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平成19年12月25日付名古屋拘置所宛て要望書
愛弁発第275号 平成19年12月25日
名古屋拘置所
所長 遠山 幹夫 殿
愛知県弁護士会 会長 村上 文男
要 望 書
当会は、貴所に在監中の○○○○に係る、人権侵犯救済申立事件(平成17年度第24号)につき、以下のとおり要望する。
第1 要望の趣旨
申立人は、平成12年4月17日から貴所に在監し、平成17年1月21日に死刑が確定した者であるところ、申立人の申し出に対する後記4件の不許可処分は、いずれの処分も死刑確定者である申立人の人権を侵害するものであった。
平成19年6月1日に「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」が施行されたことにより、死刑確定者の処遇は、今後、同法に基づいて実施されるものであることから、今後はその運用において、
- 在監中の死刑確定者と再審請求代理人との接見については、接見時間、接見回数を不当に制限しない、
- 在監中の死刑確定者から外部交通の申し出があった場合には、「心情の安定」を理由にこれを不許可にしない、よう要望する。
(不許可処分の内容)- 1 平成17年2月、申立人の再審請求代理人である菊田幸一弁護士、大熊裕起弁護士との接見時間を1時間に延長して欲しい旨申し出たが、これを不許可とした。
- 2 平成17年2月、△△△△弁護士、▲▲▲▲弁護士との「接見回数制限解除願」の願箋を提出したが、これを不許可とした。
- 3 平成17年1月24日、使用済み切手を「愛知県社会福祉協議会ボランティアセンター」に送ろうとしたところ、これを不許可とした。
- 4 平成17年4月18日、領置中の写真2枚(被写体はいずれもシスター)を閲覧しようとしたところ、これを不許可とした。
第2 要望の理由
1 申立の概要
申立人は、強盗殺人罪等により平成12年4月17日から貴所に在監中であり、平成17年1月21日に死刑が確定し た者であるところ、貴所において死刑確定後の処遇等について人権侵害があったとして、当会に対し、要望の趣旨に記載した4件の不許可処分に関する救済を求 めた(なお、申立人の申立事由は、この4件の他に24項目に及んでいた)。
2 調査の概要
(1)予備調査について
平成17年10月19日と同年11月11日の2回にわたり、貴所において申立人と面会して聞き取り調査を行った。内容は次のとおり。
① 弁護人との接見時間
貴所の「しおり」には、「一般面会時間は30分、弁護人面会時間は無制限」と定められているところ、平成17年2月、再審請求の弁護人である菊田幸一弁護士、大熊裕起弁護士との接見時間を1時間に延長して欲しい旨申し出たが、不許可となった。
② 弁護人との接見回数
貴所の「しおり」には、弁護人との接見につき「時間や回数の制限はしていません」と記載されているところ、平成17年2月、菊田幸一弁護士、大熊裕起弁護士との「接見回数制限解除願」の願箋を提出したが、不許可とされた。
③ ボランティアの禁止
死刑確定後、親族以外の者との交通が原則禁止となったが、確定後の平成17年1月24日、使用済み切手を「愛知県社会福祉協議会ボランティアセンター」に送ろうとしたところ、不許可とされた。これは、「良心の自由」を侵害するものである。
④ 写真の仮出しについて
確定後の平成17年4月18日、領置中の写真2枚(被写体はいずれもシスター)を仮出ししようとしたことろ、「被写体が親族ではなく、外部交通を許可していない者であるから」という理由で不許可とされた。
(2)本調査について
ア 貴所に対し、平成18年3月30日付けにて文書による照会を行ったところ、同年4月26日付けで回答があったが、内容は次のとおりであった。
① 弁護人との接見時間
- 質問 弁護人との面会時間に制限はありますか。
平成17年2月、申立人の再審請求の弁護人である菊田幸一弁護士、大熊裕起弁護士との接見時間を一時間に延長してほしい旨の申立人の申し出を不許可にした事実はありますか。不許可にした場合、その理由は何ですか。
② 弁護人との接見回数
- 質問 弁護人との接見につき、時間や回数の制限はありますか。
平成17年2月、申立人による菊田幸一弁護士、大熊裕起弁護士との「接見回数制限解除願」を不許可にした事実はありますか。
