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消費者問題速報 VOL.215 (2023年9月)

1 中古住宅の売買について、建物に雨漏り等が発生して居住が困難になる瑕疵があったことから、瑕疵担保責任に基づく売買契約の解除が認められ、売主(業者)に対する代金相当額の返還請求及び損害賠償請求が認められた事案(大阪地裁令和5年5月25日判決)

(1) 原告Xは、平成28年1月にY1から中古住宅(平成14年2月新築)を購入(本件売買契約、総額1900万円のうち、建物部分の相当額は約920万円)し、翌2月に引き渡しを受けたが、同年6~7月頃から雨漏りが発生し、令和元年8月の台風後には外壁化粧柱梁が崩落するなど居住が困難になる瑕疵があったことから、瑕疵担保責任に基づき、本件売買契約を解除したと主張して、Y1(売主・宅建業者)に対して、選択的に①解除による原状回復請求権に基づく代金相当額または②不法行為に基づく損害賠償を求めるとともに、Y2(Y1の代表取締役)、Y3(仲介業者の代表取締役)、Y4(重説を行った宅建士)に対して、Y1と連帯して不法行為に基づく損害賠償を求めた。

(2) (争点1)引き渡し時点で本件建物に隠れた瑕疵があったか

 裁判所は、雨漏りの原因が、屋上バルコニーの横引きルーフドレインの取付け不備等であると認めたうえで、瑕疵の発生時期については、Y1らが引き渡し後に発生した地震や台風などが雨漏り等の原因であると主張したのに対し、発錆状況等に照らすと、雨漏りは相当以前から発生したことがうかがえるとして、引き渡し時点で隠れた瑕疵があったと認定した。

(3) (争点2)修補費用及び売買契約解除の可否

 Y1らは、建物購入価格を大幅に下回る費用(最大でも約430万円)で補修が可能であり、雨漏りが悪化する前には建物に居住できていたのだから、契約目的を達することができなくなったとはいえないと主張した。

 これに対し、裁判所は、「建物の買主は、目的物の瑕疵の修補が不能である場合のみならず、契約目的や、修補工事の規模及び容易性、修補金額の多寡、修補が建物の意匠等に及ぼす影響の程度などの諸事情を総合的に考慮して、買主を契約の拘束力から解放することが社会通念上相当である場合には、旧民法570条、566条1項にいう、契約の目的を達成することができない場合に当たるものとして、瑕疵担保責任に基づく解除をすることができる」とした上で、本件では、修補費用の合計(少なくとも約1015万円)が建物価格を超える金額であること、雨漏りが建物の基本的な居住性に関わる瑕疵であり、居住を継続することに著しい支障を生じていることなどから解除を認め、Y1について、解除による原状回復義務として代金相当額の返還義務を認めた。

 なお、修補費用に関し、Y1らは、現時点における不具合の全てが修補の対象となるものではなく、売買契約締結時の状態に復する限度で足りると主張したが、裁判所は、瑕疵担保責任に基づく修補義務の範囲は、目的物が通常有する性能を欠くことにより生じた瑕疵現象の修補も含み、本件売買契約締結時に既に存在していた腐食等についても雨漏りの瑕疵によって生じたものであるから、修補義務の対象となるとした。

(4) (争点3)不法行為責任の成否

 Y1及びY2の不法行為責任については、Y1が本件建物をXに転売するまでの間に、本件建物に雨漏りが存在することを認識していたとは認められず、容易に認識することができたとも認められないとして、責任を否定した。

 Y3及びY4についても、建物に雨漏りの被害があることを疑わせるような特段の事情のない限り、売主に確認する等してその被害の有無を具体的に調査すべき義務を負っていたとはいえないとして、責任を否定した。

(5) (争点4)損害

 Y1については、原状回復としての売買代金相当額の返還のほかに、それによって補填されない損害として、売買契約に伴う諸費用のほか、建築士調査費用、慰謝料、弁護士費用の賠償を認めた。居住利益の控除については、雨漏り等による瑕疵から使用価値は大幅に減少していたことなどを理由に否定した。

2 1口約26万円に対し毎週170米ドルの配当(週利約8%)や紹介料等が出ることを喧伝する、マルチ・レベル・マーケティングの仕組みを取り入れた商法(D9商法)につき、直接勧誘をした者だけでなくネットワーク上の上位者等にも損害賠償義務が認容された事案(東京高裁令和5年5月17日判決)

