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令和5年3月28日付要望書(京都刑務所宛)

愛弁発第638号 令和5年3月28日 

京都刑務所長 殿

愛知県弁護士会 会長 蜂須賀 太郎 

要望書

 当会は、貴所に対し、申立人 A からの人権侵犯救済申立事件(平成30年度第23号)について、以下のとおり要望する。

第1 要望の趣旨

 申立人が、入所時アンケートに「溶剤等にアレルギーがある」と記載していたにもかかわらず、平成28年4月頃、有機溶剤を使用する第14工場に配役をし、その際に、貴所に対して、溶剤等にアレルギーがあることを理由に作業ができない旨を申し出たことに対し、入所時の健康診断において申立人が医師にアレルギーはないと回答したこと等をもって、申立人にはアレルギーがないと判断をし、改めて、医師の判断を仰いだり、アレルギーの検査を行う等の適切な配慮を行わなかったことは、申立人の健康を侵害するおそれがあった行為である。

 今後、貴所において、被収容者からアレルギーへの配慮を求める旨の申出があった場合には、真摯に耳を傾け、医師の判断を仰いだり、アレルギーの検査を行う等、適切な配慮を行うよう要望する。

第2 要望の理由

1 申立ての趣旨

 申立人は、25歳くらいから、シンナー系溶剤にアレルギーを発症し、少しでも匂いを嗅いだだけで、吐き気、めまい、下痢等の症状が出るようになった。このことを前刑の名古屋刑務所の受刑前から継続して報告していたにもかかわらず、申立人は、平成28年4月、シンナー系溶剤を使用する木工工場(第14工場)に配役された。

 申立人は、貴所刑務官に、シンナー系溶剤にアレルギーがあり、シンナー系溶剤を使用する工場での作業ができない旨を申し伝えたが、同刑務官には話を聞いてもらえず、「やる気はあるか?」などと怒鳴られ、恫喝されるなどした。その後も、しばらくやり取りをしたところ、「もういい、やる気がないなら出て行け」と言われたため、後で苦情を申し入れる旨伝えたところ、「申立人が刑務官に詰め寄って『テメー名前はなんじゃ!』等と暴言を吐いた」等とされて調査となり、審査会での申し開きも聞き入れられず、閉居罰20日となった。

2 認定した事実

 当会が実施した申立人からの聴取事項及び当会の照会に対する貴所及び申立人の回答より、以下の事実を認定した。

(1)第14工場における有機溶剤使用の事実

 令和2年2月20日付け貴所の回答によれば、申立人は、平成28年4月から出所迄の間、第14工場(木製家具・装備品等製造)及び第13工場(衣類その他線維製品製造)へ配役されており、第14工場では有機溶剤が使用されていた。

(2)申立人が第14工場への配役を拒否した際に懲罰を受けたことなど

 申立人は、上記配役につき、貴所に対して、溶剤等にアレルギーがあることを理由に作業ができないと申し出たが、貴所は、アレルギーの検査を行う等の処置を行わなかった。

 上記抗議の際に刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律第74条1項に基づく貴所遵守事項第1の26項(侮辱等)に抵触する違反行為があったとして、申立人は、閉居20日の懲罰を受けた。なお、申立人は、反則調査及び弁解書において、シンナー等アレルギーがあるなどと担当職員に述べて抗議をしたものの、粗暴な言動はしていないと述べ、容疑を否認している。

 上記懲罰後、申立人の配役工場は有機溶剤を使用しない第13工場に変更された。

(3)申立人からのアレルギーの主張に対して、事実確認しなかったこと

 令和3年5月11日付け貴所の回答によれば、貴所は、申立人がシンナー等の溶剤アレルギーがあると申し出た際、その申出が事実かどうかを確認していない。

 なお、令和2年2月20日付け貴所の回答によれば、申立人は入所時アンケートに「溶剤等にアレルギーがある」との記載をしたが、入所時の健康診断において医師に対してアレルギーがないと回答をしている。また、申立人は、更正保護施設等調整希望調書においても、自己の健康状態について、「持病等なく健康」と申告したとのことである。

(4)

以上によれば、平成28年4月頃、申立人は、有機溶剤を使用する第14工場に配役された際に、溶剤等にアレルギーがあることを理由に作業ができないと抗議をしたが、実際に溶剤等にアレルギーがあったかが定かではなかったのに、貴所は、溶剤等にアレルギーがあるかをすみやかに確認しなかったと認定できる。

 3 人権侵害性の判断

 貴所は、入所時における申立人の医師に対する自己申告時に、アレルギーはないと回答したこと等を理由に申立人にアレルギーがないと判断している。しかし、回答する申立人の立場からすれば、アレルギーの有無について医師から質問された際やアンケート等の際に、食品・飲料等に限定することなく、すべてのアレルギーを想起して回答しているとは限らない。

 アレルギー疾患は、場合によっては、アナフィラキシーショックにより人命をも危うく等、重篤な健康被害をもたらすおそれがある。そのため、収容施設としては、入所後に被収容者からアレルギーへの配慮を求める申出があった場合にも、被収容者の健康・生命を侵害しないように、慎重かつ適切に配慮することが当然に要求される。

 そこで、貴所に対し、被収容者からのアレルギーへの配慮を求める申出があった場合には、真摯に耳を傾け、医師の判断を仰いだり、アレルギー検査を行う等、適切な配慮を行うよう要望する次第である。

以上