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人権侵犯救済申立事件

平成22年3月31日

法務省矯正局  局長  尾﨑 道明 殿

愛知県弁護士会 会長  細井 土夫

勧  告  書

当会は、名古屋刑務所に在監中である申立人○○○○に係る平成19年度第8号人権侵犯救済申立事件につき、以下のとおり勧告する。

第1 勧告の趣旨

  1. 申立人が当事者となった民事訴訟手続において,申立人が出廷を申し出たのに対し,名古屋刑務所が不許可としたのは,申立人の裁判を受ける権 利を侵害したものであるので,貴職は、名古屋刑務所に対し、今後,刑事被拘禁者が名古屋刑務所収監中に、裁判所から呼出状が送付されるなど申立人が出廷を 求められ、それを理由として出廷する許可を申し出た場合には、当該具体的事情の下で、出廷を許すことによって名古屋刑務所内の規律及び秩序の維持に放置す ることができない程度の障害が生ずる具体的蓋然性があると十分な根拠に基づいて認められ、そのため出廷を制限することが必要かつ合理的と認められるときに限って、出廷を不許可とし、原則として出廷を許可するよう指導・助言するよう勧告する。

  2. 貴職は、全国の刑事施設に対し、上記のとおり運用するための具体的処理規程を策定し、例外的に不許可とする場合には,刑事被拘禁者に具 体的理由を告知するなどして、刑事被拘禁者の裁判を受ける権利、自ら出廷し訴訟活動を行い公正な審理を受ける権利の実現に十分に努めるよう、指導・助言す るよう勧告する。

第2 勧告の理由

1 申立の趣旨

 申立人は、平成18年6月17日ころ、名古屋地方裁判所に、民事訴訟を提起したが、申立人は 名古屋刑務所に収監されていたため、名古屋刑務所に対して、民事裁判の法廷への出廷を求めたにもかかわらず、今まで誰にも認めていないとの理由で民事裁判 への出廷を認めなかった点、名古屋刑務所には、裁判を受ける権利を保障した憲法第32条に反する人権侵害行為があったものである。

 そこで、申立人は、名古屋刑務所に対し、かかる人権侵害行為を今後停止ないし是正することを求めたものである。

2 調査の結果

 当会の調査の結果、以下の事実が明らかとなった。

(1)申立人に対する事情聴取及び書類等の証拠調査の結果より

  • ① 平成17年10月ころ、申立人は、カーナビゲーションシステム機等の窃盗をしたとの被疑事実により逮捕され、その後、2件の追起訴を含め、窃盗3件の公訴事実により起訴された。
     現在の刑の前には前科2犯、少年時代の前歴が2回あり、罪名は、古いものから順に、業過致死傷、強盗致傷、覚せい剤取締法違反、及び覚せい剤取締法違反・公文書毀棄である。

  • ② 平成18年6月17日ころ、申立人は、名古屋地方裁判所に、有限会社A(以下、「被告会社」という。)を被告とする不法行為に基づく損害賠償請求の民事訴訟(以下、「本件民事訴訟」という。)を提起した。
     請求の原因としては、概ね以下のとおりである。
     すなわち、平成17年9月上旬ころ、申立人が被告会社に対し、申立人所有の車両を修理で預けた。平成18年4月ころ、すでに身柄を拘束されていた申立人 が、友人に頼んでその車両を売却しようところ、車両が被告会社によって無断で処分されていた。これにより、車両のほか、車内に装備されたカーナビゲーショ ンシステム機、セキュリティー機具、レーダー機、DVD、及び書籍を失い、車両を含めたこれらの時価額合計金340万円の損害が発生した。よって、金 340万円の損害賠償を求めるというものである。

  • ③ しかし、訴状記載の被告住所地に訴状の送達ができないため、平成18年11月ころ、申立人が公示送達の申立をした。

  • ④ 平成18年11月27日、申立人を被告人とする刑事事件につき、実刑が確定し、平成18年12月7日、申立人の身柄は名古屋拘置所から名古屋刑務所に移監された。

  • ⑤ 平成18年12月10日、名古屋刑務所に収監されている申立人のもとへ、名古屋地方裁判所民事第●部●●係より、本件民事訴訟の第1回期日を平成19年1月26日(口頭弁論期日、名古屋地方裁判所●●●号法廷)と指定する期日呼出状が送達された。

  • ⑥ 平成18年12月15日、申立人は、送達場所の変更、出廷できない旨、及び書面による準備手続を求める旨記載した上申書を提出した。(平成18年12月16日に裁判所受領)

  • ⑦ しかし、平成19年1月26日、原告たる申立人不出廷のまま、本件民事訴訟の第1回口頭弁論期日が開かれた。 なお、被告会社の代表者は出廷したようだが、公示送達途中で送達できたのか、出廷できた理由等は不明である。ただし、被告は、弁論をすることなく退廷している。 申立人としては、上申書に対し何らの通知もないので書面による準備手続に付されたものと思っていた。