③ 寄付の不許可について
- 質問 申立人の死刑確定後の平成17年1月24日、申立人が使用済み切手を「愛知県社会福祉協議会ボランティアセンター」に寄付するため送ろうとした申し出を不許可とした事実はありますか。不許可にした場合、その理由は何ですか。
④ 写真の仮出し不許可について
- 質問 一般に、写真の仮出しが認められないことがありますか。
死刑確定後の平成17年4月18日、申立人が、領置中の写真2枚(被写体はいずれもシスター)を仮出ししようとしたところ、不許可とした事実はありますか。不許可の理由は、「被写体が親族でなく、外部交通を許可していない者であるから」ということでしたか。
(2)上記回答書のみでは不十分と思われる事項について、平成18年8月11日と同年9月4日の2回にわたり、貴所第一統括◇◇◇氏と面会して補充聞き取り調査を行った。内容は次のとおり。
① 弁護人との接見時間について
回答中「1時間に延長して欲しい旨の申し出」について、当日の状況をみて判断することにして、面会に先立つ延長願いは不許可にした。当日は、30分位で両弁護士との話が終わり、弁護士の方から退席した。
② 弁護人との接見回数について
回答中「一般面会の取扱い」について、1日1回、概ね10分以内、同時に面会できる人数は3名までである。
死刑確定者については、社会との過剰な接触は心の静穏を乱すことも多く、面会については慎重かつ厳格に扱っている。
③ 寄付の不許可について
回答中「内規」について、公表していないが、死刑確定者の処遇規定が存在する。原則として、親族、本人の権利義務上やむを得ない、弁護士や公務所との外部交通以外は許可しない。
もっとも、新法により許可の範囲は広がる見込みである。
④ 写真の仮出し不許可について
回答中「仮出し」と「閲覧」について、「仮出し」は領置物の強制的占有を解除して被収容者に渡して自由に用いさせることであり、「閲覧」は被収容者に提示するだけである。
回答中「外部交通を許可された者」について、内規で写真の仮出しの基準は、写真の閲覧には被写体と被収容者が会う場合と類似する面があることから、被写体が外部交通を許可された者か否かということで判断する。
外部交通が許可されるか否かの判断基準は、親族か否かである。
外部とのコミュニケーションには慎重に配慮している。たとえば、妻から離婚を告げられて自殺企図したり暴れたりというケースがある。
新法施行に向けて運用は弾力化してきており、保安上の支障がない限り、非親族でも柔軟に考慮するようになってきている。
3 判断
(1)再審請求代理人との接見時間について
貴所の説明によれば、再審請求代理人との面会は一般面会とされており、接見時間の制限があり、両弁護士からの時間延長の申し出は不許可にしたが、当日の状況を見て判断することにしたところ、約30分で会話が終わり、弁護士から退席したという。
しかし、当日約30分で接見が終了したのは、接見時間の延長が認められなかったために、両弁護士が接見内容を絞って時間調整をしたためであるとも考えられるのであり、時間延長の必要がなかったことの理由にはならない。
刑事再審請求人とその代理人との面会が、「一般面会」として規律されるものであったとしても、再審請求人の権利擁 護の観点からすれば、その面会の内実は、刑事事件の弁護人の接見と異ならない。したがって、面会の実際の運用においては、刑事再審請求人とその代理人との 面会は、刑事弁護人の接見に可能な限り準じるような取扱いがなされるべきである。
貴所においては、事前の延長願いは不許可としつつ当日の状況次第で許可に変更する扱いがされていたとはいうもの の、再審請求人とその代理人との面会が刑事接見に準ずる程度の重要性を有することに照らせば、そもそも事前の延長願いを不許可にすること自体が相当でな い。実際、一旦不許可とされた後に、許可に変更されるという保障もない。したがって、本件において、時間延長の申し出を不許可にしたことは、申立人の人権 侵害にあたると言わざるを得ない。
(2)再審請求代理人との接見回数について
貴所は、死刑確定者の再審請求代理人である弁護士との面会は通達示上一般面会とされており、1日1回、概ね10分以内、同時に面会できる人数は3名までであるとしつつ、弁護士から緊急で面会が必要との申し出があればその都度判断する、としている。
