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令和8年3月24日付勧告書(名古屋刑務所宛)
愛弁発第593号 令和8年3月24日
名古屋刑務所長 森田 裕一郎 殿
愛知県弁護士会 会長 川合 伸子
勧 告 書
当会は、貴所に収容されていた申立人〇〇〇〇氏からの人権侵犯救済申立事件(令和2年度第8号)につき、下記のとおり勧告する。
第1 勧告の趣旨
申立人は、貴所において刑の執行を受けていた者であるところ、閉居罰を受けた後、申立人の動静を慎重に観察する必要があり、その動静を踏まえ新たな就業先を調整する必要があったとして、約4か月間にわたり、昼夜間単独室処遇を受けた。かかる処遇は、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律の明文によらない事実上の措置として受刑者を実質的な隔離状態に置くものであるが、その必要性も相当性も認め難く、受刑者の人格と品位及び人間としての尊厳等を侵害するものとして、人権侵害に当たる。 よって、当会は、貴所に対し、昼夜間単独室処遇につき厳格な運用を求めるとともに、閉居罰後の単独室処遇の取扱いがやむを得ない場合であっても、あくまで一時的・暫定的なものとして、できるだけ短期間に止めるよう、その処遇方法を改善するよう勧告する。
第2 勧告の理由
1 申立の趣旨
申立人は、貴所にて受刑中の者であったが、出役拒否を理由として平成29年1月19日に閉居5日及び報奨金計算額500円削減の懲罰を科された後、同年5月22日までの間配役されなかった。
よって、申立人は、貴所に対し、今後、不当な処遇をしないよう求める。
2 調査の内容
⑴ 貴所への文書による事実関係の照会①
ア 照会日 令和3年2月4日(愛知弁人発第123号)
イ 回答日 令和3年3月15日(名刑発第1432号)
ウ 回答内容の要旨
(ア) 平成29年1月の懲罰の対象となった反則行為の内容等
平成29年1月10日午前7時31分頃、申立人が自己の居室において、職員に対し、作業を指定されている工場への出業を拒否する旨述べて、同職員が出業するよう説諭するも翻意せず出業しなかったことについて、受刑者遵守事項「正当な理由なく作業を拒否し、怠け、又は妨害してはならない。」に違反したものと認定したものです。
(イ) 上記懲罰の後、申立人に工場出役をしていない期間があるか、ある場合には、その期間及び工場出役をしなかった理由
申立人は、上記に係る懲罰終了後、平成29年5月22日に新たな工場に出業しました。この間、申立人の動静を慎重に観察する必要が生じたことに加え、新たな就業先を調整することに時間を要しました。
⑵ 申立人との面談調査
ア 日時 令和3年3月25日午後2時~
イ 場所 貴所内
ウ 聴取内容の要旨
申立人は、作業拒否をした懲罰として5日間正座をしたら、新しい工場に行くはずであったが、刑務官から「もう少し待ってほしい」と繰り返し言われ続け、結局、新しい工場に配役されたのは、平成29年5月だった。この間、申立人は、刑務所からCランクのごはんを提供された。ごはんの量が、スプーン2口程度であり少なかった。
その間、平成29年3月頃に外部医療機関を受診した際、従前は車中で片手錠にした状態で受診をしていたのに、このときには両手錠の状態のまま医療機関内へ移動させられそうになった。そこで、車内で刑務官に対し、手錠を片手錠にするよう求めたところ、刑務官から「そのまま」と言われ、もう一人刑務官から語気を強めて「黙れ」と言われたため、そのまま下車した。その後、受診前に外部医療機関内のトイレで片手錠にされ受診をした。診察が終わり、刑務所に戻ると、15人ほどの刑務官が集まり、「職員に何て言ったの」などと、詰問された。その他にどのようなことを聞かれたり話したりしたかは覚えていない。
⑶ 貴所への文書による事実関係の照会②
ア 照会日 令和4年4月7日(愛知弁人発第1号)