  • ⑧ 平成19年2月26日、申立人は、上申書・同時審判申出書を提出して被告会社に対する裁判と同社の代表者個人に対する裁判を併合するように申し入れた。

  • ⑨ ところが、平成19年3月6日、申立人のもとに名古屋地方裁判所民事第●部●●係より、「民事訴訟法263条により、平成19年2月26日の経過で、訴えの取下げがあったものとして事件が終了した」旨の通知書が届いた。 申立人は、このときまで、書面による準備手続に付されたものと思っており、自分が第1回口頭弁論期日に欠席したこととなっているとは思っていなかった。

  • ⑩ 平成19年3月7日、申立人は、名古屋地方裁判所に、訴えの取下げ擬制の結論に不満がある趣旨を記載した上申書、出廷できないことは伝えたはずである との趣旨を記載した上申書、及び訴えの取下擬制の結論への異議の趣旨を記載した異議申立書の3通を提出し、翌3月8日にも、取下げ擬制の結論に対する不服 の趣旨の不服申立書を提出した。

  • ⑪ 平成19年3月13日、名古屋地方裁判所民事第●部●●係から申立人が同月7日に提出した書面に対する裁判所から裁判は終了したとの趣旨の回答が届い たので、翌14日、申立人は、取り下げとなった事件の救済を求めた事務連絡書を提出したところ、同月16日から19日までのいずれかの日に、名古屋地方裁 判所民事第●部●●係から、同月15日付けで、平成19年3月30日午前10時を期日(口頭弁論期日)とする期日呼出状が届いた。

  • ⑫ 平成19年3月19日、申立人は、本人尋問申出書、書面による準備手続申出書、不出廷申出書、事務連絡書、及び予納切手追納届を提出したが、平成19 年3月30日から平成19年4月4日の間のいずれかの日に、申立人のもとへ、名古屋地方裁判所より、「平成19年2月26日の経過により訴えの取り下げが あったものとみなされたことにより終了した」ことを主文とする平成19年3月30日付判決書が送達された。

  • ⑬ 申立人は、名古屋地方裁 判所民事第●部●●係に対し、平成19年4月4日に弁論再開申出書、同月7日に「判決取消の訴え」と題する書面、「判決変更の訴え」と題する書面、異議申 立書、及び上申書を提出したところ、名古屋地方裁判所において控訴の趣旨として受け付け、名古屋高等裁判所民事3部に係属し、次回期日は平成19年9月 27日と指定されていた。
     また、申立人は、平成19年3月3日に、被告会社の代表者個人に対して同じ事実関係に関する損害賠償請求の民事訴訟を提起しており、この件では、裁判所から、書面による準備手続に付さないこと及びその理由を記した事務連絡が送られていた。

  • ⑭ なお、申立人は、平成19年9月21日に出所予定であった。

(2)書面による追加調査結果

  • ① 平成20年8月28日付け申立人に対する照会書、及びこれに対する申立人からの回答書
     申立人は、上記民事裁判の第1回期日が平成19年1月26日(口頭弁論期日、名古屋地方裁判所●●●号法廷)と指定されたため、当時、申立人が所在してい た名古屋刑務所に対し、民事裁判への出廷を求めたが、「法廷への出廷は民事では誰にも認めていない」との回答で、出廷は認められなかった。

  • ② 平成20年11月28日付け申立人に対する照会書、及びこれに対する申立人からの回答書
     申立人は、書面ではなく口頭で、1舎1階のA担当に対し出廷を求めた。これに対し、名古屋刑務所側から申立人に対する出廷は認めない旨の回答は、管轄の主任から口頭でなされた。

  • ③ 平成20年11月28日付け名古屋刑務所に対する照会書、及びこれに対する名古屋刑務所からの回答書
     平成18年12月12日及び平成19年2月5日に、申立人から民事裁判への出廷の申出があったが、名古屋刑務所はこれに対し、平成18年12月12日の申 出については、同月14日に、申立人が取下げ願いと題する願せんを提出し、出廷を辞退し、平成19年2月5日の申出については、同月7日、単独棟区主任か ら、申立人に対し、「本件出頭については取り計らわない。」旨回答した。名古屋刑務所としては、申出に応じるかは個別に判断しているが、本件を不許可とし た理由は、1.民事訴訟は代理人制度が設けられているので自ら出廷することは不可欠でないこと、2.資力がない者でも法律扶助制度を利用して訴訟代理人に 一任できること、3.申立人を同期日に出廷させることは効率収容下にある名古屋刑務所の状況の下で戒護職員を確保することが困難であり、施設の適正な運営 に支障を来しかねないことであった。申立人に対しては不許可の具体的理由は告知せず、本件出頭については取り計らわない旨のみを告知した。

第3 各弁護士会及び日弁連の勧告の存在

1 各単位会による勧告

 本件申立は、申立人のした民事裁判への出廷の申出に対し、これを不許可としたことが、憲法の 保障する裁判を受ける権利(憲法第32条)を侵害すると主張するものであるが、同種の出廷不許可案件に対する人権救済申立につき、平成11年以降、各弁護 士会から下記のとおり合計9つの勧告が出されている。

