愛知県弁護士会トップページ> 愛知県弁護士会とは > 消費者委員会 > 消費者問題速報

消費者問題速報 VOL.188 (2020年9月)

1 防水テープが施工されていないこと等について,建物としての基本的安全性を損なう瑕疵にあたると認定された判決(名古屋地裁令和2年2月10日判決)

 本件は,Y会社(施工業者)との間で,自宅建物(以下「本件建物」という)の新築工事に係る請負契約を締結したXが,本件建物には建物としての基本的安全性を損なう瑕疵があると主張して,Y会社に対しては民法709条による損害賠償を,Y会社代表取締役に対しては民法709条又は会社法429条1項による損害賠償を求めた事案である。なお,本判決は確定済みである。

 本件の争点は,①建物としての基本的安全性を損なう瑕疵の有無,②消滅時効の起算点等であり,裁判所の認定は次のとおりである。

 【①建物としての基本的安全性を損なう瑕疵の有無】

 X提出証拠等から,本件建物に雨漏りが発生したことを認めた上で,防水テープが施行されていないこと,防水紙の重ね代がメーカーの定める標準に満たないか,重ね代がないこと,防水紙が施行されていないこと等につき,瑕疵にあたると認定した。その上で,「漏水は,構造材質等を腐敗させるなどして建物の耐久性に悪影響を及ぼし,また,家財等を汚損するなどして建物の居住者等の財産を損なう危険があるものといえるから,本件瑕疵は,建物としての基本的安全性を損なう瑕疵」であると判断した。

 【②消滅時効の起算点】

 本判決は,最高裁昭和48年11月16日判決の規範に沿い,「Yらに対する損害賠償請求権の消滅時効は,Xが本件瑕疵を具体的に認識した時点,すなわち,外壁を撤去して調査が行われたことにより本件瑕疵が具体的に明らかになった」時点より進行するとした。

 なお,Xは設計者(被告ではない)から訴外で解決金を受け取っていたが,当該解決金については損益相殺の対象とはしないことも判示している。

 【消費者法ニュース124号340頁】

 

2 占いサイトのサービス提供について,社会的に相当とされる範囲を著しく逸脱したものとして違法とした判決(東京地裁令和元年12月2日判決)

 本件は,Y会社が運営する占いサイトを利用したXら(X1,X2)が(同サイト利用には同サイトが提供するポイントを購入する必要がある),同サイトが提供するサービス(以下「本件サービス」という)が詐欺又は社会的相当性を逸脱する違法なものとして,Y会社へは民法709条責任又は民法715条責任を,Y会社代表取締役へは民法709条責任又は会社法429条責任を求めた事案である。

 本件の争点は,①本件サービスが詐欺に該当するか,②本件サービスが社会的相当性を著しく逸脱するか,③過失相殺であり,裁判所の認定は次のとおりである。

 【①本件サービスが詐欺に該当するか】

 Xらは,本件サービスが実際には個別の占い判定を行っていないにもかかわらず,行っているかのように装っており,詐欺行為であると主張したが,本件サービスは「Xらが抱いていた生活や人間関係の個人的な悩みに対応していないとまではいうことができない」として,詐欺該当性を否定した。

 【②本件サービスが社会的相当性を著しく逸脱するか】

 Xらは,本件サービスが会員にメール送信させ料金名目に多額の金員を支払わせることを目的とするものであるにもかかわらず,そのことを秘した上で,会員の不安等に乗じ,鑑定結果を信用させた行為は社会的相当性を逸脱する行為であると主張した。

 本判決は「鑑定を勧誘することが不当な目的に基づいており,不当な手段によって勧誘がなされ,相手方が正常な判断を妨げられた状態で不当に過大な金銭を鑑定の対価として支払ったような場合には,鑑定名目で対価を請求する行為は社会的に相当な範囲を逸脱した違法な行為になる」とし,Xらが本件サービス利用当時,生活や恋愛の悩みを有していたことに照らして,Xらに対する本件サービスの提供については,社会的に相当な範囲を著しく逸脱した違法な行為であると認定した。