イ 回答日 令和4年11月15日(名刑発第6163号)
ウ 回答内容の要旨
(ア) 工場出役がなされなかった理由として⑴で回答された「申立人の動静を慎重に観察する必要」の具体的内容
平成29年2月2日、申立人を外部医療機関へ通院させた際、申立人から手錠を片手のみに使用するよう職員に申し向ける動静があったため、帰所後、職員が申立人の面接を実施したところ、申立人は、現在の自己のおかれている現状に不満があることや、母が高齢のため、早く母国に帰りたい旨を申し述べました。申立人の刑期終了日が、令和7年6月16日であり、5年以上の残刑期を有していることを考慮すると、家族を思い、郷愁の念に駆られたり、自己の将来を悲観したりするなど、些細な心情の変化から、衝動的行動に駆られ、僅かな隙を突いて逃走事案等の重大事故をじゃっ起するおそれが認められたことから、申立人の動静を単独室において一定期間慎重に観察する必要があり、さらに、申立人の動静を踏まえ、新たな就業先を調整する必要がありました。
(イ) 懲罰終了から平成29年5月22日に新たな工場に出業するまでの間の、居室指定の状況
申立人は、閉居5日及び報奨金計算額500円削減の懲罰(以下「本件懲罰」という。)が終了した平成29年1月24日から同年5月22日までの間、昼夜間単独室に収容されていました。
(ウ) 申立人について、上記の間、①運動、②入浴、③所内行事への参加、④外部交通(面会・信書等)、⑤書籍等の閲読、の各点に関し、他の受刑者の取扱いと差異はあったか
申立人は、本件懲罰が終了した平成29年1月24日から同年2月2日までの間は、他の昼夜居室処遇の受刑者と取扱いには差異はありませんでしたが、同日から同年5月22日までの間は、上記(ア)で述べた事情により、運動は単独による連行、2名以上の職員による戒護、運動靴は使用不可とし、入浴は、単独で実施することとしていました。その他の事項については、他の昼夜居室処遇の受刑者と差異はありません。
⑷ 貴所への文書による事実関係の照会③
ア 照会日 令和5年3月31日(愛知弁人発第95号)
イ 回答日 令和5年9月25日(名刑発第4878号)
ウ 回答内容の要旨
(ア) 平成29年1月24日から同年5月22日までの昼夜間単独室処遇の法令上の根拠
昼夜居室処遇に係る法令上の根拠について明確な規定はありませんが、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律第86条(現行法では第87条。以下、現行法の条項によって論ずる。)は、矯正処遇等の効果的実施を図るため、必要に応じ、受刑者を集団に編成して集団処遇を行う旨規定しているところ、矯正処遇の内容及び実施方法は個々の受刑者によって異なることから、上記規定は、処遇の一態様として、昼夜居室処遇という形態も許容しているものと解されます。そのため、当所長は、申立人の心身の状況、性格、諸般の事情を総合勘案し、申立人を昼夜居室処遇としました。
(イ) 申立人につき、「些細な心情の変化から、衝動的行動に駆られ、僅かな隙を突いて逃走事案等の重大事故をじゃっ起するおそれ」を、誰がどのような手続で認めたものか
当所長が申立人の外部通院時における動静を踏まえ判断しました。また、同判断に基づき、平成29年2月2日付で申立人を要視察者(逃走)に指定し、綿密な動静把握を行うこととしました。
(ウ) (イ)の判断の見直しの有無
ありません。
(エ) 平成29年5月22日に昼夜間単独室処遇が終了された理由等
申立人の昼夜居室処遇時における動静を踏まえた上で、新たな就業先の調整が付いたためです。
(オ) 新たな就業先の調整に約4か月を要した具体的理由
上記(イ)のとおり、申立人について、綿密な動静把握を行うとともに、新たな就業先の調整を行っていたため、4か月を要したものであり、新たな就業先の調整のみに4か月を要したものではありません。
(カ) 平成29年1月24日から同年5月22日までの申立人の優遇区分及び制限区分