  • (ⅰ)新潟県弁護士会
    勧告年月日:平成11年 8月 2日  名宛人 新潟刑務所 法務省矯正局
  • (ⅱ)大阪弁護士会
    勧告年月日:平成12年 3月30日  名宛人 大阪拘置所 法務省矯正局
  • (ⅲ)徳島弁護士会
    勧告年月日:平成13年 6月25日  名宛人 徳島刑務所
  • (ⅳ)仙台弁護士会
    勧告年月日:平成16年 2月 4日  名宛人 宮城刑務所
  • (ⅴ)兵庫県弁護士会
    勧告年月日:平成16年 7月14日  名宛人 神戸刑務所
  • (ⅵ)仙台弁護士会
    勧告年月日:平成17年12月 2日  名宛人 宮城刑務所
  • (ⅶ)徳島弁護士会
    勧告年月日:平成18年 3月30日  名宛人 徳島刑務所
  • (ⅷ)富山県弁護士会
    勧告年月日:平成19年 3月23日  名宛人 富山刑務所
  • (ⅸ)兵庫県弁護士会
    勧告年月日:平成19年 7月23日  名宛人 神戸刑務所

※ なお、(ⅸ)の案件については、同会は、平成19年8月29日付で最高裁判所長官・明石簡易裁判所民事係裁判官宛に意見書も送付している。

2 日弁連の勧告
(1)事案の概要

 上記のような、出廷不許可案件の頻発を受け、日本弁護士連合会は、平成19年11月6日付で、法務大臣、法務省矯正局長、東京拘置所長の3名宛に勧告を出している。

 同勧告の対象となった事案は以下の通りである。

 申立人は、東京拘置所において死刑確定者として拘束されていたところ、同人が当事者となった損害賠償請求訴訟など一連の民事訴訟において、少なくとも5件の事件で9回の出廷の願いを提出したが、一度も出廷できなかった。

 一連の訴訟は訴えの取り下げ擬制で終了したり、相手方の代理人弁護士が出廷した場合には申立人の出廷がないまま口頭弁論が開かれ、申立人敗訴の判決がなされている。

 なお、この過程で申立人は、法律扶助協会の東京都支部、名古屋支部に代理援助の申込をしたが、代理人が見つからない、あるいは勝訴の見込みがないとの理由で援助してもらえなかった。

 これに対して、平成14年2月28日に、申立人は人権侵犯救済の申立をした。

 これを受けた日本弁護士連合会は、上記3名に対し、拘束を受けている者の出廷を原則的に認めるべきとの勧告を出した。

(2)法務大臣宛の勧告

法務大臣宛の勧告の趣旨は次のとおりである。

  1. 貴職は、東京拘置支所に対し、今後、裁判所から呼出状が送付されるなど申立人が出廷を求められ、それを理由として申立人から出廷の申出がなされた場合、原 則として出廷を許可すること、例外として当該具体的事情の下で、出廷を許すことによって東京拘置所内の規律及び秩序の維持に放置することができない程度の 障害が生ずる具体的蓋然性があると十分な根拠に基づいて認められ、そのため出廷を制限することが必要かつ合理的と認められる場合に限って、出廷を不許可と すべきこと、を指導・助言すること。

  2. 貴職は、全国の刑事施設に対し、裁判所から呼出状が送付されるなど刑事被拘禁者が出廷を求められ、それを理由として刑事被拘禁者から出廷の申出がなされた 場合、上記のとおりの運用をし、そのための具体的処理規程を策定し、不許可の場合には刑事被拘禁者に対し具体的理由を告知するなどして、刑事被拘禁者の裁 判を受ける権利、自ら出廷し訴訟活動を行い公正な審理を受ける権利の実現に十分務めるよう、指導・助言すること。

(3)法務大臣宛の勧告

法務省矯正局長宛の勧告の趣旨は次のとおりである。

  1. 貴職は、東京拘置支所に対し、今後、裁判所から呼出状が送付されるなど申立人が出廷を求められ、それを理由として申立人から出廷の申出がなされた場合、原 則として出廷を許可すること、例外として当該具体的事情の下で、出廷を許すことによって東京拘置所内の規律及び秩序の維持に放置することができない程度の 障害が生ずる具体的蓋然性があると十分な根拠に基づいて認められ、そのため出廷を制限することが必要かつ合理的と認められる場合に限って、出廷を不許可と すべきこと、を指導・助言すること。

  2. 貴職は、全国の刑事施設に対し、裁判所から呼出状が送付されるなど刑事被拘禁者が出廷を求められ、それを理由として刑事被拘禁者から出廷の申出がなされた 場合、原則として出廷を許可し、例外として当該具体的事情の下で、刑事施設内の規律及び秩序の維持に放置することができない程度の障害が生ずる具体的蓋然 性があると認められ、そのため出廷を制限することが必要かつ合理的と認められる場合に限って出廷を不許可とする運用をすること、そのための具体的処理規程 を策定し、不許可の場合には刑事被拘禁者に対し具体的理由を告知するなどして、刑事被拘禁者の裁判を受ける権利、自ら出廷し訴訟活動を行い公正な審理を受 ける権利の実現に十分務めるよう、指導・助言すること。

