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消費者問題速報 VOL.177 (2019年6月)

1 宗教団体の永代納骨費用に関して,宗教団体が受領した金額を一切返還しないとの条項につき,適格消費者団体が当該条項を含む意思表示の差止め等を求めた事件(宗教団体の請求の認諾により,平成31年3月12日終結。名古屋地裁平成30年(ワ)第162号事件)

 本件において,被告たる宗教法人(寺院)は,納骨堂に遺骨を安置し,永代供養を行うサービス(以下,「本件サービス」という)を行っており,本件サービスは生前に申し込むことも可能であった。

 しかしながら,被告宗教法人の永代供養に関する約款には,「キャンセルの際,ご返金はできません。」との条項があり(以下,「本件条項」という),生前の申込みをした消費者が永代供養のキャンセルを行った場合であっても,被告宗教法人は,キャンセル自体には応じるが一切返金は行わないとの対応を行っていた。

 そこで,消費者からの情報提供を受けた適格消費者団体たる原告が,被告宗教法人に対して,生前のキャンセルの場合には,遺骨の安置も永代供養も始まっていないので,空いた場所を再募集すれば,被告宗教法人に何ら損害は生じないにもかかわらず,一切返金しないのは,消費者契約法9条1号の平均的な損害の額を超えるとして,本件条項を含む意思表示の差止め等を求めて提訴した。

 これに対して,被告宗教法人は,?消費者から受け取る金銭は,お布施・志納金であり,贈与であるから返金の必要はない,?消費者からの申込みにより納骨場所が特定されれば当該納骨場所を確保する必要があり,他の者を募集することができなくなるため,他の者からもらえるはずだった金額が,そのまま被告宗教法人の「平均的な損害」となるから,本件条項は「平均的な損害の額」を超えて違約金を求めるものではない,と反論した。

 原告は,?の点について,金銭の払込みがなければ納骨堂の利用ができないことや,納骨場所のランクに応じて価格設定がなされていること等からすれば,被告宗教法人が消費者から受け取る金銭は,贈与によりなされたものではなく,永代供養と対価関係にある,?の点について,被告宗教法人の申込書には,納骨堂の使用開始前であれば納骨場所の変更があり得る旨が記載されており,納骨場所は固定されていないと反論した。

 被告宗教法人は,原告の請求を全て認めて,請求の認諾をした。

 

2 インターネット兼業銀行(いわゆるネットバンク)に対する預金債権差押命令の申立につき,全店舗及び全種類の預金債権を対象とする「全店一括順位付方式」によっても,差押債権の特定に欠けるところはないとした決定(名古屋高裁金沢支部平成30年6月20日決定)

 本件は,債権者が,債務者に対する調書判決の正本を債務名義として,債務者が金融機関に対して有する預金債権の全て(本店又は支店の特定をしていない)を対象とした債権差押命令の申立(いわゆる「全店一括順位付方式」による申立)をした事案である。原決定は,以下の最高裁決定を引用し,本申立を却下した。

 本決定を理解する前提として,最高裁平成23年9月20日第三小法廷決定(民集65巻6号2710頁)を紹介する(以下,「平成23年最決」という)。平成23年最決は,大規模な金融機関の全ての店舗を対象とする預貯金債権の差押命令申立は,差押債権の特定を欠き,不適法であると判示した。平成23年最決によって,預金債権の差押えにあたっては,預金口座の取扱店舗(本店又は各支店)を特定した上で,口座番号順等により順序を付して差押債権の特定を行うことが実務の原則となっていた。

 本決定は,平成23年最決は,一般的な大規模金融機関を念頭においたものであり,「当該金融機関においては,従前から預金債権の取扱口座を開設した本支店等の店舗名をもって預金債権を識別・管理している社会的実態を背景として,これに応じた差押債権の特定の要請を図っ」たものと評した。その上で,「これに対し,近時はいわゆるインターネット専業銀行が増加しているところ,かかる専業銀行においては,……,預金債権の管理を本店等の一箇所で行って」いる金融機関も存在し,そのような金融機関においては,「取扱店舗を特定せずとも,差押債権の特定の要請を満たす」と判示した。

 その上で,本件における金融機関が,「預金債権の差押えにおいて,取扱店舗を特定していなくとも,本店等いずれかの担当部署において,氏名と住所により全店検索を行って対象債権の特定作業をして」いることから,「本件の金融機関としての個性ないし特性に鑑み」,全店一括順位付方式による預金債権差押の申立につき,差押債権の特定に欠けるところはないと判示した。

 なお,本決定は,インターネット兼業銀行(ネット専業銀行ではなく実店舗も設けているインターネット銀行)一般について,全店一括順位付方式による預金債権差押を認めたものではないことに留意が必要である。

 

3 注意喚起-クレジットを使った副業ビジネス(果物販売事業)で出資法違反容疑

 「果物を海外で販売する事業に投資すれば配当を出す」と謳い現金を集めたとして,出資法違反(預り金禁止)の疑いで,愛知県警は,岡山県赤磐市の観光農園経営会社「西山ファーム」の関係先を一斉捜索しました。

 同社は観光農園を運営してイチゴや桃を栽培しており,指定のネットショップで商品を購入してクレジットカード決済すれば,参加者に毎月,決済額に数%を上乗せした額を返金するという副業ビジネスを展開しておりました。

 クレジット決済を行い集金することが特徴であり,愛知県内におきましても,返金が滞るなどのトラブルが相次いでおります。