愛知県弁護士会トップページ> 愛知県弁護士会とは > 消費者委員会 > 消費者問題速報

消費者問題速報 VOL.203 (2022年4月)

1 投資経験は長いものの実際には証券取引には習熟していない顧客が現物取引で損失を被った事案において,原審の判断を覆し,証券会社の従業員の説明義務違反・情報提供義務違反及び実質的一任売買を認定し,損害賠償請求を認めた事案(名古屋高等裁判所令和4年2月24日判決)

(1) 本件は,亡A及びX(亡Aの長男で,亡Aを取引代理人として取引をしていた。)が,Y1(野村證券株式会社)の従業員Y2から勧誘を受けて行った株式や債券等の現物取引によって約3821万円の損失を被ったため,適合性原則違反,説明義務違反又は情報提供義務違反,過当取引,一任又は実質的一任売買,信任義務違反又は指導・助言義務違反を主張して,Yらに対して損害賠償請求を行った事案である。なお,亡Aは一審係属中に死亡しXが受継した。

(2) 原審(名古屋地裁岡崎支部令和2年12月23日判決)は,亡Aが会社経営者で,他の証券会社で国内株式,国内債券,投資信託,外国株式及び外国証券について長期間の取引経験があり,相応の投資経験及び知識を有し,リスクを正確に理解して取引に及んでいた等と認定し,請求を棄却したため,Xが控訴。

(3) 本判決は,詳細な事実認定を行って下記のとおり説明義務違反・情報提供義務違反及び実質的一任売買を認定し,Xの損害賠償請求を認めた(過失相殺7割)。
 「亡Aは,投資経験が長く,多種多様な証券取引の経験はあるものの,どのような商品をどのようなタイミングでどれだけの数量をどのような価格で売買するかといったことを自ら検討し判断できるほどの知識や理解力・判断力を有しておらず,被控訴人も…認識していた。」「新興市場株式の短期・頻回売買の取引や…外国株式の取引を提案し…た…被控訴人は,亡Aに対し,…提案する個々の取引についてのリスクやデメリット,個々の取引の損益状況,取引全体の損益状況について情報を提供する信義則上の義務があったにもかかわらず,…虚偽ないし誤解を招く説明をしていたのであるから,被控訴人には説明義務違反ないし情報提供義務違反があり,その程度は社会的相当性を逸脱するものといえる」。
 「本件各取引においては,株価が下落していたため,売却しながら,同じ日や数日後に買増しするなど,合理性の乏しいものが散見される。」「亡Aが…十分な投資に関する知識・理解力・判断力を有していなかったこと」「亡Aにおいて…被控訴人の上司から評価損も含めて4000万円程度の損失になっていると伝えられ,驚いて激しく抗議していること」などから,亡Aは「被控訴人の提案を無批判的に従っていたと認めるのが相当である。」「したがって,被控訴人の亡Xに対する勧誘は,実質的一任売買に当たるといえる。」

2 いわゆるノンリコースの規定が設けられている事業者ファクタリング取引が「金銭の貸付」にあたり,貸金業法42条1項により無効と認められた事案(東京地裁令和4年3月4日判決)

(1) 本件は,破産会社が取引先に対して有していた売掛金債権等を被告(株式会社ミリオン)に譲り渡し,被告からの委任を受けて同債権を回収して第三債務者からの弁済金を被告に支払うという取引につき,実質的にみて金銭消費貸借契約にあたり,貸金業法42条1項により無効であるとして,破産会社の破産管財人である原告が,被告に対し,不当利得返還請求権に基づき交付金額相当額の返還を請求した事案である。

(2) 被告は,本件各取引は,売買対象の債権が第三債務者の債務不履行や倒産のために回収不能となった場合において買主が売主に対して責任追及することができないいわゆるノンリコース型のファクタリング取引であるから,金銭消費貸借契約とは異なる旨主張して争った。
 本判決は,本件債権売買基本契約書にはノンリコースの規定はあるが,第三債務者の支払不能等が生じた場合に売主側に買戻義務を負わせる規定があることを指摘して,下記のとおり実質的には金銭消費貸借契約であると認定し,原告の不当利得返還請求を認めた。なお,悪意の受益者として遅延利息も認められている。
 「本件債権売買基本契約第13条2項は,第三債務者の支払不能等の事態が 生じた場合において,破産会社に被告の請求に応じて売掛債権等を買い戻す義務を負わせるものである。しかも,破産会社は,買戻しに際して,被告に対し,債権譲渡にあたり受領した債権譲渡代金よりも通常高額な売掛債権等の額面金額を対価として支払い,さらに…被告において損害又は損害を被らないようにするために支出した費用…まで支払う義務を負う。」「そして,本件債権売買基本契約及び…ノンリコースの規定を含む本件事務委任契約を通じ,上記買戻義務の適用除外や減免と解しうる条項は見当たらない。」「以上に鑑みると,本件債権売買基本契約における上記買戻義務の規定は,破産会社に売掛債権等に係る債務の保証を求めるものに等しく,それは正に第三債務者の支払不能等のリスクを破産会社に負担させるものに他ならない。」したがって,本件各取引は貸金業法42条1項所定の契約にあたる。そして,本件各取引は,「貸金業法42条1項所定の制限利率を大幅に超えることは明らかであ」り,「本件各取引は,同項により,無効である。」

(3) 本件と同様の「事業者ファクタリング」が無効であるとされた事案として,消費者問題速報197号を参照(東京高裁令和3年7月1日判決)。
 給与所得者を対象に給料債権を買い取る形式をとって資金を融通するいわゆる「給料ファクタリング」については,消費者問題速報195号を参照(熊本地裁令和3年4月20日)。