愛知県弁護士会トップページ> 愛知県弁護士会とは > 消費者委員会 > 消費者問題速報
消費者問題速報 VOL.207 (2022年12月)
1 被告(みずほ証券)との間で金融商品取引を行っていた原告らが、被告従業員の勧誘に従って取引をした結果被った多額の損失について損害賠償を求めたところ、裁判所は、仕組債(豪ドル建ノックイン型日経平均連動債)の一連の取引について、適合性原則違反、説明義務違反を理由とした金融商品取引に係る基本契約上の債務不履行に基づく損害賠償責任等を認めた事案(岐阜地裁令和4年3月25日判決)
(1)本件は、原告ら(当時60歳代の主婦ら・投資経験はない)が、被告従業員からの提案に応じて証券取引を行っていたところ、原告らが許容していないリスクの高い仕組債を繰り返し取引させられていた結果、最終的にノックイン事由が生じ原告らに予期しない多額の損失が発生した事案である。
(2)裁判では、①個々の取引勧誘行為における適合性原則違反や説明義務違反等の違法事由が債務不履行を構成するか、②被告従業員の原告らに対する勧誘行為は適合性原則を著しく逸脱したものであったか、③被告従業員の原告らに対する勧誘行為に説明義務違反が認められるか、などが争点となった。
(3)本判決は、①原告らが被告との間で締結した各証券総合取引契約は、原告らと被告との間の金融商品取引に関する基本契約たる性質をも有しているとし、個々の勧誘行為における適合性原則違反、説明義務違反等の違法事由は、債務不履行をも構成すると判示した。
また、②適合性原則に関しては、最高裁平成17年7月14日判決の枠組みの下、豪ドル建ノックイン型日経平均連動債(以下「日経平均連動債」という。)について、a基本的に得られる利益が利金に留まり株価の値上がり益を享受できない一方で、bノックイン水準を超えて日経平均株価が下落した場合には、低利率のまま最長約7年間資金が拘束され、最終日経平均株価の所定の水準からの下落率に応じて投資元本の相当部分を毀損するリスクがあること、c取引当時、過去の日経平均株価の動向を踏まえると、bのリスクは十分に現実化し得るものであったこと、d日経平均連動債は流動性に著しく劣り、中途売却は原則としてできないため、購入後に日経平均株価の動向が事前の見込みに反した動きをした場合に中途売却をして損失の発生・拡大を回避することができないという特性も有しており、日経平均連動債の利率決定、早期償還の有無、満期償還額の決定の仕組み自体が複雑困難であるとまではいえないが、その購入に際しては、将来の日経平均株価の動向を予測した上で損得を検討するという複雑困難な投資判断が要求されるといえ、上記リスクの性質、程度に照らせば、その投資結果につき自己責任を問う前提として、自分なりの見通しを持って主体的に日経平均株価の将来予測を行うに足りる知識、経験が求められると述べて、原告らは、将来の日経平均株価の動向について自分なりの見通しを持った上で主体的に投資判断を行うに足りる知識、経験を有していたとは認められないし、当時の総資産の約半分を占める日経平均連動債への投資は、日経平均株価の動向次第によっては、保有資産の約半分が7年間拘束される上に、その相当部分が毀損し得るという極めて大きなリスクを抱えた状態であり、原告らの投資意向や資金の性質にも適合しない状態であったとして適合性原則違反を認めた。
③説明義務については、日経平均連動債の商品特性を踏まえ、利率、早期償還、満期償還額などの決定の仕組みに加え、日経平均株価が予想に反して推移しても中途売却することができず、低利金のまま受渡しから約7年間資金が拘束され、元本の相当部分を毀損する危険性があることについて、原告らの投資経験、知識、理解力に応じて説明を行う義務を負っていたとし、また、株式取引の経験に乏しく、主体的に日経平均株価の動向を予測するに足りる知識と経験を持ち合わせていなかった原告らに対しては、日経平均連動債のリスクに関して誤った認識を抱かせないように丁寧に説明すべきであったとして、被告従業員の日経平均株価に関する楽観的な見通しを語った上で高い固定利率による利息収入のメリットを強調した勧誘行為により、株式取引の経験に乏しい原告らは、商品概要説明書等に記載されているリスク説明は形式的なものと誤認し、そのリスクの大きさを具体的に理解していなかったと認定して、説明義務違反を認めた。
≪原告訴訟代理人は、当会の牧野一樹会員、宮崎亮会員≫
【証券取引被害判例セレクト59巻244頁】
2 「保険を使って無料で住宅修理」を謳う業者(株式会社ジェネシスジャパン)に対する差止請求訴訟の終了について
消費者機構日本が株式会社ジェネシスジャパンに対して提起した訴訟(火災保険を利用する工事請負契約に関して、着工前の契約解除において、保険金(工事代金と同額)の合計35%を消費者が支払う旨の約款の定めが、平均的な損害を超えた損害賠償額の予定及び違約金の定めであり、消費者契約法第9条第1号に違反する不当条項であるから、平均的な損害の額を超えた部分については無効であるとして、当該不当条項に係る意思表示等の差止めを求める訴訟:同機構ホームページより引用)について、同機構の主張の全てを同社が認め、請求を認諾したことにより、本訴訟が終了したことが公表されました。
【消費者機構日本ホームページ http://www.coj.gr.jp/zesei/topic_220425_01.html】
なお、「火災保険が使える」と誘う住宅修理契約のトラブルについては、同機構ホームページ(http://www.coj.gr.jp/consumers/caution_181108_01.html)参照。