(4)東京拘置所長宛の勧告

東京拘置所長宛の勧告の趣旨は次のとおりである。

  1. 貴所は、申立人が、今後貴所に対し、裁判所から呼出状が送付されるなど出廷を求められ、それを理由として出廷する許可を申し出た場合、原則として 出廷を許可すべきであり、例外として当該具体的事情の下で、出廷を許可することによって貴所内の規律及び秩序の維持に放置することができない程度の障害が 生ずる具体的蓋然性があると十分な根拠に基づいて認められ、そのため出廷を制限することが必要かつ合理的と認められる場合に限って不許可とすべきこと。

  2. 貴所は、刑事被拘禁者が、裁判所から呼出状が送付されるなど出廷を求められ、それを理由として刑事被拘禁者から出廷する許可を申し出た場合、上記のとおり の運用をし、そのための具体的処理規程を策定し、不許可の場合には刑事被拘禁者に具体的理由を告知するなどして、刑事被拘禁者の裁判を受ける権利、自ら出 廷し訴訟活動を行い公正な審理を受ける権利の実現に十分務めること。

(5)最高裁判所宛の意見書

 なお、これらの勧告書とは別に、日弁連は、平成19年10月24日付で最高裁判所宛に裁判所 法第69条第2項の活用及び刑事拘禁施設と裁判所の連絡調整・出廷回数の調整を求めることを内容とした「刑事被拘禁者が民事訴訟に出廷できない運用の改善 を求める意見書」を出している。

第4 当会の判断

1 認定できる事実

本件では、以下の①②事実については、本調査担当者の調査に対する申立人及び名古屋刑務所の回答が一致しており、これを認めることができるうえ、③④⑤についても、申立人提出の資料及び名古屋刑務所からの紹介に対する回答書によりいずれも認めることができる。

  1. 申立人は、平成19年2月5日、名古屋刑務所に対して、申立人が提起した民事裁判(第1回口頭弁論期日・平成19年1月26日・名古屋地方裁判所●●●号法廷)への出廷を求めた。

  2. 平成19年2月7日、単独棟区主任から、申立人に対し、「本件出頭については取り計らわない。」との回答で、不許可の具体的理由は告知せず、申立人の民事裁判への出廷を認めなかった。

  3. 申立人は、名古屋地方裁判所に対して、平成18年12月に書面による準備手続の申立書を提出し、同書面は平成18年12月16日に名古屋地方裁判所に受領されていた。

  4. 申立人の提起した民事裁判は、平成19年2月26日の経過により訴えの取り下げがあったものとみなされたことにより終了した。

  5. 名古屋刑務所は、調査担当者からの、上記日弁連の勧告書に基づく法務省の指導助言の有無、被拘禁者の民事裁判出廷許否判断のための具体的処理規程の作成の有無について、「回答を差し控えさせていただきます。」とのみ回答している。
     また、上記第3の1及び2記載の各勧告等が行われたことは、各弁護士会の資料及び日弁連の資料により認めることができる。

2 出廷権の権利性
(1)「裁判を受ける権利」の重要性

 裁判を受ける権利は、憲法や法律上の権利・自由を実効的に保障するものとして重要であり(「基本権を確保するための基本権」)、人はいかに諸種の権利自由 が保障されていてもそれが侵害されたときに裁判上の救済が認められないのでは実質的に権利自由が保障されていることにはならない。

 裁判は、国民を代表する議会が制定した法の下で国民各自が自己の具体的な権利義務をめぐって真剣に立証と弁論を行い、それに依拠して公平な第三者(裁判 官)が決定を行い、それに当事者が拘束されるという構造を持ち、かかる過程自体、近代立憲主義を体現するものとして深い意義が認められる。

(2)「裁判」の内実―公開の対審手続、適正手続保障

 かかる重要な意義を有する「裁判」の保障である以上、それは「裁判」と言いうる内実を備えたものでなければならない。少なくとも、(ⅰ)中立で公平な第三 者により、(ⅱ)適正な手続(その核心は、当事者が自己の主張・立証の機会を十分に与えられることにあるが、他に公開裁判も憲法の保障する重要な原則であ る)に従い、(ⅲ)十分な理由の説示を伴って下された、(ⅳ)実効的な救済方法であることが要請される。 上記(ⅱ)に関しては、憲法第82条第1項が、裁判の公正を確保する趣旨から、「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行う」と定めている。ここでいう 「対審」とは、訴訟当事者が、裁判官の面前で、口頭でそれぞれの主張を闘わせることをいい、民事訴訟における口頭弁論及び刑事訴訟における公判手続がそれ にあたる。

(3)「出廷権」の基本権性

 憲法第32条において、「裁判」を受ける権利が保障されている以上、憲法第82条第1項の保障する、「公開の対審」のために裁判所に出廷する権利も保障されているといわなければならない。

