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消費者問題速報 VOL.173 (2018年12月)

1 いわゆる競馬情報詐欺の被害につき,情報料の振込先口座とされた合同会社の代表社員に対しては会社法597条に基づく損害賠償責任を,欺罔行為の電話に使用された電話回線を貸与した通信機器のレンタル会社の当時の代表取締役に対しては会社法429条1項に基づく損害賠償責任を認めた判決(さいたま地裁平成30年3月1日判決)

 本判決は,「必ず当たる競馬の情報を教える。」などと告げられた原告が情報料として金員を支払った被害につき,情報料の振込先口座とされた合同会社の代表社員並びに欺罔行為の電話に使用された電話回線を貸与した通信機器のレンタルを業とする株式会社の当時の代表取締役に対し,共同不法行為に基づく損害賠償請求を求めたものである。

 振込先口座とされた会社の代表社員に対しては,自己の従前の勤務経験や得ていた給料等の額に照らすと,勧誘された求人広告が不自然,不合理であって,本件のような特殊詐欺に関与する類いの違法な行為であることを認識すべきであったし,認識することが可能であったなどとして預金口座の通帳等を交付した行為はその業務の執行を行うにつき善管注意義務の違反があるとし,会社法597条に基づく責任を認めた。また,レンタル回線を貸与した会社の代表取締役に対しても,本件のような特殊詐欺事案において,レンタルされた電話回線が用いられることは公知の事実であり,警察署から携帯電話等を強制的に解約する依頼を受けたこともあるなどの事情から,電話回線等のレンタル業者としては,本人確認を行うことについて高度の注意義務を負っていると解すべきであり,運転免許証の原本を単に目視により確認するだけでは不十分であり,総務省が公表している券面事項等表示ソフトウエアやインターネットのサイトを利用するなどして十分な本人確認義務を尽くすべきであると判示した上で,重大な過失があるとして,会社法429条1項に基づく責任を認めた。もっとも,原告にも,「確実に当たる馬券情報」それ自体,存在する可能性のないことが明らかである上,冷却期間が充分に存在したにもかかわらず,あえて自ら接触した軽率な行為があるとして,過失相殺を5割とした。

 なお,両名の債務について,不真正連帯債務であると判断されている。

 

2 運転免許証が本人確認手段として悪用されたと認められる場合において,第三者によって悪用ないし流用された可能性があることを主張立証できない場合には,当該運転免許証の名義人に少なくとも過失があったと推認できるとした判決(さいたま地裁熊谷支部平成30年9月19日判決)

 本件は,以前の詐欺被害により被った損失を取り戻した上で,さらに報酬も支払うなどと告げて,未公開株式の購入を代わりに申し込ませた上,同株式は有望であるため,一部だけでも支払をしなければこれ以上確保しておくことはできないなどと告げて,2000万円を交付させた未公開株詐欺被害の事案である。

 原告と連絡を取る際に使用した電話番号の契約者となっている被告が,本件についての登場人物及び事件一切に全く身に覚えがなく,本件には全く関与していないと主張したが,運転免許証が悪用されたことにつき,具体的な主張がなかったことについて,運転免許証ないしそのコピーが本人確認手段として悪用されたと認められる場合でも,当該運転免許証が第三者によって悪用ないし流用された可能性があることを主張立証できない場合には,特段の事情のない限り,当該運転免許証が本人確認手段として流用されたことにつき,当該運転免許証の名義人に少なくとも過失があったと推認できるとして被告の責任を認めた。

 

3 訪問販売から契約に至ったリフォーム工事において,契約書に記載した工事内容や範囲が不明確であること及び契約書と見積書を一体的に交付していないことを理由として契約から3か月以上経過した後でも消費者のクーリングオフを認めた判決(大阪地裁平成30年9月27日判決)

 本件は,塗装工事会社が,訪問販売から外壁や屋根などの塗装工事について契約に至った工事につき,工事開始から10日後に,同社が使用期限切れの塗料を使用していたことや居住者の指定とは異なる色の塗料を使っていたことが発覚したため,消費者が同社に対して工事契約の白紙撤回を要求し,契約から3か月経過した段階で,クーリングオフを行使する意思を示した事案である。

 判決では,訪問販売において,消費者保護のために法定書面の交付義務やクーリングオフ制度が設けられており,当該書面の記載事項は厳格に解釈すべきであるとして,特商法4条1号の「商品若しくは権利又は役務の種類」とは,当該権利又は役務が特定できる事項をいい,その内容が複雑な権利又は役務については,その属性に鑑み,記載可能なものをできるだけ詳細に記載する必要があるとし,本件契約書の記載内容では不明確であるとした。また, 塗装工事会社側から事前に交付した見積書によって,記載が補完されている旨の主張に対しても,別途商品の販売又は役務の提供に関する事項を記載した書面を交付することも認められるが,法定書面との一体性が明らかになるような形で,かつ,法定書面と同時に交付する必要があるとして,契約日から約1か月半前に交付した見積書と本件契約書は一体であるとはいえないとし,本件契約書の交付によってもクーリングオフの行使期間は進行していないとして,クーリングオフによる契約解除を認めた。