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消費者問題速報 VOL.198 (2021年10月)

1 婚活サイトを利用した,いわゆる「デート商法」によるマンション投資勧誘事件において,投資用マンションを購入した各原告による損害賠償請求が認められた事案(東京高裁令和3年7月28日判決)

 ? 本件は,婚活サイト等を通じて知り合った者から勧誘を受け,金融機関から融資を受ける等した上で,投資用マンションを購入した各原告が,勧誘者らを被告として,不法行為に基づく損害賠償請求をした集団訴訟の事案の控訴審である。

 ? 各勧誘者被告による各原告に対する勧誘行為の不法行為該当性について,控訴審は,原審と同様,次のとおり判示し,各勧誘行為の不法行為該当性を認めた。

 「一般的に,相手に対する恋愛感情や結婚ないし結婚に発展し得る交際への正当な期待を有している者は,通常の社会生活において取引相手などの他者に対して感ずることのある信頼以上に強固な信頼を相手に抱き,その言動の意図や当否に関する調査や確認を十分に行うことができず,意思決定から生ずる結果の吟味が不十分なままに,自ら利益とはいえない,又は不利益となる意思決定をすることもあるといえるものの,それは,当該心情になることも含めて意思決定者が選択した行為であって,この意思決定自体が自由にされたものではないと直ちにいうことはできないし,意思決定に至る過程が歪められているなどということもできないから,当該意思決定を行った者は,その結果を引き受けるべきであるといえる。そうであれば,当該意思決定を勧誘した者が,意思決定者の上記心情を認識し,それを利用したとしても,それ自体で勧誘行為が不法行為となるということはできない。

 しかしながら,勧誘者が,意思決定者に対して恋愛感情を有しておらず,同人との結婚ないし結婚に発展し得る交際をする意思もないのに,意思決定者をして自己に対する恋愛感情や,結婚ないし結婚に発展し得る交際への期待を生じさせて行為の結果の影響を十分吟味し得ない心情にさせて意思決定させることを主たる目的として,それらを秘した上で,同心情を持つような状況を作出し,同心情を利用して意思決定をさせる場合には,意思決定者において同心情に陥って意思決定をするについて,真実とは異なる情報に基づいているということができ,その点で意思決定者の意思決定の過程が歪められ,自由な意思決定を妨げられているということができる。」「意思決定過程を歪める事態を作出する勧誘行為は,社会通念上相当な範囲を逸脱するものというべきであって,意思決定者に対する不法行為となると解される。」

 ? 財産的損害について,原審は,精神的損害のみを認めたが,控訴審は,次のとおり判示し,いわゆる「原状回復的損害賠償」を認めるかたちとなった。

 「一審原告らは,本件勧誘行為により…本件各物件を,「購入価格」欄記載の金額を支払って購入し,諸費用を支出したところ,当該支出は,本件勧誘行為と相当因果関係を有する損害と認められる。

 なお,一審被告■■■は,一審原告らの被った損害は慰謝料及び弁護士費用のみであると主張するが,一審原告らは本件勧誘行為がなければ本件売買契約を締結することもなく,これに伴う金員を支出することもなかったのであるから,その支出した金員は一審原告らの損害になるというべきである。」

 

2 被告が消滅時効完成後に原告に対し債務の承認をしたものの,当事者の各具体的事情を総合考慮の上,信義則に照らしても,被告が消滅時効の援用権を喪失したとは認められないとした事案(山形簡裁令和3年7月19日判決)

(1) 本件は,債権回収会社である原告が,被告に対し,本件譲受債権に基づき残元金60万9500円及びその遅延損害金の支払を請求したところ,被告が商事消滅時効の抗弁をしたのに対し,原告から,被告が時効完成後に債務の承認をしたとの再抗弁がなされた事案である。被告の消滅時効援用権が争点となった。

(2) 裁判所は,時効完成後に債務者が債務承認した場合は時効の援用は許されないとした最高裁判例(最判昭和41年4月20日民集20巻4号702頁)は,時効に関する道徳的側面を捉えたものであると解した上で,次のとおり判示した。
 「債務者が消滅時効完成後に,債権者に対し債務の承認をしたとしても,債権者及び債務者の各具体的事情を総合考慮の上,信義則に照らして,債務者がもはや時効の援用をしない趣旨であるとの保護すべき信頼が債権者に生じたといえないような場合,例えば債務者の無知に乗ずるなど欺瞞的方法を用いて債務者に一部弁済を促したり,債権の取立が法令や各種通達などに抵触する方法でなされた場合には,債権者の信頼を保護するために債務者がその債務について消滅時効の援用権を喪失すると解すべきいわれはない。」

(3) 本件について,裁判所は,原告は被告に対しほぼ毎月請求書を送付しており被告は本件譲受債権の存在を十分認識していたが,被告は,生活保護受給中なので支払えない旨の返事を何回かしたことがあったこと,その後,現在の夫と再婚して転居した先の住所にも原告から督促状が届いたものの,借金のことは夫に話していなかったことから半ばパニックとなって原告に電話連絡し,支払が難しい生活状況等を説明したところ,担当者から,「今週中に,1000円でも2000円でもいれてくれないと,裁判になったりとか,いろいろ大変なことになりますよ」などと言われ,被告は焦りを感じ(なお,被告は精神障害者手帳3級の交付を受けていた),平成28年12月5日に1000円,平成29年3月2日に2000円を支払ったこと,原告が被告に申し向けた1000円や2000円は1か月の遅延損害金にも満たないこと等の本件具体的事情を考慮して,被告に残元金に対して極端に少額な金額の支払をさせたという経緯や原告の言辞は,被告の無知に乗じ,時効援用権を喪失させようとする欺瞞的方法による働き掛けと解するのが相当だとして,被告が消滅時効の援用権を喪失したとは認められないとし,原告の請求を棄却した。

 【名古屋消費者信用問題研究会HP http://www.kabarai.net/judgement/other.html