 裁判が公正とされ国民からの信頼が確保されるのは、自らの選んだ代表者の定めた法律 に基づき、国民各自が自ら主張立証する機会が保障され、それに依拠して独立の裁判官の決定を得られるという、適正手続に対する信頼(デュープロセス)と自 己決定という、近代立憲主義に根ざした参加と決定のプロセスが保障されているからである。その意味では、「裁判」の重要な要素である「適正な手続の保障」 は、憲法第32条、第82条第1項のみならず、憲法第31条、第13条からも要求される重要な憲法上の権利ということができる。(なお、憲法第31条は、 直接的には刑事手続における適正手続を保障するものであるが、判例上、行政手続にも準用されており、前述の「裁判」の本質からすれば、司法手続にこそ適正 手続保障が強く求められているというべきである。)

 このように、適正手続保障及び自己決定原則の下、自らの権利義務に関する争訟について公開対審手続のもとに自ら審理を受ける権利は憲法第32条、第82条第1項、第31条、第13条により保障された重要な権利といえる。

(4)小括

 以上、裁判を受ける権利(憲法第32条)は、基本権を確保するための基本権として法の支配の不可欠の前提となり、自己決定の原則とデュープロセス思想に密 接に結びつき、近代立憲主義を体現するものとして重要な意義を有する。したがって、裁判と評価されるには、ふさわしい内実を備えた適正手続の保障が要求さ れ、そのため憲法第82条第1項にいう公開の対審手続(当事者が裁判所および相手方の面前で口頭にて自己の主張・立証を行う機会が十分に与えられているこ と)が保障されなければならない。それは、訴訟当事者は相手方との関係で実質的に不利・偏波な立場に置かれることがない条件・環境下で自己の主張を行う合 理的な機会が保障されねばならないことを意味し(武器の対等)、そのために必要な場合、自ら裁判所に出廷する権利が妨げられてはならない。したがって、出 廷権の保障は、裁判の本質、自己決定の原則、適正手続保障、対審手続保障、公正な審理を受ける権利、武器対等の原則に根ざすものであり、憲法第32条、第 82条第1項、第31条、第13条によって保障された人権といわなければならない。

3 刑事被拘禁者と出廷権
(1)刑事被拘禁者と出廷権

 かかる出廷権は、以下に挙げる理由の通り、刑事被拘禁者にも保障される。第1に、裁判を受け る権利は、前述のごとく法の支配の不可欠の前提であり、近代立憲主義を体現する重要な意義を有し、基本権を確保するための基本権たる性格をもつものである から、人身の自由が奪われている刑事被拘禁者にも当然保障されていることが確認されなければならない。

 第2に、裁判は、早期提起、早期解決とすることが多くの場合重要であり、権利侵害があるのであれば、刑事被拘禁者といえども裁判提起を釈放後まで控えるこ とはできない。なぜなら、(ⅰ)裁判は証拠にもとづき認定されるものであるところ、早期に訴訟提起され審理が開始されなければ証拠特に書証や証人の記憶の 喪失を招く危険がある、(ⅱ)たとえば名誉毀損のように、放置しておくと損害が拡大する場合がある、(ⅲ)受刑中も時効の進行は中断されないなどの事情が あるからである。さらに言えば、死刑確定者、無期懲役受刑者については、出所自体が不確定であり、「釈放後」を想定するのは困難である。

 第3に、民事訴訟には、訴訟代理の制度があり、困窮者に対しては法律援助の制度もあるのであ るから、出廷権を認めない、あるいは制限しても構わないという議論があるが、これは裁判制度の理解を誤っている。本人訴訟を許容し、弁護士強制の制度がな い我が国においては、訴訟代理・法律援助の制度は、あくまで本人の訴訟遂行を十全ならしめるための補充的なものであり、これに代わるものではない。それが ゆえに、費用がなければ弁護士を選任することができないし、法律援助も当番弁護士等の制度とは異なり、援助する事件について条件をつけて審査を行い選別す ることが許されているのであり、援助の対象から漏れる者が出ることを予定している。このように訴訟代理人を確保する権利が保障されていないにもかかわら ず、訴訟代理の制度の存在を出廷権の制限の理由とすることは許されない。

 また、当事者本人は、権利義務の主体として、事実関係を最も良く把握している者であ り、また利害関係を有しているため代理人よりもより的確な主張、意見を述べることができる面があるのであって、本人を助けるための制度である訴訟代理の制 度の存在をもって、本人の訴訟追行を否定することは、本末転倒である。

