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消費者問題速報 VOL.199 (2021年11月)

1 「デジタル通貨」の差金決済取引が公序良俗に反する違法なものとして原告の請求を全部認容した事案(東京地裁令和元年7月18日判決)

 本件は、Y1の従業員から「デジタル通貨保証金取引」の勧誘を受け保証金を支払ったXが、Y1及びその代表取締役Y2に対し当該取引が違法として不法行為、会社法429条1項に基づいて、損害賠償請求をした事案である。

 なお、Y1がXに交付した書面によると「デジタル通貨保証取引」の概要は、顧客とY1との間の相対取引による差金決済取引とされ、顧客は、保証金を支払って注文するとデジタル通貨を売買したのと同様の差金決済を行う地位を取得し、任意の時点で当該地位と反対の取引をすることによって生じる差損益についてY1との間で差金の授受を行うものである。(本件の「デジタル通貨」とは、当時の仮想通貨を意味していると考えられるが、判決文には特に記載はない。)

 本判決は、本件取引の構造は市場実勢取引相場を参考にしたレートという偶然の事情により上下する指標次第でXとY1との間で得喪が生じるものであるといえ、偶然の事情により勝敗を決するものであるから賭博に該当するとした。また、Y1が顧客との相対取引で顧客に対して金銭を支払う場合の履行確保に関する制度的担保の存在について一切立証しないことに照らせば、Y1は差金決済によりY1が損失を被り、Xが利益を得る場面でXに確実に利益を得させる体制を整えることによって取引の対等性を確保する手段を準備していたといえず、業務として正当性を有するとはいえないとした。そして、本件取引が実態を有するものとしても、取引を勧誘し、または取引を実施することは公序良俗に反するものであって違法であるとした。

 また、Y1がXに対して差益金として支払った1万7000円については、これを契機としてXが追加出資したことに照らすとXに対しての更なる出資を求めるための呼び水として交付されたものと認められ、損益相殺の対象とすることは信義則に反するとし、Xの請求を全部認容した。

 【国民生活2021年7月号 暮らしの判例】

2 ソーシャルレンディング事業を行う金融商品取引業者の投資の勧誘が不法行為に当たるとされた事案(東京地裁令和2年6月30日判決)

 本件は、金融商品取引業者であるY1の勧誘を受け匿名組合の出資持分に投資したXらが、Y1のホームページ上に真実に反する表示があったとして、Y1、Y1の代表取締役、Y1の100%親会社であるY2及びそのグループ会社に対し、不法行為、共同不法行為、会社法350条などに基づいて、投資金額相当額等の損害賠償請求をした事案である。

 本判決は、Y1が資金ニーズのある事業者と投資家をインターネット上のソーシャルの仕組みを使って結びつけるサービスであるソーシャルレンディングを標榜し、ホームページ上で投資のメリットとして「分散投資」をうたって広く投資を募集していたものであり、「分散投資」との表示については、信用リスクを分散するために複数の多様な投資対象案件が用意されており、その中から投資先を選ぶことが可能であるという意味に理解するものと認めるのが相当とし、本件では、貸付先のほとんどがY2及びそのグループ会社であり、これらのいずれかにおいて信用リスクが顕在化した場合、他のグループ会社も貸付金の返済が困難となり、担保としているY2の未公開株式の価値も大きく毀損され債権回収が困難になるとし、貸付先が経済的な一体性を有していたものであって、信用リスクが分散されていたとは認め難く、「分散投資」という表示は真実に反し、誤解を生じさせるとした。

 また、Y1は当初からグループ向け融資比率を90%とすることを計画していたとして、「分散投資」という表示が実態に反することを認識していながら表示したというべきであり、故意があったと認めるのが相当とし、Y1は不法行為責任を負うべきであるとした。

 そして、Y1の代表取締役はY1の事業全般を統括していた者であり、不法行為責任を負うとし、Y2及びそのグループ会社についても、Y1と一体となってファンド出資金の募集及び貸付けに関与していたとし、共同不法行為が成立するとして、Xらの請求を全額認容した。

 【金融・商事判例No.1599、金融法務事情No.2169】