貴所は、事前に無制限に面会を認めることは、施設管理上認められないというが、上記のような面会の重要性にかんが みれば、死刑確定者の収容目的に照らして、その目的が達成できないことが相当程度の蓋然性持って予想されるような具体的事情がある場合に限って、制約でき ると解するのが相当であり、本件において、貴所は、抽象的に「施設管理上認められない」とするのみであって、具体的な支障を説明していない。
また、貴所は、死刑確定者の「心情の安定」を理由にして、面会を慎重かつ厳格に扱うべきことが相当であるとしてい るが、「心情の安定」は、元来、死刑確定者の権利を制限する根拠にはそもそもなり得ない。平成19年6月から施行された「刑事収容施設及び被収容者等の処 遇に関する法律」において、死刑確定者の処遇の原則として、「死刑確定者の処遇に当たっては、その者が心情の安定を得られるようにすることに留意するもの とする」(32条1項)と明記されているが、従前、「心情の安定」が死刑確定者の権利制限根拠であるかのように運用されてきた誤解を解消する趣旨で、衆・ 参法務委員会において「『心情の安定』は死刑に直面する者に対する配慮のための原理であり、これを死刑確定者の権利を制限する原理であると考えてはならな い」との附帯決議がなされているが、この附帯決議は、「心情の安定」を根拠に権利を制限することが許されないことをあらためて確認したものと解されるので ある。
なお、「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」では死刑確定者の外部交通が大幅に認められるようになり、申立人によれば同法施行後は接見回数制限もなくなったとのことであるが、当時の取り扱いは、やはり人権侵害にあたるものと言わざるを得ない。
(3)ボランティアの禁止について
使用済み切手をボランティア団体に送付することは、自己の思想、良心に基づく行為であり、死刑確定者に対してこれを許可しないことはその者の思想、良心の自由を侵害することになると言うべきである。
貴所は、死刑確定者の処遇規定により、原則として、親族及び本人の権利義務上やむを得ない弁護士や公務所との外部交通以外は許可しないとしており、使用済み切手の送付を不許可にしたことも認めている。
「心情の安定」が権利制限根拠にならないこと、「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」が大幅に外部交通を認めるに至ったことは先に述べたとおりである。
従って、相手方が使用済み切手の送付を不許可にしたことは人権侵害にあたるものである。
(4)写真の仮出し、閲覧について
従自己が所有する写真を見たいときに見ることは、人間としての基本的な自由権に属することであって、理由もなくこれを制限することは人権侵害にあたる。
従貴所は、「写真の閲覧には被写体と被収容者が会う場合と類似する面があることから、被写体が外部交通を許可された者か否かということで判断する」として、申立人の申請にかかる写真は外部交通を許可された者以外が被写体となっている、との理由から閲覧を不許可にした。
従なお、申立人は「仮出し」が不許可とされたとしているのに対し、貴所は「仮出し」ではなく「閲覧」を不許可にした として、この点に食い違いがあるものの、申立人は最終的には「閲覧」ができなかったことを問題にしており、貴所も申立人が当該写真の「閲覧」ができなかっ たことを認めているため、「閲覧」の不許可処分があったものとして考える。
従しかしながら、写真を閲覧することと、人を会って会話したり信書をやり取りすることとは明らかに異なるのであり、これを同一に扱うという基準に合理性があるとは考えられない。
従また、貴所は、死刑確定者の「心情の安定」への配慮を強調するが、死刑確定者が交流しているシスターの写真を見ることが申立人の「心情の安定」を害するとは到底考えられない。
従「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」では死刑確定者の外部交通権が大幅に拡大されたため、写真の閲覧についても取り扱いが変わるものと考えられるが、当時の不許可処分については、やはり人権侵害にあたると言わざるを得ない。
従よって、当会は、以上の判断を踏まえて、貴所に対し、上記のとおり要望するものである。
以 上