 なお,X2については,正常な判断能力が回復した後の本件サービスの利用(提供)については,違法ではないと段階的な判断を行っている。 

 【③過失相殺】

 X1については,経理の仕事をしていること,本件サービスの利用料金や配信停止手続等について認識し得たこと等を理由に3分の1の過失相殺がなされた。また,X2についても,本件サービスに対し苦情を述べていたこと,鑑定士らから多量のメールが送信されたときには配信停止手続等を行っていること,2回も退会手続を採っていること等を理由に2分の1の過失相殺がなされた。

 なお,本件は,Yら控訴Xら附帯控訴後,控訴審で和解をしている。

 

3 悪質!「トイレのつまり」ぼったくり被害対策弁護団が結成されました。

 近時,トイレの詰まりなど水回りの修理で業者を呼んだところ,高額の修理費用を支払わされたという被害事案が急増しています。

 多くの事案で,慌ててネット検索で上位にヒットする安価な費用で対応する旨を謳うサイトに電話をし,訪問してきた業者から,吸引器や便器の取外しなどの作業では詰まりは解消しない,配水管に問題がある,急いで修理しないとマンション・建物の全体が大変なことになって数百万かかるなどとして,見積書も示されないまま作業が実施された後に,数十万から100万円を超える高額な料金を請求された上,現金ではないと割引できないなどと言われて当日現金で支払わされています。

 実際とは異なる不当な表示で消費者を誘引し,消費者の不安心理や知識不足につけ込み,冷静に判断する機会を与えないまま,必要性に疑問のある作業を実施して,相場に比して著しく高額な高額の契約を締結させている点で極めて問題があります。

 こうした被害の回復を図るとともに被害の予防につなげるため,8月25日,愛知県弁護士会の有志による弁護団「悪質!『トイレのつまり』ぼったくり被害対策弁護団」(問い合わせ先:久屋大通法律事務所052-961-3307)が結成されました。

 このような修理にかかる請負契約は,訪問販売(特定商取引法2条1項1号)に該当するため,役務提供後であっても法定書面が交付された日から8日間は無条件で解除できるクーリング・オフ(同法9条)ができます。なお,消費者が電話で事業者に来訪を要請していることから,クーリング・オフの適用除外を定める同法26条6項1号(いわゆる訪問要請)に該当するかどうかが問題となります。この点,同号は,訪問を要請した際に「当該契約の申込み又は締結を行いたい旨の明確な意思表示をした場合」に該当すると解されており(「特定商取引に関する法律の解説」消費者庁・経済産業省編),多くの被害事例の場合,実際に状況を見ないと具体的な作業内容と契約金額が定まらないことから,訪問を要請した時点では「当該契約」を締結する明確な意思表示があったとはいえないため,これには該当しないものと考えられます。適格消費者団体ひょうご消費者ネットが水回りの訪問修理を行う事業者に対し,「電話で要請した作業の範囲を超えない場合はクーリング・オフの対象とはならない」旨の契約書の文言を使用しないよう求めて提起した差止請求訴訟(神戸地裁平成30年(ワ)第1324号不実告知等差止請求事件。令和元年12月26日和解成立。)において,神戸地方裁判所も,作業の内容や価格は消費者の住居を訪れて現状を確認した後でなければ確定できるものではないことなどから,電話で作業を要請したとしても直ちに適用除外に当たるとはいえない旨指摘しています(ひょうご消費者ネットウェブサイト)。なお,契約日から8日間が経過していたとしても,交付された契約書の記載に不備がある場合は,いまだ法定書面(特定商取引法5条,4条)の交付があったとはいえず,クーリング・オフ期間は進行していないといえる可能性があります。

 また,特定商取引法や消費者契約法の定める不実告知取消しや,消費者契約法平成30年改正(令和元年6月1日施行)によって新たに追加された同法4条3項7号(消費者が契約の申込み等をする前に,契約を締結したならば負うこととなる義務の内容を実施し,原状の回復を著しく困難にすること)に基づく取消しの対象となる被害事例も多いと考えられます。