愛知県弁護士会トップページ> 愛知県弁護士会とは > 人権擁護委員会 > 令和7年6月24日付勧告書(名古屋刑務所宛)

令和7年6月24日付勧告書(名古屋刑務所宛)

愛弁発第162号 令和7年6月24日 

名古屋刑務所長 森田 裕一郎 殿

愛知県弁護士会 会長 川合 伸子 

勧 告 書

 当会は、名古屋刑務所に収容されていた申立人○○○○に係る令和1年度第38号人権侵犯救済申立事件につき、以下のとおり勧告する。

第1 勧告の趣旨

1 貴所は、被収容者である申立人について、遅くとも平成30年10月1日から令和元年7月12日までの間、被収容者に逃亡、自殺・自傷のおそれやそれらに準ずる事由が発生する高度の蓋然性があり、かつ、監視カメラ付き居室(保護室ではない。以下同じ)への収容によってしかその結果を回避できない 等の特段の事情がないにもかかわらず、監視カメラ付きの単独居室に収容し、監視カメラによってその行動を24時間監視した。

 また、上記の期間、申立人の居室内の備品及び日用品について物品制限も実施した。

 これらの行為は申立人のプライバシー権、人格権及び財産権を著しく侵害するものであった。

2 したがって、貴所においては、今後、上記のような特段の事情が認められる場合を除き、被収容者を監視カメラ付き単独居室に収容することのないよう、また、物品制限を実施することのないように勧告する。

第2 勧告の理由

1 申立ての趣旨

 申立人は約2年間もの長期にわたって監視カメラ付き居室に収容され、また、私物や日用品を室内で保管することが一切許されない物品規制を受けた。

2 調査方法と調査結果

 本件における調査の経過と概要は以下のとおりである。

⑴ 申立人との面談(令和2年2月13日)

 広島刑務所において、申立人と面談し申立ての内容について事情を聴取した。

 なお、申立人は平成25年10月〇日から令和元年8月〇日まで貴所に収容されていたが、同日以降は広島刑務所に収容されており、同面談も広島刑務所において実施したものである。

⑵ 貴所に対する文書照会(照会日 令和3年3月31日)

 貴所に対し、文書にて照会を求めた。

 なお、申立人が貴所から広島刑務所に移送されていたことから、「当所に関係資料がない」として申立人に関する事実については回答せず、一般論については一部回答があった。

⑶ 広島刑務所に対する文書照会(照会日 令和4年1月28日)

 申立人の移送先である広島刑務所に対し、文書にて照会を求めた。

 広島刑務所からは貴所から送付された移送書類から判明することのみ回答するとの注意書きを付した上で一部について回答があった。

⑷ 貴所に対する文書照会(照会日 令和4年4月8日)

 貴所に対し、文書にて照会を求めた。

⑸ 貴所に対する文書照会(照会日 令和5年2月3日)

 貴所に対し、文書にて照会を求めた。

3 申立ての内容

 申立ての内容の概要は以下のとおりである。

⑴ 申立人は、平成29年7月14日、担当の刑務官を殴打する暴行を加え(以下「本件暴行事件」という。)、懲罰として、55日間の閉居罰 を受け、同事件の翌日7月15日、監視カメラ付き居室に移された。

 また、同年8月末ころ、同室内でタオルで自分の首を絞めていたところを発見され(以下「本件自殺未遂」という。)、一旦、保護室に収容され、翌日には監視カメラ付き居室に戻された。申立人は、本件自殺未遂に対して、35日間の閉居罰を受けた。申立人が本件自殺未遂に及んだ理由は、身の回りの日用品の保管・使用さえも規制された監視カメラ付き居室内での処遇により、極めて強度の精神的苦痛を受けて正気を失った点にあった。

