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消費者問題速報 VOL.197 (2021年9月)

1 事業者ファクタリングが「金銭の貸付」に当たると認められた事案(東京高裁令和3年7月1日判決)

 本件は,中小事業者を対象に売掛債権を買い取るという形式で資金を融通するファクタリングサービスを行う業者Xが,Xから金銭の交付を受けたYやその代表者らに対し,不法行為に基づき交付金相当額の損害賠償を請求した事案である。

 Yらは,本件でXが行ったファクタリングが違法な貸付であるとして不法原因給付(民法708条類推適用)を主張して争った。

 本判決は,XY間の債権譲渡契約について,①債権の回収は譲受人Xではなく譲渡人Yが行うものとされていること,②Xは譲渡対象債権の債務者が弁済しなかった場合には債権譲渡契約を解除でき,譲渡代金額分についてYからの回収可能性が確保されていること,③債権譲渡について債務者への通知が行われず,債務者の承諾を得ていないこと,④Xが,譲渡対象債権の支払がなかった際,本来支払義務を負わない譲渡人Yとその代表者に対し,債権額以上の金額とこれに対する年20%の遅延損害金を支払う旨の合意を求め,同内容の公正証書を作成していることを挙げ,Xは,債権の譲受人として通常すべき行為はせず,債権の譲受人が負担すべき債権不払の危険も負担せず,これらの行為をなし,危険を負担するのは,ひとえに債権の譲渡人であるYであることなどに照らせば,本件債権譲渡契約を債権の譲渡(売買)を目的とする契約とみることはできず,本件債権譲渡契約における金銭の授受を実質的にみれば,それは貸金業法や出資法が規制対象とする「金銭の貸付け」(貸金業法2条1項,出資法7条)に当たると認めた。そして,本件における金銭の交付は,無登録で貸金業を行うものであり,利息も年利109.5%を大きく超えているから貸金業法及び出資法に違反し,不法原因給付に当たるとして,民法708条類推適用によりXの請求を棄却した(確定)。

 なお,本件では,YらがXに内容虚偽の書面を提示して,実際には不存在の債権を存在するようにXを誤信させて金銭を交付させたという事情があるが,本判決は,Yとその代表者に詐欺による不法行為が成立することを認めつつ,上記のとおり違法な貸付による不法原因給付であるとしてXの請求を棄却している。

 (本件でのファクタリングは「事業者ファクタリング」と呼ばれる類型であるが,給与所得者を対象に給料債権を買い取る形式をとって資金を融通するいわゆる「給料ファクタリング」については消費者問題速報192号,194号を参照。)               

2 会計限定監査役は計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認しさえすれば,常にその任務を尽くしたといえるものではないと判断した事案(最高裁第二小法廷令和3年7月19日判決)

 本件は,株式会社である上告人が,その監査役であった被上告人に対し,被上告人がその任務を怠ったことにより,上告人の従業員による継続的な横領の発覚が遅れて損害が生じたと主張して,会社法423条1項に基づき,損害賠償を請求する事案である。

 原審は,監査の範囲が会計に関するものに限定されている監査役(以下「会計限定監査役」という。)は,会計帳簿の内容が計算書類等に正しく反映されているかどうかを確認することを主たる任務とするものであり,計算書類等の監査において,会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかであるなど特段の事情のない限り,計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認していれば,任務を怠ったとはいえないと判断して上告人の請求を棄却した。

 最高裁は,監査役の監査は取締役等から独立した地位にある監査役に担わせることによって,会社の財産及び損益の状況に関する情報を提供する役割を果たす計算書類等につき(会社法437条,440条,442条参照),上記情報が適正に表示されていることを一定の範囲で担保し,その信頼性を高めるために実施されるものであることから,監査役は,会計帳簿の内容が正確であることを当然の前提として計算書類等の監査を行ってよいものではなく,会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかでなくとも,計算書類等が会社の財産及び損益の状況を全ての重要な点において適正に表示しているかどうかを確認するため,会計帳簿の作成状況等につき取締役等に報告を求め,又はその基礎資料を確かめるなどすべき場合があるというべきであるとし,これは会計限定監査役についても異なるものではないと判示した。

 そして,会計限定監査役は,計算書類等の監査を行うに当たり,会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかでない場合であっても,計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認しさえすれば,常にその任務を尽くしたといえるものではないと結論付け,原審を破棄し,被上告人が任務を怠ったと認められるか否かについては,上告人における本件口座に係る預金の重要性の程度,その管理状況等の諸事情に照らして被上告人が適切な方法により監査を行ったといえるか否かにつき更に審理を尽くして判断する必要があり,また,任務を怠ったと認められる場合にはそのことと相当因果関係のある損害の有無等についても審理をする必要があるからとして,原審に差し戻した。