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消費者問題速報 VOL.205 (2022年7月)

1 原告は、被告(住友不動産)に床面が完全に平坦なバリアフリーの住宅を注文していたにも関わらず、玄関に高さ18cmの上がり框などがあったとして、約486万円の補修費用相当額の損害賠償と50万円の慰謝料の支払いを認めた事案(東京地裁令和4年3月22日判決)

(1)本件は、原告が、被告に対し、重度の障害者であった息子のために、床面が完全に平坦なバリアフリーの住宅を注文した(原告が息子の成年後見人として被告と請負契約を締結。なお、息子は引渡し前に亡くなっている。)にも関わらず、上がり框などが設けられたために息子を自宅に連れて帰ることができなかったなどとして、住宅の建替え費用や慰謝料など合計約3300万円の支払いを求めて訴訟提起したものである。

(2)裁判では、契約に基づく被告の義務内容が争点となり、原告側は、被告は打合せ段階では原告側の要望を満たしていると述べていたが、建物には上がり框や、居室には最大2.6cmの段差があったと主張し、他方で被告は、原告の要望は室内で車椅子が回転できることのみであって、図面には玄関部分や室内に段差があることが記載され、原告も承認印を押しており、段差は車椅子の通行を妨げるものではないなどと主張した。

(3)本判決は、「一般に、注文住宅においては、施主の意向に沿って間取りや設備等が決定されるのであるが、その選択の幅が広い上に、検討を要する専門的・技術的な事項も多いため、施主が住宅の建築に関する十分な知識・経験を有さない場合には、施主の側から要望事項を具体的に特定して的確に指示することが容易ではない」ため、「住宅メーカーは、施主の希望をよく聴き取り、その希望に沿って、技術的に可能で合目的的な建築をするために施主に対する助言を行いつつ、施主の希望を具体化して、設計・施工に反映させるべき義務を負うと解すべき」と指摘したうえで、原告らは段差のない完全なバリアフリーの建物を要望していたにもかかわらず、被告がその要望を具体化しないまま設計・施工をしたため原告の希望に適合しない住宅が完成したとして、建物には契約内容に適合しない瑕疵があるとし、段差解消に要する修繕費の支払いを認めた。また、被告の原告への対応は著しく不適切で、原告の息子が受けた精神的苦痛は多大だとして、原告の息子に対する慰謝料を一部認めた。

 なお、図面に段差が記載され、原告も承認印を押している等の被告の反論については、裁判所は、被告担当者から十分な説明がされず、原告らもその内容を十分に理解しないまま行われたものと推認するのが相当であるとして採用しなかった。

 原告は、建物の建替費用を求めて控訴中である。

 

2 原告が中古マンションを購入したところ雨漏りが発生し、雨漏りの修繕歴を知りつつこれを故意に隠していた売主に対し、説明義務違反による不法行為責任が肯定され40万円の慰謝料が認められた事案(東京地裁令和2年2月26日判決)

(1)本件は、原告が、仲介業者(Y2・宅建業者)から「現在まで雨漏りを発見していない」等の説明を受けて、売主(Y1・宅建業者)から中古マンションを購入したところ、入居後に雨漏りが発生し、過去の雨漏り歴のほか、Y1が雨漏りと修補歴を把握していたことが発覚したため、Y1に対しては、錯誤、詐欺、消費者契約法(以下、消契法)4条1項1号または債務不履行による契約解除と、不法行為または債務不履行に基づく損害賠償を、Y2に対しては債務不履行または不法行為に基づく損害賠償を求めて訴訟提起したものである。

 なお、原告は(瑕疵修補ではなく)売買契約の取消し又は解除を求めたいとの意向が強く、本件マンションの管理組合が雨漏りの原因となった共用部分の瑕疵を管理組合の費用負担で実施する意向を示しても、それを断っている。また、原告は瑕疵担保責任(改正前民法)を主張していない。

(2)本判決は、まず、原告が求めた契約の解消とそれによる代金の返還等については、原告が契約締結過程において雨漏り歴の有無を特に問題にしていなかったこと、本件マンションは築37年の中古物件で早晩雨漏りや漏水等の発生が予想され得たものであること、過去に雨漏りがあっても売買契約時点で修繕済みであれば生活に特段の問題は生じないことなどを理由に、錯誤無効、詐欺取消し、消契法4条1項1号の取消しをいずれも否定し、中古物件の特定物売買であること等を理由に債務不履行解除も否定した。

(3)他方、本判決は、損害賠償請求については、Y1について、Y1が雨漏りとその修繕歴があったこととは知りつつこれを故意に隠蔽して事実と異なる説明をして売却したと認め、不法行為責任を肯定し、慰謝料として40万円の支払義務を認めた。ただし、売買代金や、契約費用、仲介手数料、不動産取得税、 引越し費用、管理費等については、雨漏り・修繕歴の説明がなされていれば原告が売買契約をしなかったとまではいえないとして因果関係を否定し、これらの賠償義務は認めなかった。

 Y2については、Y1に修繕履歴を照会して雨漏り歴がない旨の回答を得ていたこと等から、仲介業者として一応の調査義務を尽くしたものと評価でき、雨漏り歴を認識または認識し得たとはいえないとして債務不履行責任・不法行為責任とも否定した。

 【国民生活5月号 https://www.kokusen.go.jp/wko/data/wko-202205.html】

3 消費者庁の特定商取引法の通達改正について

 訪問販売等による悪質な住宅リフォームに関する消費者トラブルの状況等から、消費者庁が「訪問販売又は電話勧誘販売における住宅リフォーム工事の役務提供に係る過量販売規制に関する考え方」を新規策定し、「特定商取引に関する法律等の施行について」(通達)の別添として追加しました。

 【消費者庁HP https://www.caa.go.jp/notice/entry/029218/】