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令和5年2月17日付勧告書(名古屋拘置所宛)

愛弁発第65号  令和5年2月17日  

名古屋拘置所
所長  小川  雅之 殿  

                      愛知県弁護士会 会長 蜂須賀 太郎

勧告書

 当会は、貴所に対し、申立人Aからの人権侵犯救済申立事件(令和2年度第49号)について、以下のとおり勧告する。

第1 勧告の趣旨

 未決拘禁者の面会時間を一律15分とし例外的に延長する運用を、面会時間を原則30分以上とし、例外的に「やむを得ない事情」により面会時間を短縮する場合を個々に判断する運用に改めるよう勧告する。

第2 勧告の理由

1 申立ての趣旨

 申立人が貴所に入所した令和2年6月12日以降、未決拘禁者の面会時間は15分に制限されている。面会時間が制限されている理由は不明である。申立人が面会をした際に、面会室が満室であった等の事情はなかった。

 このように貴所において未決拘禁者の面会時間を15分に制限していることは違法であり、やむを得ない事情がない限り、面会時間が30分を下回らないようにすべきである。

2 申立ての趣旨についての調査方法と調査結果
⑴ 貴所に対する文書照会①

ア 文書照会日     令和3年7月8日

イ 照会に対する回答日 令和3年7月26日

ウ 回答の要旨

① 未決拘禁者の面会時間は何分に制限されているか。

 申出の状況等を勘案して、15分程度としているが、必要に応じて延長を認めている。

② 面会時間が30分を下回っているのはどのような理由か。

 未決拘禁者の面会については、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「刑事被収容者処遇法」という。)第118条第5項が準用する第114条第1項は、「法務省令で定めるところにより、・・・面会の時間・・・について、刑事施設の規律及び秩序の維持その他管理運営上必要な制限をすることができる」としており、刑事施設及び被収容者の処遇に関する規則(以下「刑事被収容者処遇規則」という。)第73条(面会の時間の制限)は、「・・・ただし、面会の申出の状況、面会の場所として指定する室の数その他の事情に照らしてやむを得ないと認めるときは、5分を下回らない範囲内で、30分を下回る時間に制限することができる」と定めていることから、これらに当所の実情を照らし合わせ判断している。

⑵ 貴所に対する文書照会②

ア 文書照会日      令和4年2月24日

イ 照会に対する回答日  令和4年3月14日

ウ 回答の要旨

① 一般面会が可能な面会室の数

 合計23室の面会室のうち、弁護士面会専用に12室を割り当て、その余の11室を一般面会室に割り当てている。そして、職員配置上、立会係が3名しか確保できないことから、実際には11室のうち3室のみを用いて一般面会を行っている。

② 面会を担当する職員の人数(1日平均)

 通常、受付係1名、進行係1名、立会係3名、連行係2名の合計7名である。

 このうち、立会係は連行係を兼ねるときもあるため、立会係が常に面会に立ち会っているわけではない。面会件数が多数に上る場合においては、連行係のみでは、被収容者を面会室に連行するための時間繰りが難しく、立会係が連行係の応援をしてもなお、被収容者の面会所への連行が円滑に行われないこともある。

③ 収容者人数(令和3年末時点)

 505名

④ 一般面会の申出及び実施回数

 一般面会の1日の平均実施件数は50.6件

⑤ 面会時間を30分とした場合の運営上の不都合について

 一般面会は、年間を通しての平均は1日50.6件であるが、多い月は1日平均53.3件に達している。1日平均50件と仮定すると面会実施時間帯7時間45分の間、3室の面会室を使用して実施したとして単純計算すると、一件あたり約28分になる。しかし、連行や面会開始前の確認手続等に一定の時間を要すること、50件は飽くまで平均値でありそれを上回ることも予想されること、その時々の面会申込状況については、単純に件数のみから推し量れるものでもなく、混雑の時間帯を予測することも困難であることなどから、面会時間についての法令の規定に当所の実情を照らし合わせて判断している。一方、願箋により面会時間の延長を願い出ている者に対しては、当該願箋が提出された際に所管の統括矯正処遇官が記載した意見を参考に、当日の面会の実施状況を踏まえ、面会時間の延長について判断している。このような措置は、面会件数、一般の面会に使用できる面会室数、立会係その他の職員の配置可能人数、面会手続の状況等を踏まえ、当所における施設業務の正常な運営を維持し、被収容者間の処遇の公平を図り、施設内の規律及び秩序を確保するという判断の下に行われたものである。そして、その時々の面会件数や所要時間等を事前に予測することは不可能であることからすると、被収容者によって一般面会の面会時間に大きな差異が出た場合、被収容者との処遇の公平を害する上、他の被収容者から同様の面会時間の確保を求められれば面会業務に支障が生じ、施設内の規律及び秩序を害するおそれがあることから、当所においては上記の措置をとっている。

⑥ どのような場合に面会時間の延長を認めているのか

 被収容者が行う一般面会に係る面会時間の延長については、個々の面会の用件や、面会実施時の状況等を考慮した上で、個別に判断されるもののため、一律に示すことはできない。

