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消費者問題速報 VOL.214 (2023年7月)

1 磁気治療器のオーナー商法などで多額の資金を集めたジャパンライフ株式会社(以下「J社」という。)の元役員や監査役など7人と代理店1社に対し、元顧客らによる損害賠償請求が認められた事案(名古屋地裁令和5年5月23日判決)

(1) 本件は、高額なネックレスなどの磁気治療器のオーナーになれば、そのレンタル収入によって高い配当金を得られるとうたい、高齢者を中心に出資を募っていたJ社(平成30年3月に破産手続開始決定)に対し、オーナーになった東海3県などの元顧客ら23人が、破綻を予想できたのに金を集めたために損害を受けたとして、当時の会社の幹部などに対し損害賠償を求めた事案である。
 なお、J社については、消費者庁が合計4回の行政処分を行い、元会長は詐欺罪で懲役8年(実刑)、当時の幹部ら12人は出資法違反の罪で有罪が確定している。

(2) 本判決は、J社が顧客との間で締結していた「長期契約」(顧客は商品を一括払いで購入しレンタル料を受領、契約期間は実質的に20年で中途解約不可)及び「短期契約」(契約期間は1年、満期時に代金の返還又は商品の返還可)について、「J社が長期契約及び短期契約を締結する行為が顧客に対する不法行為を構成するか」との争点について、「顧客に販売した商品のうち相当数について、ユーザーとの間で賃貸借契約を締結することができない状態が継続し、この状態が将来にわたって継続することが見込まれる場合、顧客が約定どおりのレンタル料の支払を受けることができない状態に陥ることが予想される。そうすると、J社が顧客にそのことを告げることなく新たに長期契約を締結することは、契約を締結するか否かを判断する上で最も重要な考慮要素について事実を隠して契約を締結するものであって、不法行為を構成するものというべきである。」と判示した。その上で、平成20年9月又は10月時点(その頃メインバンクからオーナー数とユーザー数の乖離の指摘を受け是正を求められていた。)において、J社がユーザーから支払を受けるレンタル料が月額約3500万円であったのに対し、J社が顧客に対して支払うレンタル料が月額約3億2000万円にのぼっていたのであるから、平成20年10月以降に長期契約を締結した行為は不法行為を構成すると判示した。また、短期契約(平成22年に取扱いを開始)についても、「実質的に、破綻することが必至である事業に対して資金を拠出させるものであり、不法行為を構成するものというべきである。」と判示した。

(3) 各被告の責任については、以上の判断を前提に、どの時点で各被告がオーナー数とユーザー数の乖離(破綻必至商法となる中心的な事情)を認識可能であったか、という検討を行い、具体的な認識等を認定した上で、名目的な監査役であった者や地方の支店のエリアマネージャーであった従業員、代理店となっていた被告についても、その時点以降の原告らの損害について責任を肯定した。
 一方で、経済産業省から出向し消費者庁に勤務(取引対策課の課長補佐として特商法及び預託法担当)した後、退職直後にJ社顧問に就任した被告については、責任が否定されたため、原告らが控訴した。なお、被告らの一部も控訴している。

 

2 専属的合意管轄条項に従ってなされた移送決定に対する即時抗告により移送決定が取り消され移送申立てが却下された事案(名古屋高裁令和5年4月24日決定)  

 いわゆる情報商材事件に関し、契約上東京簡裁を専属的合意管轄とする条項が存在し、相手方から東京簡裁への移送申立がなされた事案において、名古屋高裁は、民事訴訟法17条及び20条1項の趣旨から、「専属的管轄合意に反して法定管轄裁判所に訴えが提起された場合であっても、訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るため必要があると認められるときは、専属的合意管轄裁判所への移送をせず、法定管轄裁判所において審理することが許されると解するのが相当である。」と判示した上で、当該事案(基本事件はマッチングアプリで知り合った相手方から勧められビジネススクール契約を締結させられたが実質は詐欺であったとして、契約主体である相手方会社のみならず勧誘に携わった者らに対し不法行為に基づく損害賠償請求をした事案。)の具体的事情として、相手方らによる勧誘が名古屋市内在住の者を対象に名古屋市内で行われたこと、契約書作成場所も名古屋市内のマンション(相手方の一人の自宅)であったこと、相手方らのうち一部の者は住所を明らかにしていないが名古屋市内に居住している可能性が高いと見込まれること等を認定し、相手方らはそれぞれ訴訟代理人に委任しており、Web会議システム等を利用して効率的な争点整理が可能であること、被告会社を除く3被告(代表者、勧誘者2名)は本件管轄合意の対象ではないことも考慮すると、「訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るためには、専属的合意管轄裁判所に移送せず、法定管轄裁判所(名古屋地裁)において審理する必要があると認めるのが相当である」と判示した。