優遇区分 平成29年1月24日~3月31日:第3類
平成29年4月1日~5月22日:第4類
制限区分 平成29年1月24日~5月22日:第3種
(キ) 平成29年1月24日から同年5月22日までの所内行事及び申立人の参加の有無
保存期間の経過により関係記録が廃棄されているため、分かりません。
(ク) 平成29年1月24日から同年5月22日まで、申立人はテレビを見ることが可能であったか。
昼夜居室処遇の期間は、テレビ視聴はできません。
⑸ 貴所への文書による事実関係の照会④
ア 照会日 令和6年4月5日(愛知弁人発第6号)
イ 回答日 令和6年5月13日(名刑発第2268号)
ウ 回答内容の要旨
(ア) 照会事項の要旨
当会は、平成24年3月5日付及び平成25年10月25日付にて、貴所宛に、昼夜単独室処遇につき厳格な運用を求める内容の勧告書を発出しているが、これに対する改善事項の有無、内容を回答されたい。
(イ) 回答内容の要旨
本件照会事項について、いずれも10年以上前に送付された当所に送付された勧告書に関する内容であり、現在、当所において当時の記録が残っておらず確認できません。
なお、昼夜間単独室処遇の指定については、その必要性等について処遇審査会において審査決定しており、適正に運用しております。
3 認定した事実
⑴ 申立人は、本件懲罰を科された後、平成29年5月22日に新たな工場に出業するまでの間、工場出役がなされず、昼夜間単独室処遇とされていた。
その理由は、「申立人の動静を慎重に観察する必要が生じたことに加え、新たな就業先を調整することに時間を要した」ことである。
昼夜間単独室処遇の法令上の根拠につき明確な規定はないが、貴所は刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「法」という。)第87条の規定が、処遇の一態様として、昼夜間単独室処遇という形態も許容しているとの解釈のもと、本件において申立人の昼夜間単独室処遇を実施した。
⑵ 上記「申立人の動静を慎重に観察する必要」とは、「平成29年2月2日、申立人を外部医療機関へ通院させた際、申立人から手錠を片手のみに使用するよう職員に申し向ける動静があったため、帰所後、職員が申立人の面接を実施したところ、現在の自己のおかれている現状に不満があることや、母が高齢のため、早く母国に帰りたい旨を申し述べ、申立人の刑期終了日が令和7年6月16日であり、5年以上の残刑期を有していることを考慮すると、家族を思い、郷愁の念に駆られたり、自己の将来を悲観したりするなど、些細な心情の変化から、衝動的行動に駆られ、僅かな隙を突いて逃走事案等の重大事故をじゃっ起するおそれが認められた」というものである。
なお、上記の外部医療機関に関し、申立人からの聴取結果と貴所からの回答では、外部医療機関受診時に申立人が不満を訴えたこと及び、帰所後に申立人と貴所職員が面接をしたことについて一致しているものの、受診日に約1か月のずれがあるところ、申立人の陳述は自身の記憶に基づくものであることから、貴所からの回答に基づき受診日を認定した。
⑶ 上記「僅かな隙を突いて逃走事案等の重大事故をじゃっ起するおそれ」の有無の判断については、平成29年2月2日以降、一度も見直されなかった。
⑷ 申立人に対する昼夜間単独室処遇は、申立人の動静を踏まえた新たな就業先の調整ができたことを理由として、同年5月22日に終了した。この間、申立人は、運動は単独による連行で、2名以上の職員による戒護のもと運動靴は使用不可とされ、入浴は単独で実施することとなった。また、テレビ視聴はできなかった。
4 判断
⑴ 本件処遇の問題点
本件は、上記3で認定した、申立人に対する本件懲罰終了後の平成29年1月24日から同年5月22日までの間、昼夜間単独室処遇として他の被収容者との接触ができない状態に置き、かつテレビ視聴ができないなど教養や娯楽の機会も制限した処遇(以下「本件処遇」という。)が、人権侵害に当たるかどうかが問題となる。
