愛知県弁護士会トップページ> 愛知県弁護士会とは > 消費者委員会 > 消費者問題速報

消費者問題速報 VOL.189 (2020年10月)

1 土地を購入する際,浸水リスクを十分に説明しなかったとして,説明義務違反を認め損害賠償請求を認めた判決(福知山水害訴訟・京都地裁令和2年6月17日判決)

 本件は,平成25年9月15日から16日にかけて近畿地方に接近した台風18号の影響による降雨によって,自宅の床上浸水等の被害に遭った原告らが,被告である市に対し,原告らの自宅が所在する地域における過去の水害の発生状況,浸水被害に遭う危険性の高さ等について説明又は情報提供すべきであったにもかかわらず,これを怠ったなどとして,被告から直接土地を購入した原告(以下「買主原告ら」という)においては,不法行為による損害賠償請求権に基づき,被告から直接ではなく地権者から不動産会社を通じて購入した原告(以下「石原地区原告ら」という)においては,国家賠償法1条1項による損害賠償請求権に基づき,それぞれ建物修補費用,動産損害,慰謝料及び弁護士費用等の損害賠償金並びに遅延損害金の支払を請求した事案である。

 本件の争点は,①土地の売主としての説明義務違反の有無(不法行為関係),②地方公共団体としての情報提供義務違反の有無(国家賠償関係),③原告らの損害,④過失相殺である。

 【①土地の売主としての説明義務違反の有無】

 本件各土地の売主である被告には,本件各土地の売買契約に付随する信義則上の義務として,買主原告らに対して本件各土地を売却する際に,本件各土地に関する本件ハザードマップの内容について説明するのみならず,被告において把握していた本件各土地に関する近時の浸水被害状況や今後浸水被害が発生する可能性に関する情報について開示し,説明すべき義務を負っていたというべきである。そして,買主原告らに対する被告の説明義務違反は認められる。

 【②地方公共団体としての情報提供義務違反の有無】

 地方公共団体の地域に含まれる土地の購入を希望する住民に対する関 係において,地方公共団体と住民という一般的な関係を超え,それ以上に浸水被害状況等についての特別な情報提供義務を地方公共団体に対して課した法令の定めはない。

 石原地区原告らが主張するような被告の情報提供義務については法令上の根拠が認められないから,被告の職員等が職務上の法的義務に違背したということはできない。

 以上より,石原地区原告らの国家賠償法1条1項に基づく請求は認められない。

 【③原告らの損害】

 建物修補費用等を全部又は一部認容し,慰謝料については買主原告ら3名について,それぞれ200万円,50万円,150万円を認めた。

 【④過失相殺】

 買主原告ら3名のうち2名については損害の公平な分担の理念に照ら し,過失相殺すべきほどの落ち度があるとは言い難いとしたのに対し,残る1名については3割の過失相殺をすべきであると判断された。