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令和7年10月14日付勧告書(名古屋拘置所宛)
愛弁発第306号 令和7年10月14日
名古屋拘置所長 三角 渉 殿
愛知県弁護士会 会長 川合 伸子
勧 告 書
当会は、貴所に在監中である申立人〇〇〇〇に係る令和5年度第30号人権侵犯救済申立事件につき、下記のとおり勧告する。
記
第1 勧告の趣旨
貴所における被収容者の運動時間の確保について、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律57条並びに刑事施設及び被収容者の処遇に関する規則24条の趣旨を最大限尊重され、入浴実施日における戸外運動の時間の拡大など、1日1時間の戸外運動の実現に向け、必要な措置をとるよう勧告する。
第2 勧告の理由
1 申立の趣旨
相手方では、週に2回しか戸外運動を行うことができない。刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律第57条には、「被収容者には、日曜日その他法務省令で定める日を除き、できる限り戸外で、その健康を保持するため適切な運動を行う機会を与えなければならない。」と定められているが、週に2回では十分な戸外運動の機会が与えられているとはいえない。
よって、申立人は、相手方に対し、収容者の権利保護、健康維持の観点から戸外運動の機会(回数)の改善を求める。
2 調査の結果
⑴ 経緯
ア 令和5年8月30日 申立書の受領
イ 令和5年10月4日 予備調査開始
ウ 令和5年10月26日 貴所において申立人から聴取実施
エ 令和5年12月18日 本調査開始
オ 令和2年2月9日付で貴所へ照会書を送付
カ 令和6年3月6日付の貴所からの回答書を受領
キ 令和6年9月4日付で貴所へ追加の照会書を送付
ク 令和6年10月9日付で貴所からの回答書を受領
⑵ 貴所からの回答の要旨(認定した事実)
ア 戸外運動について
人的物的戒護能力の実情や被収容者の実質的な運動量、近年の気候変動等を踏まえ、戸外運動の実施にかかる回数や時間を決定しているところ、入浴実施日が通年、平日の週3日としたことに伴い、戸外運動は平日の週2日、運動時間は30分として実施している。
入浴実施日は、入浴開始前に連行時間を除き15分間の戸外運動を実施している。入浴の実施に多数の職員や時間を必要とするため、入浴実施日以外の日と同様に戸外運動を実施することは困難な状況であることに変わりはない。
入浴実施日でない日は、食事時間を除く、午前7時30分から午後4時50分までの間としているが、当日の収容人員や配食状況等で開始時間及び終了時間が左右されることから、朝食喫食後の午前7時50分頃から夕食喫食前の午後4時20分頃までの間に実施しているのが現状である。
入浴実施日も開始時間と終了時間に変わりはない。収容階別等で指定されている各運動場の数に応じた人員に対し15分(連行時間を除く。)の戸外運動実施終了後、入浴を開始する。
なお、熱中症対策として、戸外運動場において、職員が暑さ指数(WBGT)を計測し、測定値が31の危険レベルを示した時点で、戸外運動の実施を中止する取扱いとしている。
イ 「要望書」(下記3参照)以降の取組状況について
職員数を確保するため、居室棟の統廃合や各セクションにおける業務分担の見直し等を図っているが、運動入浴職員だけでなく、裁判員裁判の増加に伴う出廷業務や一般面会の実施時間を原則30分と改善したことに伴う面会業務の増加など各セクション業務が増加傾向にあり、慢性的に配置人員が不足しているのが現状である。
ウ 室内運動について
室内運動は、休日を含め毎日、1回当たり30分間、1日3回、合計90分間の室内運動を実施する機会を維持しており、変更はない。
午前9時45分、午後2時45分(休日は午後3時)及び午後6時に開始し、職員は各居室の巡回視察等に従事する。
体操は、危険を伴わず、騒音を発することなく、その場で実施できるストレッチ、腕立て伏せ、腹筋等を許可としている。
エ 戸外運動及び入浴への連行について
500ないし600名程度の法的身分の異なる被収容者を収容しており、適正な戒護の観点から被収容者の身分や特性に応じた対応を取る必要がある。
「単独連行の必要がない者」は、2名ないし6名の被収容者を1ないし2名の職員が連行する。「複数の職員の戒護が必要である者」は、1名の被収容者を3名ないし6名の職員が連行している。
運動入浴職員は、運動及び入浴に係る連行及び立会業務を担う職員で、それぞれ11名ないし12名の職員で同業務を行っている。
オ 矯正指導日について
月2回(原則、第二、第四木曜日)であり、室内運動は行うが、戸外運動は行わない。
カ 職員の人数、運動入浴職員の人数及び出廷件数の令和元年度から令和5年度前までの推移について
回答なし
キ 面会時間を30分としたことに伴う業務への影響について