(1) 本件は、「D9CLUB」(D9)との名称の外国法人に出資した一審原告らが、直接勧誘した者のほか、勧誘動画を投稿・配信した者、マルチ商法の上位者らに対し、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起した事案である。

(2) 裁判所は、以下のとおり、勧誘者等、勧誘動画を投稿・配信した者、上位者の責任を認め、これらは共同不法行為の関係にあるとした。

ア 勧誘者等の責任

 およそ実現不可能な高利の配当をうたうD9商法の宣伝内容それ自体から、D9商法が経済的合理性に反し、早晩破綻し、いずれかの時点以降の出資者に不可避的に損害を与えるものであるとの疑念を抱くのに十分な事情がある。

 にもかかわらず、D9商法の利点のみを強調するなどして、客観的にみてD9商法へ出資するとの意思形成に影響を与える程度の働き掛けをすることは、働き掛けを受けた者に対してD9に出資する動機を形成させ、自ら予期した投資としてのリスクに見合わない財産的損害を生じさせる危険性を高めることになる。

 そのため、D9商法の仕組みをその宣伝内容の程度まで理解している者は、主観的には働き掛けを受けた者に出資をさせる積極的な意図まではなかったとしても、客観的にみて働き掛けと評価されるような行為を行っている以上、当該行為者において、働き掛けを受けた者のD9商法に対する出捐の意思形成に影響を与えているものと認識し、又は少なくとも同影響を与えていることを認識し得たということができる。

 勧誘者等は、このような働き掛けと評価されるような行為をしてはならない注意義務に反した過失があり、賠償責任を負う。

イ D9に勧誘する内容の動画を投稿・配信した者の責任

 D9に勧誘する内容の動画をSNS等に投稿し、または電子メールなどにより配信したものは、当該動画が閲覧されることも当然予見することができ、動画を閲覧させることは、当該勧誘者が直接に対面して勧誘していなくとも、その言動が閲覧者のD9商法に対する出捐の意思形成に影響を与え、出捐意欲を喚起する点で直接対面して勧誘を行う場合と異なるところはない。

ウ 上位者の責任

 D9商法は、MLMの仕組みを用いて投資を行う者を拡大させることを前提としており、既存の参加者から働き掛けを受けた者がさらに第三者に対する働き掛け行為を行うことにより、その後連鎖的に本件働き掛けが行われることを予定するものであるから、自身の行った働き掛けが原因となって、加入・参加の連鎖が生じ得ることは容易に予見することができたといえる。

 なお、組織図等により形式的に上位者と下位者との関係があるとしても、連鎖して行われた働き掛けを順次たどっていった場合に、下位者から上位者にたどりつける関係にあるとは限らないが、組織図上、上位者・下位者の関係に立つ者であれば、働きかけの連鎖が生じているとの推認を妨げず、仮に下位者が自身の直接の勧誘の対象ではなかったとしても、組織図上、下位者が形成され、増大していくことによって紹介報酬が増加してくというMLMの仕組みを認識、受容して、D9商法に投資し、参加している以上は、当該下位者やその者から働き掛けを受けたさらに下位者に損害が発生し得ることも認識すべきである。

エ 出資のための金員及びビットコインの送付・受領先となっていた者及び登録手続を行った者の責任

 出資金等の送付・受領先となっていた者及びD9の登録手続きを行ったものは、当該出資者が既に投資する旨の判断を行った後の事務的な手続きに関与したにとどまり、その判断仮定に影響を与えていないため、不法行為責任を負わない。

(3) 裁判所は、出資額から配当金として支払われた金額を控除した金額をもって、損害額とした。

 なお、一審被告の中には、相当因果関係は、一審被告らの関与によって一審原告らの意思決定や判断が阻害された結果生じた部分に限られると主張した者もいたが、裁判所は、働き掛けを行った被告ら以外に原告らにD9への出捐を決意させるに至った者がいるともうかがわれず、働き掛けを行った者全員に共同不法行為が成立することを理由に、全体の損害につき、相当因果関係を肯定した。

(4) 裁判所は、一審原告らがD9商法の安全性に十分な調査、検討をしないままD9商法に出資したことは、このような商法に出資するものとしての通常求められる注意を欠いていたというべきであり、この過失は一審被告らの過失と同質のものであって、系列の高い階層であるか、低い階層であるかで区別されるものではないとして、衡平の観点から、原告らに生じた損害について、一律5割の過失相殺をした。