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消費者問題速報 VOL.204 (2022年5月)

1 診療報酬債権等を裏付資産として発行する社債(レセプト債)を購入した原告らが発行体の資金流用により損害を被ったことにつき、購入を勧誘した田原証券に調査義務違反があったとして損害賠償責任を認めた事案(名古屋地方裁判所令和4年4月19日判決)

(1) 本件は、被告田原証券から安全性の高い商品であると勧誘を受けてレセプト債を購入した原告らが、発行体が本件社債の発行により調達した資金の大部分を診療報酬債権等の買取り以外の目的に流用した結果、本件社債の元利金の支払いを受けられなくなり、本件社債の取得金相当額等の損害を被ったとして、田原証券と同社役員ら等に対し、不法行為等に基づく損害賠償請求を行った事案である。(なお、他に、発行体と業務委託契約を締結していた会計事務所や本件各社債の販売支援を行っていたアーツ証券も被告となっているが、ここでは割愛する。)

(2) 本件では、被告田原証券が、アーツ証券等から追加資料の提供を受けるなどして本件各社債が真実診療報酬債権を裏付けとするものであるといえるかを調査すべき義務を負っていたか等が争点となった。

(3) 本判決は、本件各社債は金商法上の少人数私募債の要件を満たすため同法の開示規制(有価証券届出書の提出義務等)の適用を受けないものの、実態としては、償還期限を変えたシリーズ商品として不特定多数の者に大量に取得勧誘がなされており、発行規模が大きく、取得勧誘の相手方が投資判断に必要な情報をその有価証券の発行者から直接入手することが容易ではないといえるから、投資判断に必要な情報を開示すべき必要性が高いとし、その取得勧誘をする金融商品取引業者は、取得者が不測の損害を被ることのないように適切な措置を講ずることが期待されていると指摘した。そして、被告田原証券は、平成26年1月には、本件各社債の裏付資産としての診療報酬債権が不足しており、それが一過性ではないことをうかがわせる情報を把握していたのであるから、その時点で、本件各社債が真実診療報酬債権を裏付けとするものであるといえるかを調査すべき義務を信義則上負っていたとし、そのような調査をせず本件各社債の私募の取扱いを継続したとして調査義務違反による不法行為責任を肯定した。また、被告田原証券の代表取締役についても、職務執行に重大な過失があったとして責任を肯定した。

 

2 被告(大和証券㈱)が、原告に、証券担保ローンの借入金を原資とする仕組債や投資信託などの売買を繰り返し行わせた結果、すべての金融資産が失われたことにつき、被告に対する損害賠償請求が一部認容された事案(東京地方裁判所令和4年3月15日判決)

(1) 本件は、原告(当時50歳代の主婦・比較的リスクの高い投資信託や債券の投資経験あり)が、被告の従業員の勧誘により、原告の保有する有価証券を担保に合計9640万円の借入れを行い、その借入金で仕組債や投資信託などの売買を繰り返した結果、すべての金融資産が失われたとして、被告に対し、不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償請求を行った事案である。

(2) 証券担保ローンによる借入金で有価証券を購入した場合、借入元金は変動しない一方で、担保に差し入れた有価証券と購入した有価証券の両者がともに値下がりするというリスクがあるところ、本件では、適合性原則違反や説明義務違反(指導助言義務違反)の有無が争点となった。

(3) 本判決は、適合性原則違反や証券担保ローンに係る上記リスクの説明義務違反は認めなかったが、被告が設定するアラームレベル3(借入元金が担保評価額の85%を上回った場合:原則として、被告が定める期限までに借入元金が借入上限額を下回る水準まで状況を改善しなければ、担保有価証券の処分によって被告が貸付債権を回収する)が発生した時点での注意義務違反を認めた。
 すなわち、被告従業員には、アラームレベル3が発生した時点で、原告が有価証券の売却により借入金返済を相談した際にこれを否定しないという注意義務があったと指摘し、そうであるにもかかわらず、被告従業員は、原告が有価証券の売却によるローン全額返済の意向を示したのに対し、その原告の意思を変更させて取引を継続するよう誘導したと認定し、注意義務違反を認めた。
 そして、上記注意義務違反と相当因果関係のある損害として、アラームレベル3発生時から証券担保ローン取引終了時までの間の取引損及び弁護士費用の賠償義務を認めた(過失相殺なし)。

 【あおい法律事務所HP https://aoi-law.com/

3 特定商取引法のクーリング・オフについてお知らせ

 令和3年特定商取引法の改正により、令和4年6月1日から、書面によるほか、電子メール等の「電磁的記録」によってもクーリング・オフの通知を行うことが可能になりました。