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愛知県弁護士会会長声明

重要施設等の土地等の規制等に関する法律案に反対する会長声明

 「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律案」(以下「本法案」という)が、本年6月1日の衆議院本会議で可決され、政府は、同月16日までの通常国会で本法案を成立させる方針である。

 本法案では、閣議決定した基本方針に基づいて、内閣総理大臣が、重要施設の敷地の周囲おおむね千メートルと国境離島等の区域内に「注視区域」及び「特別注視区域」を指定することができ、当該区域内にある土地及び建物(以下「土地等」という)の利用状況について、調査を行い、情報の提供を求め、土地等の利用者の行為を制限して、違反した者には刑罰を科することが定められている。  
 本法案は、安全保障上の観点から、外国資本による重要施設近辺の土地等の買収を防ぐことが立法事実とされているが、以下の問題点がある。

 1 外国人の土地取得と自衛隊の運用に関して、本年2月25日の衆議院予算委員会で、山本防衛副大臣は、2013年以降の調査で、外国人と推察される土地所有者が都内23区で5筆にすぎず、自衛隊の運用等に支障が起きているということは確認されていないと答弁している。  
   また、同予算委員会で、経済産業省は、原発関連でそのような問題は把握していないと答弁し、農林水産省は、水源を目的とする土地取引はないと答弁している。
   したがって、本法案がいう重要施設周辺の土地につき、外国資本による土地取得による問題が発生している事実はなく、同法案の立法事実はない。

 2 本法案の「重要施設」には、自衛隊の施設等以外に「生活関連施設」も含まれているが、「生活関連施設」は「国民生活に関連を有する施設であって、その機能を阻害する行為が行われた場合に国民の生命、身体又は財産に重大な被害が生ずるおそれがあると認められるもので政令で定めるもの」という曖昧な定義のため、恣意的な解釈による広範な指定がなされるおそれがある。

 3 政府は、現状では、重要施設の敷地の周囲おおむね千メートルを「注視区域」の指定対象として四百数十の防衛関連施設周辺を予定していると説明している。
   愛知県内には、陸上自衛隊は豊川駐屯地、守山駐屯地、春日井駐屯地があり、航空自衛隊は小牧基地、高蔵寺分屯基地があるが、その周辺おおむね千メートル内には、住居、学校、スーパー、事務所、工場、鉄道の駅、神社仏閣等があり人々の日常の生活が営まれている。例えば、陸上自衛隊守山駐屯地からおおむね千メートルには、バンテリンドーム ナゴヤ(旧ナゴヤドーム)に及び、その範囲には多くの学校も所在している。
   本法案では、閣議決定した基本方針に基づき、内閣総理大臣が、このような日常の生活地域を「注視区域」に指定して、土地等利用状況調査を行うことができるだけでなく、その調査に係る注視区域内にある土地等の利用者その他の関係者に関する情報のうちその者の氏名又は名称、住所その他政令で定めるものの提供を、関係行政機関の長及び関係地方公共団体の長その他の執行機関に対して、求めることができる。さらには、注視区域内にある土地等の利用者その他の関係者に対し、当該土地等の利用に関し報告又は資料の提出を求めることができ、これを拒否した者には30万円以下の罰金を科すとしている。
   法案の土地等利用状況調査そのものが曖昧で恣意的に行われるおそれがあり、さらにはその調査のための、情報提供を求める内容も恣意的に行われるおそれもあり、政府が、刑罰の威嚇によって、市民のプライバシー権や思想良心の自由、表現の自由等、基本的人権を著しく害する危険がある。

 4 本法案では、内閣総理大臣が、注視区域内の土地等の利用者が当該土地等を、重要施設の施設機能等を阻害する行為に供し、又は供する明らかなおそれがあると認めるときは、勧告及び命令をすることができ、命令に違反した場合は2年以下の懲役や200万円以下の罰金、又は併科に処すると規定している。しかし、「機能を阻害する行為」や「供する明らかなおそれ」というような曖昧な要件の下で利用を制限することは、注視区域内の土地等の利用者の財産権を不当に侵害する危険性がある。

 5 本法案は、「特別注視区域」内の一定面積以上の土地等の売買等契約について、内閣総理大臣への届出をしなかったときや虚偽の届出をしたときは、6月以下の懲役や100万円以下の罰金に処すると規定している。
   この規定は、上記土地等を所有する者にとっては、届出をしないことで懲役刑を科すという極めて厳しい財産権の制限となるものであり、刑事罰の必要性には疑問がある。

 よって、当会は、基本的人権の擁護と社会的正義の実現という観点から、本法案が国会審議によって廃案とされることを強く求める。

 2021年(令和3年)6月9日

愛知県弁護士会 会長 井 口 浩 治