この点、法76条は受刑者を他の被収容者から隔離する処遇につき規定するが、本件処遇は同規定に基づく隔離ではない。
しかし、本件処遇は、その間、申立人を他の被収容者と接触できない状態に置くとともにテレビ視聴や運動の機会も大きく制限するものであり、実質的には隔離と異ならない。
そこで、このような実質的な隔離処遇の人権侵害性につき検討する。
⑵ 隔離に関する規定
ア 刑事施設における受刑者にとって隔離とは、集団での処遇を受けられず、他の受刑者と接触することが許されないという不利益を伴うとともに、昼夜にわたり居室内で処遇が行われることによって、当該受刑者の身体的活動が制限され、また、孤独感、疎外感、閉塞感等を感じることによって、その心身に悪影響が及ぶおそれがある。
このような点を考慮して、法76条1項は、隔離の実施を「他の被収容者と接触することにより刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがあるとき」、「他の被収容者から危害を加えられるおそれがあり、これを避けるために他に方法がないとき」の場合に限定している上、同条2項では、隔離の期間を3月とすることを原則とし、特に継続の必要がある場合に限り、1月ごとにその期間を更新することができることとしている。
この点、監獄法下では、隔離は厳格な独居拘禁を原則とし、その期間を6月とし、更新期間も3月ごととしていたところ、本法は隔離の要件を明確にし、その期間を短縮しているが、これは、隔離の必要性等を判断する機会を多くし、不必要・不適当な隔離が行われることのないようにする趣旨に基づくものである(有斐閣『逐条解説刑事収容施設法(第3版)』335頁)。
イ そして、隔離の要件として規定する「他の被収容者と接触することにより刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがあるとき」とは、他の受刑者との円滑な共同生活を送ることが困難となるような特異な性格や性癖を有し、あるいは、暴力的傾向や他の被収容者の規律秩序違反行為を煽動・助長する傾向等を有するため、他の被収容者と接触させた場合には刑事施設及び秩序を害するおそれがあるような場合をいい、具体的には、居室等において大声や騒音を発し続けることにより他の被収容者の平穏な生活環境を害する者、他の被収容者に対して攻撃的な言動に及ぶ傾向が顕著な者、同性愛行為に及ぶ者、刑事施設からの逃走や秩序破壊を唱え、これを他の被収容者に煽動するような者などについて、そのような行動に及ぶ具体的なおそれがある場合である(有斐閣『逐条解説刑事収容施設法(第3版)』333頁)。
また、「他の被収容者から危害を加えられるおそれがあり、これを避けるために他に方法がないとき」とは、受刑者が他の被収容者から精神的な圧迫や身体的な攻撃を受けるおそれがあり、特定の被収容者と工場や居室を別にするなどの方法のみによっては、そのような危害を加えられるおそれが防止できない場合をいい、具体的には、暴力団の幹部など他の暴力団に関係する被収容者から危害を加えられるようなおそれのある者などがこれに該当する可能性がある(有斐閣『逐条解説刑事収容施設法(第3版)』334頁)。
⑶ 法律上明文の根拠のない昼夜単独室処遇に対するこれまでの日本弁護士連合会及び当会からの勧告状況
ア 以上のとおり、法が「隔離」の要件を明記し、その期間も、原則3か月以内に制限し、特に延長が必要な場合でも1か月ごとの更新手続を求めていること、加えて、その必要がなくなればこれらの隔離は直ちに中止されなければならないと規定していることからすると、隔離という処遇の必要性や相当性は、厳格に判断すべきであり、法に基づかない処遇が脱法的に用いられる事態は厳に避けなければならない。