 このように、平成29年7月15日から始まった申立人の監視カメラ付き居室収容は、その後、令和元年7月24日まで約2年間にもわたり継続した。

⑵ 申立人は、監視カメラ付き居室内では、監視カメラによる24時間の常時監視に晒されただけでなく、衣類や書籍、掃除道具、石鹸、用便した際に使うちり紙といった私物や日用品を室内で保管することが一切許されず、そうした物品の使用が必要な時には逐一、刑務官を報知器で呼び出し、必要な物品を告げて持ってきてもらい、使用後はまた報知器で刑務官を呼び出して返却しなくてはならなかった。申立人は、そうした身の回りの日用品の保管・使用さえも規制された監視カメラ付き居室内での処遇により、極めて強度の精神的苦痛を受けて正気を失い、自殺未遂行為にまで及ぶに至ったのであった。

⑶ 申立人は、自殺未遂行為をしてから1年以上が経過したにもかかわらず監視カメラ付き居室収容が終わらなかったため、平成30年10月以降複数回にわたってその理由の説明を求めたが、納得のいく説明は受けられなかった。

⑷ このように、申立人は監視カメラ付き居室に長期にわたって収容されており、それにより収容前に比して申立人の自由が大きく制約され多大な苦痛を被ってきた。さらに、監視カメラ付き居室の長期収容がなされている理由について、貴所に説明を求めても何ら合理的な説明がなされない。したがって、申立人の人権が侵害されていることは明らかである。

4 貴所及び広島刑務所の答弁

⑴ 申立人が貴所から広島刑務所に移送されていたことから、貴所は「当所に関係資料がない」として申立人に関する事実については回答せず、一般論については一部回答があるにとどまった。

 また、広島刑務所は、貴所から送付された移送書類から判明することのみ回答するとの注意書きを付した上で一部について回答をした。

 以上を前提にしたうえで、貴所及び広島刑務所の回答を整理すると以下のとおりである。

⑵ 申立人が約2年間にわたって監視カメラ付き居室に収容されていた旨主張している点について、貴所及び広島刑務所も、平成29年7月15日から令和元年7月12日までの約2年間、申立人が監視カメラ付き居室にいたことは認めている(但し、同期間のうち平成29年7月27日及び同年8月27日乃至29日の合計3日間は保護室にいた)。

 また、貴所は一般論として、貴所には監視カメラ付の単独室についての運用内規はないと認めている。

 そして、申立人が私物や日用品を室内で保管することが一切許されない物品規制を受けている旨主張している点について、広島刑務所は、本件暴行事件後の平成29年7月14日から居室内の備品及び日用品について物品制限がされていた旨答弁している。

5 認定した事実と理由

 申立人からの事情聴取、貴所及び広島刑務所からの回答により、以下の事実を認めることができる。

⑴ 本件暴行事件(H29.7.14)の前後について

 申立人は平成25年10月〇日から令和元年8月〇日まで、貴所に入所していた。

 平成29年7月14日、申立人は刑務官に対して暴行を加えた(本件暴行事件の発生)。これにより、申立人は、本件暴行事件を理由に55日間 の閉居罰 (開始日:平成29年8月3日~終了日:同年9月28日)を受けた。

 本件暴行事件の翌日(平成29年7月15日)以降、申立人は以下の部屋(いずれも室内にビデオカメラが設置された居室)に移された。

期間(開始) (終了) 居室 カメラ居室か
平成29年7月15日

平成29年7月27日

カメラ居室A
平成29年7月27日 平成29年7月27日 保護室 (保護室)
平成29年7月27日 平成29年7月27日 カメラ居室A

 また、平成29年7月14日以降、申立人は居室内の備品及び日用品について物品制限を受けるようになった。

⑵ 本件自殺未遂(H29.8.27)の前後について

 平成29年8月27日、申立人は監視カメラ付き居室内で本件自殺行為に及んだ。

 自殺未遂の内容は、居室内で壁に寄り掛かり両足を投げ出して座り、襟布1枚を何重にも縦折りし、細長くして首に巻き、両端をあごの下できつく結んで締め付けたものであった。申立人の傷害状況は首元付近にやや発赤が認められた程度であった。