一般面会は原則、職員が立会し、面会時間が長くなると、職員が拘束される時間も長くなる。面会申込数に制限はないことから、当日の面会時間内に実施しなければならない面会件数に影響はなく、入れ替えの回数が減ることはない。
ク 平日に毎日1時間又は30分間の戸外運動を行うための必要職員数
施設独自で決定できるものではないので、回答を控える。
ケ 「要望書」(下記3参照)以降の協議や調査、検討等の実績
職員数を確保するため、引き続き、居室棟の統廃合や各セクションにおける業務分担の見直し等を図っているが、有識者等との間で協議会や検討会を行ったことはない。
3 当会による要望の存在
当会からは、名宛人を貴所として、同種の問題に関し、令和3年2月19日付で要望書を発出している。
当該要望書の要望の趣旨は、下記のとおりである。
記
貴所における被収容者の運動時間の確保について、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律57条並びに刑事施設及び被収容者の処遇に関する規則24条の趣旨を最大限尊重され、入浴実施日における戸外運動の時間の拡大など、1日1時間の戸外運動の実現に向け、必要な措置をとられるよう要望する。
上述のとおり、当該要望書は名宛人を貴所とするものであり、貴所においては、遅くとも当該要望書発出以降、この問題について改善の機会は充分にあったということができる。
4 判断
⑴ 認定できる事実
本件では、以下の事実について、本調査担当者の調査に対する申立人及び貴所の回答がおおむね一致している、若しくは特段矛盾しないものと認められるため、これらを認めることができる。
① 貴所では、戸外運動は、入浴実施日以外の平日週2日は、運動時間30分として実施している。
② 平日週3日の入浴実施日は、入浴開始前に連行時間を除き15分間の戸外運動を実施している。
③ 室内運動は、休日を含め毎日、1回当たり30分間、1日3回、合計90分間の室内運動を実施する機会を維持しており、変更はない。
④ 「職員の人数、運動入浴職員の人数及び出廷件数の令和元年度から令和5年度前までの推移」並びに「平日に毎日1時間又は30分間の戸外運動を行うための必要職員数」については、貴所から回答はなされていない。
⑤ 当会による令和3年2月19日付要望書発出後、貴所においては、この問題について特段の具体的対応等に着手しているものではなく、また、この問題について有識者等との間で協議会や検討会を行ったこともない。
⑵ 戸外運動及び運動時間に関する法の趣旨
ア 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下単に「法」という。)57条は、被収容者に対し、平日にできる限り戸外で運動の機会を与えなければならないとし、刑事施設及び被収容者の処遇に関する規則(以下単に「規則」という。)24条は、被収容者に対し、1日に30分以上、かつ、できる限り長時間、運動の機会を与えるものとしている。
イ まず、法57条において「できる限り戸外で」運動の機会を与えなければならないとされた趣旨は、心身の健康を保持するために陽光や外気に触れて適度な運動をすることは、人としての根本的な価値であり、行動の自由を制限される被収容者といえども保障されるべきことにある。陽光や外気に触れられる点で、戸外運動と室内運動には、被収容者の心身の健康に与える影響の度合いにもおのずと差異があり、また、被収容者の行動の自由が制約されるからこそ、戸外運動の機会の価値は一層高いといえる。
したがって、被収容者の運動時間は全て戸外運動をもって確保することが原則であり、室内運動は例外的な代替措置とする趣旨であるに過ぎないと解される。1957年7月31日に国連経済社会理事会で承認・採択された被拘禁者処遇最低基準規則(いわゆる「マンデラ・ルールズ」)21(1)(なお、2015年の改訂により現在は23(1))も同趣旨といえる。
ウ 次に、法57条を前提とする規則24条において「1日に30分以上、かつ、できる限り長時間」運動の機会を与えるものとされた趣旨は、以下のとおりである。
すなわち、旧監獄法時代、入浴実施日には運動時間を設けない施設が大半であり、1982年に国会提出された刑事施設法案でも運動時間の最低保障が規定されていなかった。
そこで、日弁連は、上記被拘禁者処遇最低基準規則が「天候が許す限り、毎日少なくとも1時間、適当な戸外運動をさせる」旨を定めているのを受けて、1992年日弁連作成の刑事処遇法案以降、「毎日最低1時間」の法案化を求めた。
また、監獄法改正作業の中で、2003年12月に行刑改革会議が「最低1日1時間の運動時間を確保するよう努力すべきである」と提言したものの、国会に提出された刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律(以下「刑事施設受刑者処遇法」という。)案では、「1日1時間の運動時間確保」が法案化されていなかったため、日弁連は、1日1時間の法案化について国会審議の中での実現を求めた。
