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人権侵犯救済申立事件

2008(平成20)年8月21日

法務大臣 殿
名古屋矯正管区長 殿

愛知県弁護士会 会長  入谷 章

要  請  書

 貴職におかれましては、日頃、法務行政の適切な執行を図られておられますことに敬意を表します。

 さて、愛知県弁護士会は、本日、○○○○の申立に係る平成20年度第12号人権侵犯救済申立事件につき、名古屋刑務所に対して、早急に、○○○○に ついて、医療専門施設又は刑事施設外の専門医療機関に移送して、肝がんに対して、手術などの適切な治療を受けさせるよう、勧告いたしました。この内容を是 非とも貴職にご認識いただきたく、同所宛の勧告書の写しをご送付いたします。

 本例は、名古屋刑務所に在監中の者が、同所において、肝がんと診断され、平成19年12月3日には、同所医務部医師により、肝がんの手術適応があ り、医療専門施設に移送して手術などの加療が必要と診断されたものの、現在に至るまで、医療専門施設に移送されず、上記診断後8ヶ月以上にわたり、必要な 診療が実施されていない事案であります。

 名古屋刑務所は、名古屋矯正管区管内の医療重点施設ではありますが、肝がんに対する肝切除術などの専門的治療は不可能であり、かつ、我が国の刑事施 設のなかで、かかる治療が可能な刑事施設は、八王子医療刑務所のみであること、他方で、刑事施設外の医療機関では、ただちに生死を左右するような緊急手術 以外の待機手術については、協力をえられないことを名古屋刑務所の担当官から聞き及んでおります。そのため、名古屋刑務所だけでも、専門的治療を受けるた めに、八王子医療刑務所への移送を待っている者が本例を含め5名おり、同様の状況は、我が国の多くの刑事施設でも同様であるとのことであります。

 つまり、現在、日本中で、少なくない在監者が、社会では当然受けることができる医療を受けることができず、疾病を抱えたまま、治療を受けることを切望し、一日千秋思いで八王子医療刑務所への移送の日を待っている状態に置かれているというのが、我が国の実情なのであります。

 申し上げるまでもございませんが、これは、在監者の医療を受ける権利に対する重大な人権侵害であります。しかも、かかる治療の遅延は、在監者の生命・身体を脅かす恐れの高いことでもあります。到底、放置が許される事態ではありません。

 従いまして、貴職におかれましては、以上の深刻な事態を今一度ご認識いただき、

  1. 申立人を、早急に、医療専門施設又は刑事施設外の専門医療機関に移送して、肝がんに対する手術などの適切な治療を受けさせること
  2. 各刑事施設から八王子医療刑務所等の医療専門施設への移送が遅延している状況がないかをはじめ、我が国の刑事施設における専門的医療の実情を調査すること
  3. 在監者が必要な専門的医療を受けることができるよう、刑事施設における医療体制を抜本的に改善すること

 に、ご尽力いただきたく要請する次第です。

以上