だけではなく、犬山市のような散在地域でも多くの外国につながる子どもがいます。しかし、散在地域では、集住地域に比べ、彼らの抱える問題について見過ごされてしまいがちです。

 シェイクハンズは、外国につながる子どもの未来を広げたいとの思いから、約20年間もの長期にわたり、その子どもへの学習支援を中心に取り組んできました。

 外国につながる親子の多くは、友人又は親戚の紹介により、シェイクハンズの活動にかかわるようになり、長年の活動が外国につながる親子のコミュニティに浸透し、彼らの支えとなっていることを示しています。また、過去の子ども大学参加者が、外国につながる子どもの学習支援を行う例もみられ、外国につながる親子の理解者の育成にも貢献してきました。さらに、地域社会と彼らの相互理解を図り、彼らを地域の一員として受け入れる社会を築き上げてきています。

 以上のとおり、シェイクハンズは、外国につながる親子への支援を軸に、彼らが地域住民の一員として受け入れられるよう、多文化共生の実践を図ろうと取り組んでこられました。

 今後も、シェイクハンズに、外国につながる親子への支援だけではなく、地域全体の多文化共生の促進を進めていってほしいと願っています。