 以上のとおり、刑事被拘禁者について、刑事拘禁されていることをもって出廷権が保障されないということは許されない。

(2)出廷が認められない場合の不利益

 刑事被拘禁者の出廷に権利性を認める必要があることは、刑事被拘禁者に出廷が許可されない場合の不利益を考察することでも実質的に裏付けられる。

  • (ⅰ)当事者欠席の場合の一般的ルール
     一般に、当事者の一方が最初に為すべき口頭弁論期日に出頭しないときには、当該期日を延期するか、又は延期せずに民事訴訟法(以下「法」という。)第 158条を適用して訴状又は答弁書等を陳述したものとみなして出頭当事者に弁論をさせて審理をすすめるべきものと解釈されており、当事者双方が口頭弁論期 日に欠席した場合には、裁判所としては、職権で次回期日を指定するか、又は次回期日を指定せずに法第263条を適用して、1月以内に期日指定の申立がない 場合、または連続2回出頭がない場合、取下げ擬制により裁判を終了することができるものと解釈されている。

  • (ⅱ)刑事被拘禁者の相手方が出頭した場合―武器不対等
     刑事被拘禁者の出廷が拒否され、相手方(ないしその代理人)のみが出廷した場合、裁判所は、当該期日を延期するか、又は延期せずに法第158条を適用して訴状又は答弁書の陳述を擬製し、出頭当事者に弁論をさせて審理をすすめることになる。
     期日に出頭できなかった刑事被拘禁者は、当該期日で行われた弁論内容を知ることがで きず、勿論その場で反論等することもできない。続行期日が指定された場合、法第158条の特例は適用されないため、口頭主義の基本に戻り、欠席者は続行期 日までに主張書面を郵送していても法廷での陳述は認められず裁判資料として認められないため、出頭当事者の弁論のみに基づいて審理がすすめられる。した がって、第1回期日で陳述されなかった新たな論点が提出されても反論できないことになる。証拠申出は期日前にもすることはでき(法第180条第2項)、当事者不出頭でも証拠調べをすることはできるが(法第183条)、その場合、欠席当事者の反対尋問等防御権が明白に侵害される。
     要するに、当事者が裁判所及び相手方の面前で口頭にて自己の主張・立証を行う機会が 十分に与えられているとは言えず、訴訟当事者が相手方との関係で実質的に不利な立場に置かれることがない条件・環境下で自己の主張を行う合理的な機会が保 障されていないこととなり、一般市民には保障されている裁判を受ける権利、公正な審理を受ける権利の中核である、公開の対審手続の保障、武器の対等が全く 空洞化されてしまう。

  • (ⅲ)刑事被拘禁者も含め双方欠席の場合―実質的な裁判拒否
     さらに、刑事被拘禁者の出廷が拒否され、相手方も欠席した場合、裁判所としては、職権で次回期日を指定するか、又は次回期日を指定せずに法第263条を適用して、1月以内に期日指定の申立がない場合、または連続2回出頭がない場合、訴え 取り下げ擬制により裁判を終了し、例外的に法第244条により審理の現状に基づく判決言い渡しにて裁判を終了させることが想定される。
     そうすると、上記の法条を機械的に適用する扱いが行われれば、刑事被拘禁者から訴え られた場合、答弁書も提出せず欠席すれば、事実上、被告勝訴とほぼ同様の利益を確保できることとなり、これは刑事被拘禁者の出訴権侵害、実質上の裁判拒否 と評する他はなく、刑事被拘禁者の人権保障は全く空洞化してしまうこととなる。

  • (ⅳ)小括
     以上、刑事被拘禁者の出廷が認められない場合の不利益は重大であり、相手方も欠席した場合は実質的な裁判拒絶状態として裁判を受ける権利を剥奪されたに等しい結果となり、相手方が出席した場合には武器対等・当事者対等の原則に明白に違反し公正な審理を受ける権利の侵害状態になると言わざるを得ない。
     従って、利益衡量の面からも、受刑者に出廷権が基本権として認められるべきである。

4 出廷権を制約する原理
  • (1)移動の自由喪失、集団的管理運営の観点からする制約可能性他面において、刑事施設は多数の被拘禁者を収容し、懲役刑確定者(受刑者)に対しては自由 刑として社会からの一般的隔離と自由抑制自体による苦痛を付与して贖罪させ、刑の執行を行うという責務を負った国家施設であり、未決被拘禁者に対しては、 逃亡または罪証隠滅の防止という勾留の目的により、その居住を刑事施設内に限定させ、その限度で身体的行動の自由及びそれに伴うその他の自由に一定の制限 を付しているのであり、死刑確定者に対しては死刑執行に至るまでのその居住を刑事施設内に限定し、その自由制限に関しては少なくとも未決被拘禁者と同様の 範囲での制限は是認されるものであり、これら被拘禁者は移動の自由抑制に伴う自由制限は甘受すべき立場にある。そして多数の被拘禁者を収容することから、 これを集団として管理し規律を保持する必要性も認められる。
     被拘禁者は、かかる拘禁目的と刑事施設の規律保持の要請に照らし、移動の自由並びにそれに伴う自由制限は一般的に甘受しなければならない。出廷権は、施設外への移動を伴うため、施設管理上負担が発生する面は否定できない。