⑶ 法務省に対する文書照会

ア 文書照会日 令和4年6月10日

イ 照会に対する回答日 令和4年7月27日

ウ 回答の要旨 回答者 法務省矯正局成人矯正課長

① 貴所における一般面会の面会時間制限の運用について、法務省としての把握の有無と見解

  網羅的に把握はしていないが、面会時間の制限については、刑事被収容者処遇規則第73条の規定に基づき適正に運用しているものと承知している。

② 貴所において面会時間原則30分を確保するため、法務省で行ってきた改善策又は今後の改善の予定

  刑事被収容者処遇規則第73条を含めた法令の趣旨や運用方法等については、各刑事施設に対し、機会を捉えて指導等している。

3 認定した事実

 貴所では、恒常的に未決拘禁者の面会時間を15分程度に制限したうえで、裁量的に延長を認めるとの運用がなされている。

4 人権侵害性の判断

 未決拘禁者の外部交通権は、憲法第13条、第19条、第21条第1項により保障された権利である。未決勾留により拘禁されている者の新聞紙、図書等の閲覧の自由について、昭和58年6月22日最高裁判所大法廷判決では、「およそ各人が、自由に、さまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取する機会をもつことは、その者が個人として自己の思想及び人格を形成・発展させ、社会生活の中にこれを反映させていくうえにおいて欠くことのできないものであり、また、民主主義社会における思想及び情報の自由な伝達、交流の確保という基本的原理を真に実効あるものたらしめるためにも、必要なところである。それゆえ、これらの意見、知識、情報の伝達の媒体である新聞紙、図書等の閲読の自由が憲法上保障されるべきことは、思想及び良心の自由の不可侵を定めた憲法19条の規定や、表現の自由を保障した憲法21条の規定の趣旨、目的から、いわばその派生原理として当然に導かれるところであり、また、すべて国民は個人として尊重される旨を定めた憲法13条の規定の趣旨に沿うゆえんでもあると考えられる。」としており、外部交通権も、さまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取する機会であるため、憲法第13条、第19条、第21条1項により保障された権利である。

 未決拘禁者の面会時間は、刑事被収容者処遇法第118条第5項が準用する第114条第1項により制限されるが、刑事被収容者処遇規則第73条によれば、面会時間は30分を下回ることはできず、例外的に「面会の申出の状況、面会の場所として指定する室の数その他の事情に照らしてやむを得ないと認めるときは、5分を下回らない範囲内で、30分を下回る時間に制限することができる」と定められている。

 未決拘禁者の法的地位は、無罪推定が働き、本来、人が享受している権利はそのまま保障される。刑事被収容者処遇法第31条は、「未決拘禁者の処遇に当たっては、未決の者としての地位を考慮し、その逃走及び罪証の隠滅の防止並びにその防御権の尊重に特に留意しなければならない」と明確に規定している。

 未決拘禁者は、本来、自由な外部交通権を有しているが、逃走及び罪証の隠滅の防止という拘禁の目的及び刑事施設に収容されているという内在的制限によってのみ制約が許されるのみであり、面会時間が30分を下回る場合の「やむを得ない事情」の判断にあたっては、制限された自由のさらなる制限であるから、刑事施設の長に対し広範な裁量を与えたものではなく、必要最小限の範囲でのみ許されると解すべきである。「やむを得ない」との判断は、個々の面会申出の際の同日の面会の申出状況を考慮して個別になされるべきである。

 この点については、法務省は、ウェブサイトにおいて、未決拘禁者の面会時間については、「30分を下回らない範囲で各施設が定める時間となります。」とした上で「各施設では、できる限り30分を下回らない範囲で面会できるように努めていますが、職員の配置や面会室数などに制約がある中、できるだけ多くの方に平等に面会を行っていただくため、面会を希望する方が集中して来所されたような場合には、5分以上30分未満の時間で面会を終了していただくよう制限することもありますので、御了承願います。」(https://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei_kyouse37.html)と記載しており、個別の面会申出の際の面会状況を考慮して個別になされるべきと解している。

 ところで、貴所には、一般面会用の面会室は11室あり、面会時間を30分として平日の面会実施時間7時間45分で11室をすべて稼働させると1日165件(1室15件×11室)の面会を実施できることになり、また少なくとも現状の3室の面会室の倍にあたる6室の面会室を稼働させれば、現状の平均的な面会数を前提とすれば30分の面会時間の確保に問題はない。貴所が面会時間を原則15分とするのは、面会の申出状況や面会室の数の問題ではなく、面会業務にあたる職員の数が7名しかいないことにある。立会係を1室1名確保し、その他の係も増員すれば面会時間を15分としなくても、被収容者間の処遇の公平を害することにならない。一時的な職員の不足であればともかく、面会業務の職員数の不足については恒常化していると考えられ、人員配置の問題であり施設管理上の内在的な制約ということはいえない。

 貴所の面会業務にあたる職員数を増員せず、未決拘禁者の面会時間を原則15分とした上で自由裁量的に時間を延長するという運用は、法の解釈適用を誤っており憲法第13条、第19条、第21条第1項により保障された外部交通権を侵害し、刑事被収容者処遇法第118条第5項、刑事被収容者処遇規則第73条に反し違法である。

5 結論

 貴所が未決拘禁者の面会時間を原則15分としている運用は恒常化しており違法である。

 よって、当会は、貴所に対し、ただちに、未決拘禁者の面会時間を一律15分程度に制限する違法な運用を改め、原則30分以上とするよう勧告する。

以上