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消費者問題速報 VOL.196 (2021年7月)

1  奨学金の単純保証人による分別の利益を超えて支払った過払金についての日本学生支援機構に対する不当利得返還請求が認められた事案(札幌地裁令和3年5月13日判決)

 本件は、日本育英会から奨学金を借り受けた元奨学生の単純保証人であった原告らが、被告の請求により、自己の保証債務額を超える金額の支払を余儀なくされたと主張して、不当利得返還請求権に基づいて過払元金及びこれに対する利息等の支払を求めた事案である。

 本件において、原告らは、過払元金に関する請求について、原告らにはそれぞれ他に連帯保証人がいたことから、分別の利益を有し、民法456条、427条により奨学金の残債務の2分の1の限度のみ保証債務を負うものであると主張し、これに対し、被告日本育英会は、保証人による分別の利益の援用が必要であると主張した。

 判決は、金銭債務等の可分債務は民法427条により特段の権利主張を要することなく当然に分割債務になること、また、同456条が分別の利益を認めた趣旨から、主たる債務が可分債務である場合には、各保証人分割された額についてのみ保証債務を負担すると解するのが相当と判示した。そのうえで、本件では原告らは分別の利益を有していることを知らず、分別の利益を超える部分を自己の保証債務と誤信して弁済していることから、この超過部分に対する弁済は、自己が保証債務を負っていないのに錯誤に基づき自己の保証債務の履行として弁済をしたものであるから、非債弁済であり、弁済は無効として、超過部分に対する不当利得返還請求を認めた。

 なお、本件は被告控訴となり、札幌高裁に控訴審係属中。

 

2 特定適格消費者団体による共通義務確認訴訟において、支配性要件を欠くとして訴えを却下した事例(東京地裁令和3年5月14日判決)

 本件は、特定適格消費者団体消費者機構日本が、仮想通貨に関する情報商材被害事件について、消費者裁判手続特例法(以下「法」という。)に基づいて提起した共通義務確認訴訟であり、同商材の売主である株式会社ONE MESSAGE及び勧誘した個人事業者を被告として、不法行為により代金相当額について賠償義務があることの確認を求めたものである。

 共通義務確認訴訟では、訴訟要件として、支配性の要件(法3条4項:金銭を支払う義務を負うべきことの確認を求める訴訟であって、共通義務の確定が紛争解決にとって支配性を持っており、第二段階の簡易確定手続が適切かつ迅速に判断することが困難ではないこと)を満たす必要があるところ、本判決は、この支配性要件について対象消費者ごとの過失相殺の判断の困難性を指摘し、仮に被告らの行為が不法行為に該当するとし、各対象消費者が勧誘により誤信したとしても、勧誘内容や対象消費者ごとの事情は様々であることから、勧誘方法を信じたことにつき、過失相殺すべき事情がおよそないとはいえないとはいえず、「本件各対象消費者の過失の有無や過失相殺割合については、対象消費者ごとに上記諸般の事情を考慮して認定、判断することが必要であり、個々の対象者ごとについて個別の審理を要するものであるから」支配性要件を満たさないと判断した。そして、原告の主張に対しては、過失相殺をすべきでないというほど違法性が重大とは言えず、本件訴訟での一律の過失相殺の判断は困難であるとして訴えを却下した。

 なお、本件は原告控訴により、東京高裁に控訴審係属中であるほか、消費者機構日本ウェブサイトに本件訴訟の経過等が記載されている。

 

3 令和3年特定商取引法の概要について

 「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律」(令和3年6月16日公布・令和3年法律第72号)により、特商法が改正されました。①は既に施行されており、②③は公布後1年以内で政令で定める日、④は公布後2年以内で政令で定める日に施行される予定です。詳細は、消費者庁のサイト等をご参照ください。
 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_transaction/amendment/2021/

① 送り付け商法対策→★令和3年7月6日から施行されています!

 売買契約に基づかないで送付された商品については、直ちに処分できることになりました(特商法59条1項改正、59条の2新設)。

② 通販の「詐欺的な定期購入商法」対策

 定期購入でないと誤認させる表示等によって申込みをした場合に申込みの取消を認める制度が新設されるなどの改正がなされました(特商法15条の4等)。

③ クーリング・オフ通知について、電子メールの送付等で行うことが可能になります(特商法9条ほか)。

④ 事業者が交付しなければならない法定書面について、消費者の承諾を得て、電磁的方法で行うことが可能になります(特商法4条ほか)。