  • (2)人権制約の必要最小限性
     しかし、個人の尊重(憲法第13条)を最も根源的な価値基準としている日本国憲法下 の刑事施設としては、たとえ凶悪な犯罪を犯した刑事被拘禁者に対しても、その人権に対する制約は、拘禁目的と施設管理の規律保持のために必要な最小限の制 限の範囲で認められるというべきである。
     出廷権が基本権を確保するための基本権としての重要性を有し、刑事被拘禁者にも等し く保障されていることに照らせば、裁判所が具体的な訴訟において訴状審査、事前の争点整理等を尽くした上で民事訴訟手続き上の必要性並びに心証形成の必要 性のため口頭弁論期日に出頭を求めた場合、移動自由に伴う制限もその限りで解除されると見るべきであり、原則として出廷は認められるべきである。
     例外として、当該具体的事情の下で、出廷を許すことによって刑事施設内の規律及び秩 序の維持に放置することができない程度の障害が生ずる具体的蓋然性があると十分な根拠に基づいて認められ、そのため出廷を制限することが必要かつ合理的と 認められる場合は、出廷する権利の制限が許されると考えられるべきである。

  • (3)施設への牽制・濫訴・施設の負担増大との指摘について
     以上のとおり、刑事被拘禁者にも原則として出廷は認められるべきであるから、施設に 対する牽制目的等で申立を反復して行う濫訴的なものであるとか、荒唐無稽な内容や主張自体理由がないと思われるであるとか、他の受刑者がこれを模倣して提 訴が乱発し、護送などの職員の負担増大を招きかねない、等と言った理由で安易に出廷の制限が認められることがあってはならない。
     なぜなら
    • 1. 施設に対する牽制目的かどうかも一義的明白に認定し得ないものであって恣意的判断の危険性が大きい。
    • 2. 濫訴的傾向という概念自体あいまいであり、恣意的判断を招く危険性が大きい。仮に、同一当事者間の同一事案に関する不当な提訴が繰り返される場合には、裁判所の権限で訴権濫用により却下判決にて処理することが本則である。
    • 3. 荒唐無稽な内容で主張自体失当かどうかも立場の違いで非常に幅のある概念であり、施設内の調査だけで一方的に判断することは恣意的判断を招く危険性が大きい。
    • 4. 仮に、精神疾患が疑われるような文面であり主張自体理由がないのではないかと思われるものであっても、真実、人権侵害の事実が潜んでいる事案もありえ、訴 状審査を通過し裁判所から呼出状が出された事案については、裁判手続内において審理の上、請求の当否の判断がなされるべきである。
    • 5. 他の被拘禁者による模倣の多発による秩序の混乱、施設側の負担増の危険性については、その可能性を全く否定することはできないが、模倣に過ぎないかどうかは判断に恣意性、主観性が入り込む余地が大きく、基準として抽象的、曖昧なものである。
      また、真実、救済を求めるための訴訟であれば、先例者を模倣して提訴した面はあっても、出廷が否定されるべきではないこと、出廷が一般的に認められ るようになれば一定程度提訴が増加することが予想されるが、これは従来、必要な場合でも出廷が一般的に認められず刑事被拘禁者が権利侵害を受けていても諦 めていたものが、実質的救済を受けうる可能性が出てきたことで提訴を諦めなくなることに伴う当然の結果とも言え、刑事被拘禁者にも等しく裁判を受ける権利 を保障する以上、国家として当然に受忍すべき負担である。
    • 6. 施設外への護送の負担についていえば、過剰収容の情勢の下、人員配置に相応の負担があることは否定できないが、だからといって基本権である出廷権を、公正 な審理のため必要であるとして裁判所から呼出状が出されるなど出廷を求められているにもかかわらず制限することは原則として許されないのであり、例外的に 出廷を制限することが許されるか否かは、上記4の(2)の基準に照らして、厳格に検討されるべきである。
  • (4)以上からすれば,刑事被拘禁施設長に対し,出廷の要否を判断する上で広範な裁量を認めるのは妥当ではなく、むしろ,出廷は,原則として認められるべきである。
     その上で,例外として,当該具体的事情の下で出廷を許すことによって拘禁目的の達成 又は刑事施設内の規律及び秩序の維持に放置できない程度の障害が生ずる具体的蓋然性があることが十分な根拠に基づいて認められ,そのために出廷を制限する ことが必要かつ合理的と認められる場合に限って,出廷する権利の制限が許されるべきである。
     例えば,被拘禁者が,単に出廷の機会を利用して傍聴に来る関係者と接触を図るなど,出廷を道具として他の目的を果たそうとし,出廷が権利濫用になること が具体的な根拠の基づいて明白である場合,あるいは出廷に伴う護送によって被拘禁者本人の健康状態が悪化するおそれが明らかな場合などがこうした例外的な 場合である。

5 各弁護士会及び日弁連勧告の存在

 以上の通りの「出廷権」の理解を前提として、上記第3の2記載のとおり、日本弁護士連合会は、平成19年11月6日付で、法務大臣、法務省矯正局長、東京拘置所長の3名宛に勧告を出している。 また、この日弁連の勧告の背景として、上記第3の1記載の各弁護士会による勧告が存在している。