 申立人は、本件自殺未遂を理由に35日間の閉居罰、作業報奨金計算額500円削減の処分(開始日:平成29年10月17日~終了日:同年11月20日)を受けた。

⑶ 制限区分、優遇区分の変更について

 申立人の制限区分は、平成25年10月30日に第3種に指定され、その後は変更されていない。

 申立人の優遇区分は下記のとおりであった。すなわち、本件暴行事件及び本件自殺未遂(H29.7~8)の発生後である平成29年10月2日に第2類から第5類へ変更されている。

日付 優遇区分
平成26年4月1日 第4類
同年10月1日 第3類
平成29年4月3日 第2類
同年10月2日 第5類
平成30年10月1日 第4類
⑷ 本件自殺未遂後の居室について

 本件自殺未遂の日(H29.8.27)以降、申立人は以下の部屋に移されたが、令和元年7月12日まで室内にビデオカメラが設置された居室に収容されていた。居室内の備品及び日用品について物品制限も継続していた。

期間(開始) (終了) 居室 カメラ居室か

平成29年8月27日 平成29年8月29日 保護室 (保護室)
平成29年8月29日 平成29年10月13日 カメラ居室A
平成29年10月13日 平成30年7月24日 単独室B
平成30年7月24日 平成30年7月25日 単独室C
平成30年7月25日 平成30年7月26日 単独室D
平成30年7月26日 平成31年3月1日 単独室C
平成31年3月1日 令和元年7月12日 単独室E
10 令和元年7月12日 令和元年7月19日 単独室F カメラ無
11 令和元年7月19日 令和元年7月20日 単独室G カメラ無

 なお、上記2件(本件暴行事件、本件自殺未遂)以外に、申立人が刑務官や他の受刑者等との間でけんかや粗暴行為に及び懲罰に至った事実は認められない。

6 認定した事実に対する評価(人権侵害の有無)
⑴ 規律及び秩序の維持のため必要な限度を超えた措置はできないこと

 刑事施設の規律及び秩序は、適正に維持されなければならない(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「法」という。)73条1項)が、上記の目的を達成するために執る措置は、被収容者の収容を確保し、並びにその処遇のための適切な環境及びその安全かつ平穏な共同生活を維持するため必要な限度を超えてはならないとされている(同条2項)。刑務官による居室の検査や所持品制限も「刑事施設の規律及び秩序を維持するため必要がある場合」に限られている(法75条1項)。

⑵ 監視カメラ付き居室への長期収容について

ア 監視カメラ付き居室への収容の可否の基準

 この点、職員による巡回監視とは異なり、監視カメラ付き居室では被収容者が監視されているかどうかを認識できず、常に監視されているような感覚になるため、心理的な負担が大きく、また、居室内における被収容者の日常生活の一挙一動(排泄行為を含む)を終始監視できる点で通常の単独室とは拘禁感や圧迫感において格段の差がある。それゆえ、監視カメラ付き居室への収容は、巡回視察による監視を中心とする一般の居室に比し、被収容者のプライバシー権並びに被収容者の心身の健康・精神的平穏などの人格権への制約の程度が大きいと認められる。よって、監視カメラ付き居室への収容は原則として行われるべきではなく、例外的に、被収容者に逃亡、自殺・自傷のおそれやそれらに準ずる事由が発生する高度の蓋然性があり、かつ、監視カメラ付き居室への収容によってしか目的を達成できない等の特段の事情がある場合に限って許容されると解すべきである。

 上記の通り、監視カメラ付き居室への収容は、プライバシー権や人格権への制約が大きいにもかかわらず、前記4(貴所及び広島刑務所の答弁)によれば、貴所には監視カメラ付きの単独室についての運用内規すらないとのことであるので、問題があると言わざるを得ない。

イ 本件における検討

 前記5のとおり、申立人は、平成29年7月15日から令和元年7月12日までの約2年間、監視カメラ付き居室(室内にビデオカメラが設置された居室)に収容されていた(但し、平成29年7月27日、同年8月27日乃至29日の合計4日間は保護室に収容されていた。)が、貴所及び広島刑務所は、申立人を監視カメラ付き居室に収容していた理由について回答しなかった。