行刑改革会議以来、政府(法務省)が「1日1時間」の運動保障の明記を拒んだ理由は、当時の運動実施時間が1日30分程度であり、1日1時間の明文化は実現困難、という事情からであった。特に、その当時、全国の刑事施設が過剰収容状態にあったことも実現困難の大きな理由とされていた。
このような経緯から、国会審議において日弁連が求めていた1日1時間の明文化までは実現されなかったが、刑事施設受刑者処遇法の審議をした衆参両法務委員会において、「1日1時間」の運動の確保実現を求める旨の附帯決議がされ、これを受けた規則制定に際しては「最低30分、できる限り長時間」という規定が置かれた(なお、刑事施設受刑者処遇法は、その後、未決拘禁者等の処遇等に関する規定も含む現行の法に改正・改名されている(平成19年6月1日施行))。
かかる経緯に照らせば、「最低30分、できる限り長時間」と定める規則の趣旨は、戸外運動について、過剰収容などの要素もあって直ちに1日1時間を保障することは困難であるものの、当面最低1日30分は保障し、併せて1日1時間の保障に向けた積極的措置をとる努力を施設に要求することまで含むものと評価できる。林眞琴法務省矯正局総務課長(当時)も、刑事施設受刑者処遇法の解説(自由と正義2005年8月号)において、「一日一時間の運動は、衆参両院の附帯決議でも言及されており、その実現を目標とした人的・物的体制の整備は今後の行刑運営上の重要な課題である。」と述べている。
エ 日弁連においても、平成17年9月16日付「未決等拘禁制度の抜本的改革を目指す日弁連の提言」において、拘置所における運動時間の不足を指摘し、「拘禁施設において、戸外運動を1週間に2ないし3回、かつ1回につき各30分の戸外運動しか認めないことは、国際人権(自由権)規約第10条及び被拘禁者処遇最低基準規則第21条に違反する。」として、「天候が許す限り、毎日少なくとも1時間の戸外運動を認めるべきである。」と提言している。
オ また、法務省では、未決拘禁者の処遇等に関する有識者会議が、平成18年2月2日付「未決拘禁者の処遇等に関する提言~治安と人権、その調和と均衡を目指して~」において、「未決拘禁者についても、その健康の保持のためにも適切な運動の実施は必要であり、拘置所においては、受刑者と同様、運動スペースや職員配置などの問題を解決した上で、日曜日等を除き、最低一日一時間の戸外運動を実施するよう努めるべきである。ただし、この場合、受刑者と異なり、罪証隠滅の防止のため、他の未決拘禁者との接触を断たなければならないことに伴う制約もあるであろう。また、出廷等のため、昼間は拘置所にいないことがあり、夜間、戸外で運動させることが困難な場合などについては、この例外とせざるを得ないこともあろう。」と提言している。
カ 上記各提言はいずれも1日1時間の戸外運動の実現を強く推奨するものであり、法及び規則の運用を評価するにあたっても十分に参考にされるべきである。
⑶ 本件について
戸外運動の時間を十分に確保することの重要性は上記のとおりであるが、その一方で、貴所からは、裁判員裁判の増加に伴う出廷業務や一般面会の実施時間を原則30分間に改善したことに伴う面会業務の増加などによる慢性的な人員不足を理由に対応が困難な状況であるとの回答がなされている。
しかしながら、運動入浴職員や出廷件数の推移についての照会事項への回答はなく、実態は不明といわざるを得ない。
また、出廷業務の量と必ずしも一致するものではないものの、最高裁判所が公開している「裁判員裁判の実施状況について(制度施行~令和7年6月末・速報)」の「表2 庁別の新受人員、終局人員及び未済人員の推移」を参照しても、名古屋地方裁判所本庁における裁判員裁判の事件数が令和3年以降明らかに増加しているとはいえない。
もとより、この問題が人員不足の問題と完全に別個に検討しうる問題ではないことは理解できるし、人員不足の問題が貴所のみの対応により短期間に解消できる性質の問題ではないことも理解できるところではあるが、現行法制定から既に20年ほどが経過し、しかも当会による令和3年2月19日付要望書発出後4年以上経過している現時点において、未だ戸外運動の機会拡大に向けた取組が具体的に始まってすらおらず、それどころか、法務省や他の施設、有識者等と協議、調査又は検討を開始した実績もないというのであるから、貴所において、戸外運動の機会拡大のための問題解決に向けて真摯な対応がなされていないと評価せざるを得ない。
このような状況が今後も継続されるとすると、申立人をはじめとする貴所被収容者の心身の健康を保持するという人権が継続的に侵害され続けるおそれがあるといわざるを得ず、また、現状においては、できる限り戸外で健康を保持するための適切な運動を行う機会を与えることを定めた法57条及び規則24条の趣旨に反する状況に至っているといわざるを得ない。
5 結論
よって、当会は貴所に対し、法57条及び規則24条の法の趣旨を最大限尊重され、入浴実施日における戸外運動の時間の拡大など、1日1時間の戸外運動の実現に向け、必要な措置をとるよう勧告する。
以上