 日弁連の勧告書が出された時期は、本申立に関して名古屋刑務所が出廷の申出を不許可 とした平成19年2月7日より後の平成19年11月6日のことではあるが、日弁連の勧告の対象となった人権侵犯救済の申し立て自体は平成14年2月28日 のことであり、出廷願いが出され、これが不許可とされた裁判の期日は平成11年から平成14年にかけてである。

 すなわち、上記第3の各弁護士会の勧告が出され、刑事被拘禁者の出廷を不許可とすることについて問題が提起されていた状況が本件申立の背後に存在する。

 各勧告の対象となった刑務所、拘置所は、これらの施設を管轄する法務所に対して、か かる各弁護士会からの勧告があった事実を報告したと考えられ、刑事施設を管轄する法務省矯正局及び各刑事施設はかかる勧告の存在および勧告の背景にある刑 事被拘禁者の出廷不許可という背景状況を十分に認識していたというべきである。

6 名古屋刑務所による人権侵害

 本件では、上記の通り、平成19年2月5日、申立人から、名古屋刑務所に対して、申立人が提起した民事裁判(第1回口頭弁論期日・平成19年1月26日・ 名古屋地方裁判所●●●号法廷)への出廷を求め、平成19年2月7日、単独棟区主任から、申立人に対し、「本件出頭については取り計らわない。」との回答 で、不許可の具体的理由は告知せず、申立人の民事裁判への出廷を認めなかったことは、名古屋刑務所自身も認めるところである。

 名古屋刑務所は、本件申立にかかる名古屋刑務所の出廷不許可について、本件を不許可 とした理由を、①民事訴訟は代理人制度が設けられているので自ら出廷することは不可欠でないこと、②資力がない者でも法律扶助制度を利用して訴訟代理人に 一任できること、③申立人を同期日に出廷させることは効率収容下にある名古屋刑務所の状況の下で戒護職員を確保することが困難であり、施設の適正な運営に 支障を来しかねないことと説明するにとどまっている。

 従って,当該具体的事情の下で,本件申立人について、上記4の(2)の基準を満たす か否かを具体的に検討することなく、また少なくとも,本件において,その旨の主張や疎明は一切なされておらず,実質的に見て、一般的に刑事被拘禁者の出廷 を不許可としたものというべきであるので、名古屋刑務所による不許可の措置は、申立人の出廷権を侵害したものといわざるを得ない。

7 貴局による人権侵害
(1)貴局の責務

 貴局には、矯正行政全般に関する事務を司る法的権限があり、各刑事施設が、受刑者、死刑確定者などの刑事被拘禁者の権利を侵害している場合には、その是正を指示、指導し、適法かつ妥当な刑事被拘禁関係を確保、維持する責務と権限が存する。

 刑事被拘禁者の出廷権に関しても、貴局には、各刑事施設に対し、裁判所から呼出状が 送付されるなど刑事被拘禁者が出廷を求められた場合、原則として出廷が許可されるべきであり、例外として当該具体的事情の下、出廷を許すことによって刑事 施設内の規律及び秩序の維持に放置することのできない程度の障害が生ずる具体的蓋然性があると十分な根拠に基づいて認められ、そのため出廷を制限すること が必要かつ合理的と認められる場合でなければ、刑事被拘禁者を出廷させるよう指示、指導をする責務があると考えられる。各刑事施設が上記の要件がないにも かかわらず、刑事被拘禁者を裁判所に出廷させないという運用をしていることの報告があり、或いはその事実を覚知した場合には、これを是正すべく、刑事施設 に対し、出廷を許可するよう指示、指導をする責務がある。

(2)本件への当てはめ

 貴局が、名古屋刑務所から、申立人が平成19年2月5日に名古屋刑務所に対して出廷の許可を求めていたことについて、報告を受けて覚知していたか否かについて明らかではない。

 しかしながら、上記第3の1記載の各弁護士会の勧告の存在に照らせば、多くの事案で刑事施設が、上記の出廷を不許可とする要件がないにもかかわらず、刑事被拘禁者の民事裁判への出廷を認めていない実態を知り、知りうる立場にあった。

 加えて、名古屋刑務所は、上記日弁連の勧告書に基づく法務省の指導助言の有無、被拘 禁者の民事裁判出廷許否判断のための具体的処理規程の作成の有無について、「回答を差し控えさせていただきます。」と回答していること、平成19年2月7 日時点で、名古屋刑務所が何ら具体的理由を示すことなく、申立人の民事裁判への出廷を不許可とした事実が認められることを考えれば、貴局は、刑事被拘禁者 の出廷を不許可とする運用を放置し、刑事施設に対し、上記出廷を不許可にする要件がない場合には出廷を許可するよう指導・助言を何ら行ってこなかったと認 められ、本件申立人の出廷の申出が全て不許可とされたことは、かかる貴局の対応に影響されたものと推認すべきであるから、貴局も、申立人の出廷権を侵害し たものと判断せざるを得ない。

8 結論

 よって、当会は、貴局に対し、勧告の趣旨記載のとおり勧告するものである。

以上