 この点、申立人は平成29年7月14日に本件暴行事件に及び、同年8月27日に本件自殺未遂に及んでいることから、貴所は、申立人が新たな反則行為や自殺行為に及ぶ可能性が高く、もしこうした行為が再発すれば、施設内の規律及び秩序の維持にも支障をきたすおそれがあるから、申立人を監視カメラ付き居室に収容し、もって、申立人による反則行為や自殺行為の再発を防止する必要があったと考えた可能性がある。

 確かに、本件暴行事件や本件自殺未遂の発生直後の時点においては、申立人が新たな反則行為や自殺行為に及ぶ可能性は否定できないから、再発防止のため監視カメラ付き居室への収容を開始した必要性が認められたのかもしれない。

 しかし、上記2件(本件暴行事件、本件自殺未遂)以外に、申立人が刑務官や他の受刑者等との間でけんかや粗暴行為に及び懲罰に至った事実は認められず、申立人を監視カメラ付き居室へ収容し続けたことについては、必要性が認められない。

 特に、本件暴行事件や本件自殺未遂を理由とする懲罰は平成29年11月20日には終了し、また、申立人の優遇区分は、本件暴行事件や本件自殺未遂の発生後の平成29年10月2日に第2類から第5類へ変更されたものの、平成30年10月1日には第4類へ変更されていることからも、申立人の受刑態度は肯定的に評価されていたものと思われる。

 以上からすれば、本件暴行事件や本件自殺未遂の発生直後の時点においては監視カメラ付き居室への収容を開始した必要性があったとしても、遅くとも平成30年10月1日時点においては、1年以上もの間懲罰対象行為はなく、また、貴所においても受刑態度が肯定的に評価されていたものと思われるのであるから、被収容者に逃亡、自殺・自傷のおそれやそれらに準ずる事由が発生する高度の蓋然性があったとは認められない。

 したがって、本件において、遅くとも平成30年10月1日以降は、監視カメラ付き居室への収容が例外的に許される事情は存在しなかったのであるから、貴所は監視カメラ付き居室への収容を同日以降も漫然と継続したものと評価せざるを得ない。よって、同日以降の監視カメラ付き居室への収容は、申立人のプライバシー権や人格権を著しく侵害する措置であったと認められる。

⑶ 物品規制について

 前記5のとおり、申立人に対し、本件暴行事件後の平成29年7月14日から居室内の備品及び日用品について物品制限が継続していた。貴所が制限していた物品は申立人の私物であるから、この物品制限は申立人の所有権という財産権に対する制約となる。

 しかし、貴所及び広島刑務所は、申立人に対する物品制限の理由について回答しなかった。

 この点、物品制限が本件暴行事件以後に開始していることから、物品制限の理由も、監視カメラ付き居室への収容の理由と同じく、貴所が申立人による反則行為や自殺行為の再発を防止する必要があったと考えたからである可能性がある。

 たとえそうであったとしても、前記⑵のとおり、遅くとも平成30年10月1日時点においては、1年以上もの間懲罰対象行為はなく、また、貴所においても受刑態度が肯定的に評価されているのであるから、被収容者に逃亡、自殺・自傷のおそれやそれらに準ずる事由が発生する高度の蓋然性があるとは認められない。

 したがって、本件において、遅くとも平成30年10月1日以降の物品制限は申立人の財産権を侵害する措置であったと認められる。

 なお、岐阜地方裁判所令和6年5月29日判決では、岐阜刑務所における本件と同様の長期(約7か月)にわたるカメラ室収容、物品規制の事案において、「・・・自殺自傷に及ぶおそれがあると考えられるような具体的な事情も特段見られない状況であったにもかかわらず、本件物品制限及び本件カメラ室処遇の継続の必要性について改めて検討することなく、これらの措置を漫然と継続した・・・」ことについて違法と判断し、損害賠償責任を認めている。

7 結論

 以上からすれば、本件においては、遅くとも平成30年10月1日以降の監視カメラ付き居室への長期収容及び物品制限について、貴所は申立人のプライバシー権、人格権及び財産権を侵害したものであり、人権侵害行為に該当すると認められる。

 よって、貴所に対し勧告の趣旨のとおり勧告する。

以上