愛知県弁護士会トップページ> 愛知県弁護士会とは > 消費者委員会 > 消費者問題速報

消費者問題速報 VOL.211 (2023年4月)

1 氏名不詳者から届いた、ポイント購入を条件に財産を贈与するという内容の詐欺メールに記載されていた振込先口座の名義人らに対して、当該メールの管理運営者との共同 不法行為責任が認められた事案(岡山地裁令和5年1月24日判決)

(1) 本件は、原告が、氏名不詳者から届いた「財産を贈与したい。」「財産を受け取るためには運営サイト「SNS CHZZ」のポイントを購入する必要がある。」と記載されたメール(以下「本件メール」という。)に応じて、指定された口座にポイント購入代金を振り込んだが、贈与を受けることができなかったとして、振込先口座(以下「本件口座」という。)の名義人であった複数の会社及びその代表者らに対して、同人らが上記サイト(以下「本件サイト」という。)に口座を貸与したことを理由に、共同不法行為に基づく損害賠償を請求した事案である。

(2) 被告らは、本件サイトに口座を貸与したことはなく、スペースディレクティング社という会社(本件サイトとの関連は不明)との間で収納代行業務委託契約を締結しており、本件口座に振り込まれた金額を同社に送金するという同委託契約に基づく業務を行ったにすぎないと主張した。

(3) 本判決の概要

 本判決は、本件メールは本件サイトが管理運営するものであり、本件メールが原告に対する欺罔行為に該当することを前提として、「本件口座は、一日に多数の個人から数十件もの振込がなされ、振り込まれた金銭は一日に複数回にわたり、その都度の残高が百円台になるまでほぼ全額を引き出されるという特殊な取引が行われているところ、収納代行業者が、振り込まれた金銭を一日に複数回にわたり現金で引き出した上で依頼者に現金を手渡すなどの方法を取ることは一般的に考え難く、これが通常行われる収納代行業務であるとは認め難い。」として、被告らの上記主張を排斥し、「被告会社らは、本件口座が詐欺による犯罪収益の振り込みに利用されることを認識しながら、本件サイトに対して本件口座を貸与したと認めるほかない。」として、被告会社らと本件サイトの共同不法行為を認めた。

 そして、被告代表者らについても、いずれも被告会社の「代表権を有する唯一の者」であることを理由に、被告代表者らと本件サイトとの間の共同不法行為を認めた。

2 原告(リース会社(シャープファイナンス株式会社))が、被告会社(ユーザー)に対して、リース契約に基づくリース料の支払いを求めたところ、信義則により請求額が3割制限された事案(大阪地裁令和5年2月3日判決)

(1) 本件は、被告会社(高齢の夫婦のみで運営している会社)が、原告と業務提携をしていた訴外会社(以下「本件販売店」という。)の従業員Zから、「リース料は本件販売店が負担するため実質的な負担はない。」との勧誘を受けたことにより、平成30年6月に原告との間で電話機のリース契約を締結し(以下「本件契約」という。)、実際に本件販売店からリース料相当額が被告会社に支払われたが、その後本件販売店が破産し、被告会社が原告へのリース料の支払いを拒んだため、原告が被告会社に対してその支払いを請求したのに対し、被告会社は、本件契約の締結にあたりZに虚偽説明があったとして、原告に対して、既払リース料の不当利得返還請求(錯誤無効、詐欺取消し、心裡留保、クーリングオフ、債務不履行解除)及び不法行為に基づく損害賠償を請求し、仮にこれら請求が認められないとしても原告によるリース料の請求は信義則に反するとして争った事案である。

(2) 本判決の概要

 本判決は、Zに虚偽説明があったことは認めたが、被告会社の錯誤無効、詐欺取消、心裡留保、クーリングオフ、債務不履行解除、及び不法行為の各主張は排斥した。

 もっとも、本判決は、原告に不法行為責任は認められないとしつつ、「とはいえ、多数の小口リース契約における販売店による違法な営業活動が問題となり、リース事業協会は、顧客の苦情の極小化を目指して、小口リース取引について『小口リース取引に係る自主規制規則』(以下「本件自主規制規則」という。)を定め、会員がこれを遵守することを公表し、販売店に対しては本件自主規制規則に定める物件見積書の交付等を含めた事務手続の適正を求める文書を作成公表していた。リース事業協会の会員は、本件自主規制規則を遵守し、これに沿った確認を行うことが期待されていたといえる。」が、原告と本件販売店との間には「本件自主規制規則の趣旨を踏まえた適切な営業活動について注意喚起がされた形跡も見当たら」ず、「電話機のリースは、かなり以前から虚偽説明による勧誘が問題となっていた取引類型といえる。原告においても、電話機のリース契約については、専用の確認書の書式を用意して、販売店による不当な行為がないかを確認する項目を設けて確認していたのであり、不当な勧誘が行われやすい案件として特に注意を要すると認識したことが認められる。……本件契約において、被告会社が高齢の夫婦のみによって運営されている零細企業であって、原告はそのことを把握していた……。そして、本件販売店は設立から日が浅く、動向を注視する必要のある取引先であると認識されていたことも併せ考えると、原告は、直ちに違法な営業活動を認識し得たとはいえないまでも、リース料が安くなるなどといった不当な勧誘行為が申込みの契機となっていないかという具体的な問題意識を持って審査に当たってしかるべきであったと考えられる。そうであれば、原告において、被告会社に対して、本件契約の申し込みについての確認を取るに当たっては、……『はい』や『いいえ』で答えられる質問ではなく、具体的に話してもらう方式で尋ねることが考えられた。そのような方式で確認がされていれば、原告において本件契約の申し込みに至る経緯やZの説明内容を察知できた可能性があり、本件契約の締結に至らなかった可能性があったといえる。」として、「本件契約は、無効であるとは認められないものの、……原告の請求は、信義則上一定の制限を受けると解するのが相当である。」と判断し、他方で、被告会社側の事情について「Zの説明が不合理であり、虚偽であることがおよそ認識できなかったとは認められない。被告会社は、本件販売店から相当額の支払いを受けていた。リース物件は現に納入され、……実際に事業に役立っていると認められる。」といった事情を考慮し、原告の請求額を3割制限するのが相当であると判断した。