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消費者問題速報 VOL.176 (2019年5月)

1 株式会社日本ユニコム従業員らの勧誘・受託行為に,適合性原則違反,説明義務違反,実質一任売買,指導・助言義務違反,委託者に不利益な取引を勧誘してはならない義務(誠実義務)違反が認められるとして,同社従業員2名の共同不法行為責任及び同社の使用者責任を認めた事例(名古屋地裁平成31年4月12日判決)

 原告は,取引開始当時30代後半の男性(有名私大卒,美容関連会社の専務取締役)で,年収は約630万円,金融資産は約2000万円を有し,投資経験は累積投資の株式やプラチナの積立等の経験を有していた。平成20年1月16日から平成27年7月21日まで7年6ヶ月もの間,商品先物取引を継続し,3553万円余の損失を被った(取引開始から1年半で1023回の売買が行われ,約2210万円の損失が生じていた)。原告は,取引の原資として消費者金融数社から合計数百万円を借り入れていた。判決は,原告が先物取引を勧誘する対象としておよそ相応しくないとはいえず,原告も一般的に先物取引のリスクは認識していたと認めたが,原告には先物取引の経験がなく商品価格の変動を的確に予想できたとはいえないし,数百万円の資金を投入することが相当な資産・収入があったとはいえないとした。また,原告が先物取引の仕組みやリスクについて一応の説明を受けていたことを認めたが,その説明によって直ちに取引の仕組みが理解できるものとは認め難いとした。さらに,日本ユニコム従業員が取引開始から1年間で4度にわたり投資可能金額を当初の5倍まで増額させたこと,その際,保有資産額を過大に申告するよう示唆したことを認定し,適合性原則違反,説明義務違反を認めた。そして,原告は,チャート等を検討できるサイトに多数回アクセスして価格の変動状況を把握しようとした事実が認められるが,特定売買率,手数料化率,売買回転率,原告が多額の借入をする一方,日本ユニコムが約2530万円の手数料を取得していることなどから,実質的な一任売買であり,指導・助言義務,委託者に不利益な取引を勧誘してはならない義務(誠実義務)に反するとした(過失相殺7割)。

 

2 大阪地裁平成31年3月29日判決(茶のしずく事件)

 原告総数120名の損害賠償請求事件。うち91名について訴外和解,9名について裁判上の和解が成立し,本判決の対象となった原告は20名である。原告らは,平成16年3月から平成22年9月にかけて出荷販売された薬用洗顔石けん「茶のしずく」を使用して小麦アレルギーを発症したとして,製造又は販売をした株式会社悠香及び株式会社フェニックス並びにアレルゲン(グルパール19S)の製造販売を行った片山科学研究所に対して損害の賠償(製造物責任法3条)を求めた。大阪地裁は,本件石鹸及びその原材料であるグルパール19Sは製造物として通常有すべき安全性を欠いており,その製品設計上欠陥があったと認めた。また,包括的・一律的な損害額を認定した上で,アナフィラキシーショックを生じた者については特に重大な損害を被ったとして加算を認めた。認容額総額は,既払金を除き4195万8267円であり,環境的要

 因,遺伝子要因,体質による減額は認めなかった。

 

3 消費者契約法の一部改正について

 平成28年の法改正の際,消費者契約法専門調査会報告書において,今後の検討課題とされた論点については必要な措置を講ずるよう,衆・参消費者特別委員会で附帯決議がなされ,これを受けて,このたび消費者契約法が改正されました(消費者契約法の一部を改正する法律(平成30年法律第54号))。改正の概要は以下のとおりです(施行日:令和元年6月15日)。

 ◆取り消し得る不当な勧誘行為の追加等

(1)社会生活上の経験不足の不当な利用

① 不安をあおる告知

 例:就活中の学生の不安を知りつつ,「このままでは一生成功しない,この就職セミナーが必要」と告げて勧誘

② 恋愛感情等に乗じた人間関係の濫用

 例:消費者の恋愛感情を知りつつ,「契約してくれないと関係を続けない」と告げて勧誘

(2)加齢等による判断力の低下の不当な利用

 例:認知症で判断力が著しく低下した消費者の不安を知りつつ「この食品を買って食べなければ,今の健康は維持できない」と告げて勧誘

(3)霊感等による知見を用いた告知

 例:「私は霊が見える。あなたには悪霊が憑いておりそのままでは病状が悪化する。この数珠を買えば悪霊が去る」と告げて勧誘

(4)契約締結前に債務の内容を実施等

 例:注文を受ける前に,消費者が必要な寸法にさお竹を切断し,代金を請求

(5)不利益事実の不告知の要件緩和

 例:「日照良好」と説明しつつ,隣地にマンションが建つことを告げず,マンションを販売→故意要件に重過失を追加

 ◆無効となる不当な契約条項の追加等

(1)消費者の後見等のみを理由とする解除条項の追加

 例:「賃借人(消費者)が成年被後見人になった場合,直ちに,賃貸人(事業者)は契約を解除できる」

(2)事業者が自分の責任を自ら決める条項

 例:「当社が過失のあることを認めた場合に限り,当社は損害賠償責任を負う」

 ◆事業者の努力義務の明示

(1)条項の作成

 解釈に疑義が生じない明確なもので平易なものになるよう配慮

(2)情報の提供

 個々の消費者の知識及び経験を考慮した上で必要な情報を提供