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消費者問題速報 VOL.187 (2020年8月)

1 販売預託商法,原則禁止の方向へ

 悪質業者による詐欺的な手法が問題視されてきた販売預託商法について,消費者庁は,現行の特定商品預託法での規制に限界があると判断し,原則禁止の改正案を来年の通常国会に提出する予定です。

 販売預託商法は,物品などを販売すると同時に顧客からその物品を預かり,別の顧客に貸し出すことで高配当が得られるなどとして勧誘する商法で,過去には安愚楽牧場事件やジャパンライフ事件等,大規模な消費者被害が繰り返されてきました。

 こうした現状を踏まえ,販売預託商法自体を原則禁止することになりました。なお,改正案には,違反した場合の罰則強化や販売預託商法の契約自体を無効とする規定も盛り込まれる予定です。

2 事業者に対するリース商法で特定商取引法26条1項1号が適用されずにクーリング・オフが認められた判決(名古屋簡易裁判所令和元年6月25日判決)

 原告はリース契約における保証委託会社,被告は生花雑貨店を一人で経営する女性(自営業)である。

 被告は,リース会社の代理店担当者による訪問販売を受け,ファイヤーウォールルーターのリース契約(リース総額約55万円)を締結した。また,その代理店は,光コラボレーション事業者でもあり,リース契約とともに光回線及びプロバイダーの変更が行われた。なお,リース契約締結前,被告の店舗では,パソコンが1台設置されており,パソコンとともに購入した1万円程度のルーターをパソコンに接続し,光回線を契約してインターネットを利用していた。

 被告は,原告からリース料の請求を受け,総額約55万円のルーターをリースしたことを初めて認識し,原告に対しクーリング・オフの通知書を送付したが,事業者であることを理由に受け入れられなかった。

 本判決は,まず,特定商取引法26条1項1号は,契約の目的・内容が営業のためのものである場合にはクーリング・オフ等に関する規定を適用除外とする旨を定めたものに過ぎず,仮に,訪問販売における売買契約又は役務提供契約の申込者が事業者であったとしても,その事業者にとって「営業のために若しくは営業として」締結するものではない場合には,同号所定の適用除外事由には当たらないと判示した。

 そして,①本件リース契約締結当時,被告は,本件パソコンを営業活動に全く使用しておらず,受注も仕入れも専ら電話で行っていたこと,②本件店舗には,被告のほかに従業員はなく,被告が一人で営業を行っていたこと,③そもそも被告は,被告の息子が使用する本件パソコンがコンピューターウィルスに感染することを危惧して,本件リース契約を締結したに過ぎなかったことからすると,本件リース契約が被告の 「営業のために若しくは営業として」締結されたものということはできないから,本件リース契約について,特定商取引法26条1項1号の適用はないと結論づけた。

 

3 建築士事務所の図書保存の制度の見直しについて(建築士法施行規則第21条関係)

 2020年3月1日施行の改正建築士法施行規則で,建築士事務所の開設者に保存が義務付けられている図書の範囲が拡大されました。これにより,全ての建築物について,配置図や各階平面図,2面以上の立面図,2面以上の断面図のほか,基礎伏図(伏せ図),各階床伏図,小屋伏図,構造詳細図,さらには構造計算書などや工事監理報告書まで多岐にわたる書面の保存が義務付けられることになりました。保存期間は作成日から15年間(改正前と保存期間に変更はありません)。2020年3月1日以降に作成した図書が対象です。

 ポイントは,4号建築物(比較的相談の多い木造2階建て住宅が典型例)にも,壁量計算書や各種伏図等の構造関係の図書の保存義務が明記された点にあります。4号建築物は,建築確認申請の際,構造関係の図書を提出する必要がありません。しかも,これまでは,4号建築物に構造関係の図書についての保存義務もなかったため,それをいいことに構造詳細図等を作成しない業者がおり,契約不適合(瑕疵)の立証に困難をきたす場合もありました。しかし,2020年3月1日以降に作成された図書については,4号建築物についても,基礎伏図や構造詳細図などが保存対象に加わります。さらに,壁量計算や四分割法,N値計算に関する図書(?構造安全性に関する図書)も保存の対象となりました。また,保存義務があるからには,当然,その前提としてこれらの図書の作成がなされるはずです。

 4号建築物の相談を受けた際は,こうした図書の保存ルールの改正について覚えておく必要があります。