イ しかし、実際には、法文上に規定のない運用上の処遇として、閉居罰終了後の出役待機期間や環境調整等を理由とした昼夜間単独室処遇がなされることがある。このような処遇に対し、日本弁護士連合会は、平成21年6月18日付横浜刑務所長宛勧告書(日弁連総第19号)において、「かかる出役待機期間の設定とその間の昼夜単独室処遇は、法令の明文によらない事実上の措置として受刑者を実質的な隔離状態に置くものであるが、その合理性も必要性も認め難く、受刑者の人格と品位及び人間としての尊厳等を侵害するものとして、人権侵害に当たる」として、横浜刑務所長に対し、閉居罰後に出役待機期間を設けて昼夜単独室の居室指定をする取扱いは、それがやむを得ない場合であってもあくまで一時的・暫定的なものとして、できるかぎり短期間に止めるとともに、その期間中においても、運動・入浴を他の受刑者と共同で行う、所内の行事への参加を可能にする、テレビの視聴を可能にするなどにより、他の受刑者との共同生活をさせ、社会の情報に接し、娯楽の機会も得られるよう、その処遇方法を改善するよう勧告を行っている。
また、当会も、上記日本弁護士連合会による勧告と同様に、配役待ちや環境調整等を理由とする昼夜間単独室処遇について、貴所長に対し、処遇方法の改善を求める勧告書を2度に亘り発出している(平成24年3月5日付(愛弁発第399号)、平成25年10月25日付)。
⑷ 本件処遇に対する評価
ア 本件処遇は、申立人を実質的には隔離と異ならない状態に置くものであるにもかかわらず、法76条に基づく処遇ではなく、法律上明文の根拠のない事実上の隔離措置であると評価できる。
この点、貴所は当会からの照会に対し、本件処遇に法の明文の根拠がないことを認めつつ、法87条の解釈から本件処遇が許容される旨回答するが、法87条は「矯正処遇及び前条(法86条)第1項の規定による指導」に適用されるものである。本件処遇は、矯正処遇や矯正指導として実施されたものではなく、同条は昼夜間単独室の居室指定の法的根拠にはならない。
そして、このような法律上明文の根拠のない事実上の隔離処遇は、不服申立制度との関係でも、審査の申請(法157条)や事実の申告(法163条)の対象とならず手続的保障が全く及ばないことからすれば、そのような取扱いが上記法の趣旨の潜脱とならないよう、法76条の場合と同様またはそれ以上に、厳格にその必要性や相当性が検討されなければならない。
イ 本件では、貴所からの回答では、申立人に対し、本件懲罰終了後の平成29年1月24日から同年5月22日までの間、昼夜間単独室処遇としたのは、同年2月2日に、申立人が、現在の自己のおかれている現状に不満を述べたことや、母が高齢のため早く母国に帰りたい旨を述べたことから、申立人の刑期終了日が、令和7年6月16日であり、本件当時5年以上の残刑期を有していたことも考慮すると、家族を思い、郷愁の念に駆られたり、自己の将来を悲観したりするなどの些細な心情の変化によって衝動的行動に駆られ、僅かな隙を突いて逃走事案等の重大事故をじゃっ起するおそれが認められたため、申立人の動静を単独室において一定期間慎重に観察する必要があり、さらに、申立人の動静を踏まえ新たな就業先を調整する必要があったというものである。
しかし、一般に、受刑者が現状に不満を有することや、受刑者が高齢の家族を思うことや、外国籍の受刑者が郷愁の念に駆られることは、何ら特異なことではない。このような申立人の発言は、法76条1項が隔離の要件とする「他の収容者と接触することにより刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがあるとき」や「他の収容者から危害を加えられるおそれがあり、これを避けるために他に方法がないとき」と同視できる程度のものとは評価できない。
そして、法76条1項は、隔離の判断に当たり、「他の被収容者」との関係を要件とするが、貴所が本件処遇の理由として回答する内容から、他の被収容者との接触を回避しなければならない必要性も認められない。
