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消費者問題速報 VOL.208 (2023年1月)

1 被告豊トラスティ証券の勧誘によるくりっく株365及びくりっく365の取引(ネット注文)について、説明義務違反及び過当取引を認定し、損害賠償請求を認めた事案(大阪高裁令和4年3月17日判決、原審:神戸地裁令和3年7月14日判決)

 ? 本件は、被告従業員の勧誘により、原告X1(夫)がくりっく株365(取引所株価指数証拠金取引・CFD取引)及びくりっく365(外国為替証拠金取引・FX取引)の各取引を、原告X2(妻)がくりっく365取引を行ったところ、約1年間で、夫婦で合計約2450万円もの損失を被ったとして、被告会社に対し、適合性原則違反、断定的判断の提供、説明義務違反及び過当取引を主張して、損害賠償請求訴訟を提起したものである。

 注文はすべて原告X1のタブレットにより被告会社が運営するインターネット上のサイトにアクセスして入力されており、その内容は両建が多用されていた。

 ? 本判決は、適合性原則違反及び断定的判断の提供は否定したが、以下のとおり説明義務違反及び過当取引を認定した。

 ? すなわち、本判決は、被告従業員の訪問や電話の時期、言動、取引の具体的態様、取引拡大の経過を詳細に認定し、原告らの損失が多額に上った主たる要因について、CFD取引については取引数量の増大にあり、FX取引については両建ての多用と取引数量の増大にあったことを指摘した。また、被告従業員が、投資経験がそれほどない原告を指導して両建てを多用させ、慎重な姿勢の原告に対してかなり強く勧誘することで取引数量を急拡大させた状況を認めた。

 そのうえで、本判決は、「このように取引量を大幅に拡大させて危険な取引状況に強く誘引する以上は、単に商品の仕組みやリスクを一般的に説明し、一般的に理解させるだけでは足りず、取引を拡大した場合のリスクをより具体的に説明すべき義務がある」「新規の取引数量が増大すれば、顧客のリスクは増大する反面、被告会社はリスクを負わずに安定的に手数料収入が増加することになるのだから、被告会社は、原告らが負うリスクが過大なものとなるときには、それに応じたリスクの説明と注意喚起を十分に行うべき注意義務を負う」とし、「被告会社の従業員の行為は、手数料稼ぎを目的として、原告らの意向と実情に照らして明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘したものとして、違法であるとともに、そのような勧誘をしたことに伴う説明義務(両建ての説明義務を含む。)及び注意喚起をすべき義務に違反する違法があり、これは、本件各取引の全般に影響を与えた」とした。なお、過失相殺6割。

 【先物取引裁判例集85巻407頁・同365頁】

2 個別クレジットを利用した学習教材の購入(販売会社:㈱ウイン教育センター)に関し、被告クレジット会社(㈱SPサービス)に対するクーリングオフ及び既払金返還請求を認めた事案(名古屋高裁令和4年10月5日判決、原審:名古屋地裁半田支部令和4年3月29日判決)

 ? 原告は、訪問販売により、㈱ウイン教育センター(以下「ウイン」という。)から学習教材を購入するとともにFAXによる学習指導を受ける旨の契約を締結し、代金について被告と個別クレジット契約を締結したが、売買契約書やクレジット申込書にFAX指導の記載はなかった。原告は、ウインの営業員から、被告の電話調査を受けた際には「絶対にFAXによる学習指導があることを言わないでください」と指示されたため、指示通り、被告にFAX指導があることを言わなかった。

 なお、ウインがかかる指示をしたのは、被告が、役務提供を伴うクレジット契約は中途解約のリスクがあるとして締結しないこととしているため、被告に役務提供を伴う事実を秘するためであるが、原告はその意図は知らされていない。

 その後、ウインがFAX指導を停止し破産したため、原告は、被告に対し、割賦販売法に基づくクーリングオフ(同法35条の3の10第1項4号、同法35条の3の11第1項2号)を主張し、既払金返還請求訴訟を提起した。

 ? これに対し、被告は、原告がウインと通じて被告に虚偽回答をしたことは詐欺にあたるとして、クーリングオフは信義則に反すると主張した。

 ? 本判決は、まず、契約書等にFAX指導の記載がないことについて、法定書面の交付がないとし、クーリングオフ期間は経過していないとした。

 そして、割販法が個別信用購入あっせん業者に対して適正与信調査義務(割販法35条の3の5)をはじめとする重い義務を課している趣旨から、「消費者が販売会社の誘導で、クレジット契約にかかる重要な事実を秘していたなどの事情があったとしても、その事情だけで信義則に反するか否かを判断すべきではなく、クレジット契約等の内容、消費者が秘していた又は虚偽を述べた内容及びその性質並びに販売会社による誘導の有無及びその内容などの事情に加えて、消費者の認識も考慮して判断するべきである。」「消費者が、個別信用購入あっせん業者による調査等において、自身の回答した内容がクレジット契約等に与える影響を認識しており、前記事情も踏まえると、専ら自己の利益を得る又は被告に損害を与える目的で事実を秘していたり、虚偽の事実を述べたと評価できる場合には、もはや消費者として保護すべきとはいえず、そのような消費者が既払金の返還を求めることは信義則に反するというべきである」という原判決の判断基準を維持し、本件では、原告が、FAX指導を被告に申告しないという行為によって本件クレジット契約の締結に至ったと認識していたとは認め難いから、原告のクーリングオフ解除が信義則に反するとは認めがたいと判断し、原告の本訴請求を認めた。

 ≪判決文は弁護士会保管≫≪原告訴訟代理人は当会の山田英典会員≫