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消費者問題速報 VOL.201 (2022年2月)

1 証券会社である被告が勧誘を行った日経225ミニ先物取引について、実質的一任売買、過当取引を認定し、原告の損失額の7割(過失相殺3割)の損害賠償請求を認めた事案(東京地裁令和3年12月15日判決)

(1) 原告は、被告の従業員から勧誘を受けて2銘柄の株式を購入した4日後に、先物・オプション取引を勧誘されて口座を開設し、上記株式を売却した売却代金のほとんどを日経225ミニ先物取引の証拠金に充て取引を開始した。その後、約2か月半の間に合計約354万円の損失を被った。

 原告は、無断売買、実質的一任売買、適合性原則違反、説明義務違反、過当取引を主張して、被告に対して損害賠償請求を行った。

(2) 裁判所は、下記の通り原告の実質的一任売買、過当取引の主張を容れ、損害賠償請求を認めた上で、原告の過失割合については3割とした。

 「…A(被告従業員)は、6月1日に追加の株式購入を勧誘してからわずか4日後の同月5日に株式売買に比較してハイリスクな日経225ミニの勧誘をし、一方で、同月6日に本件各株式の売付注文をしており、原告に無意味な株式取引をさせている。また、…原告は、本件取引を開始した同月11日から、Aに対し、分からないから取引をお願いするなどと述べ…ている。」「…本件取引のうち相当数に上る指値注文について、原告から積極的にAに対して金額を明示して注文したものはないこと、Aは、…売買の方針だけを伝えるものや、…金額に幅を持たせて提案しているものが大多数であるにもかかわらず、原告は基本的に肯定的な回答をして無批判的な態度であったと認められる。」「さらに、原告は、…友人や親族から本件取引を中止するよう忠告されたと述べ、本件取引を終了しようとしたものの、Aから引き止められ、…本件取引が継続した」「原告は本件取引開始当初から終了に至るまで、Aの提案にほぼ無批判に同意しており、原告から具体的に発注した様子が見受けられないことからすれば、本件取引は、当初からAに実質的に一任して行われたものと認めるのが相当である。」

 「原告は、…商品先物取引については本件取引前に経験が無かった」「また、…原告は、…Aに言われるがまま取引規模を拡大したと評価することが相当であって、原告の意向に沿った取引をしていたとは言い難い。」「これらのことに加え、本件取引の具体的内容についてみても、…本件取引はその大半が特定売買(日計取引、注文翌日の反対売買、直し)に該当することやこれらが実質的一任売買として行われていたことを総合すると、本件取引は、Aが自らの意に沿う取引をするよう原告を誘導し、無意味な売買を繰り返させて、原告の損失を手数料に転化させる意思で行ったものと推認することができる。」「したがって、本件取引は、顧客に対する誠実義務に違反した過当な取引として違法なものというべきである。」

 

2 インターネット広告業者からの、無料掲載期間終了後の自動更新規定による有料の求人広告掲載契約に基づく求人広告掲載料の支払い請求について、詐欺取消を認めて広告業者の請求を棄却した事案(那覇簡裁令和3年10月21日判決)

(1) 被告は、インターネット広告業等を営む原告から電話で勧誘を受け、原告からFAX送信されてきた書面を用いて、求人情報の広告掲載申し込みを行った。同FAXには、次のような約定が小文字のフォントで記載されていた。①求人情報を掲載する期間は14日間とし、原告または被告から契約終了日の4日以上前に書面での申し出がない限り自動更新され、掲載期間は14日間、以降の更新も同様とする。②被告は、原告に対し、本件委託業務の対価として1単位期間(14日間)毎に求人情報掲載料金を支払う。③無料キャンペーンが適用される場合、初回掲載期間の掲載料金は発生しないが、被告において自動更新を拒絶する手続きを経ない限り更新後の掲載料金が当然に発生する。

 原告は、期限内に被告から更新拒絶の申し出が無く、上記広告掲載契約が同一条件で更新されたとして、被告に対し求人情報掲載料金の請求を行った。被告は、有料での広告掲載契約の不成立、詐欺取消、錯誤無効を主張した。

(2) 裁判所は、有料の広告掲載契約は成立しているとしつつ、下記の通り原告の詐欺を認定して、取り消しを認めた。

 「原告の勧誘担当者は、被告代表者に対し、電話口で本件求人広告掲載の利用料は無料であることのみを強調し、無料掲載期間終了後は解約手続きを事前に取らない限り、自動的に有料契約に移行するとの契約ルールについては何ら説明をしなかった(被告代表者尋問)。」

 「平成31年4月から令和元年11月25日にかけて厚生労働省や全国求人情報協会、毎日新聞等のマスコミ及び沖縄県弁護士会を含む各県の弁護士会が原告らの勧誘手法が事業者の錯誤に付け込んだ商法である旨の注意喚起を大々的に行っていた事実が認められる(原告勧誘担当者が被告代表者に無料求人広告掲載の勧誘電話をかけてきたのは令和元年11月20日)。…原告においても当然自身の行っている勧誘手法に指摘されている問題があることは十分に認識していたと認められ、…勧誘によって被告代表者を錯誤に陥らせようとする故意があったこと、…被告代表者の錯誤によって契約申込みをさせようとする故意があったと認められる。」

 「被告代表者は本件広告掲載契約日までに原告勧誘担当者から3度も勧誘電話を受け、その都度広告掲載料金は「無料」と強調されていたこと、そして、勧誘担当者に無料であることを確認して本件広告掲載契約の申し込みをしたと述べる。…自動更新や有料契約に自動移行することについて意識が向かないように誘導された結果、電話勧誘を受けた被告代表者は、…無料期間が終了する4日以上前までに書面で更新拒否を通知しなければ自動更新となり、有料契約に自動移行されてしまうという契約であることを全く理解していなかった。原告は、被告代表者の錯誤をその不作為によって深めて本件契約の申込みをさせたといえる。」