また、貴所が本件処遇の理由とするする「逃走事案等の重大事故をじゃっ起するおそれ」に関し、法77条は、逃走行為に着手し、または逃走しようとしている場合に限り、刑務官はその行為を抑止するために必要な措置をとることができると規定している。しかし、本件は申立人が現に逃走行為に着手したり、その準備行為を行ったりしたものではなく、申立人の発言から逃走事案等の重大事故をじゃっ起する「おそれ」を認めたにすぎないのであるから、本条との比較においても、現に逃走事案をじゃっ起するに至らず、その「おそれ」を理由に、貴所が申立人に対して昼夜間単独室処遇の措置をとったことは相当ではない。
したがって、本件においては、当初から、申立人を昼夜間単独室処遇としなければならない必要性や相当性が認められないと判断する。
ウ 加えて、本件では、申立人につき昼夜間単独室処遇となった約4か月間、貴所が処遇の理由とした、「些細な心情の変化によって衝動的行動に駆られ、僅かな隙を突いて逃走事案等の重大事故をじゃっ起するおそれ」について一度も見直されていない。
しかし、法76条2項、3項が隔離の期間を3か月と定め、特に継続の必要がある場合にのみ1か月ごとに更新することができるとしていることや、この期間中であっても、隔離の必要がなくなったときは、直ちにその隔離を中止しなければならないと定めていることからすると、本件についても、仮に、やむを得ず昼夜間単独室処遇が必要かつ相当であると判断したとしても、少なくとも同処遇継続の必要性や相当性は不断に見直されなければならず、漫然と4か月に亘り処遇を継続することは不適切である。
エ このように、申立人に対し約4か月の期間、昼夜間単独室処遇がされたことは、法的な根拠規定もなく、理不尽に長期間の実質的隔離状態を強制し、他者と集団からの遮断により身体的・精神的自由を制限するものであって、憲法13条で保障された個人の人格と尊厳を侵害するものである。
同時に、本件処遇は、法定の告知・聴聞等の適正な手続もなく自由を制限する実質的隔離状態に置くものとして、行刑手続についても適用ないし準用されると解される憲法31条の趣旨にも反するものといえる。
また、本件処遇は、「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(自由権規約、B規約)7条の「何人も、拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けない」、同10条1項の「自由を奪われたすべての者は、人道的にかつ人間の固有の尊厳を尊重して、取り扱われる」、同条3項の「行刑の制度は、被拘禁者の矯正及び社会復帰を基本的な目的とする処遇を含む」との各規定に違反するものである。
そして、本件処遇は、従来の隔離及び独居拘禁の悪弊を除去し、必要な場合に採るべきやむを得ない措置としての隔離を必要最小限度に制限しようとする、上記法76条を事実上潜脱するものとして、同条に違反し、またはその趣旨に反するものである。
加えて、このような昼夜間単独室処遇に関する問題については、日本弁護士連合会が平成21年に改善を求める勧告を発出していること、貴所に対しても、当会から2度に亘り昼夜間単独室処遇の運用や処遇方法の改善を求める勧告が発出されているが、本件は、その後も貴所において、必要性、相当性を欠く昼夜間単独室処遇が繰り返されていることを明らかとするものである。
貴所は、当会からの照会に対し、昼夜間単独室の指定につき適正に運用している旨の回答をしているが、上記認定のとおり、約4か月間、本件処遇の必要性や相当性が一度も見直されていないことからすると、昼夜間単独室処遇について適正に運用されているとは評価できない。
以上から、貴所における昼夜間単独室処遇に関する問題点を改めるよう勧告し、今後の処遇の適正化と隔離に関する法の趣旨の徹底をはかる必要性が高いと判断した。
よって、勧告の趣旨記載のとおり勧告するものである。
以上

