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消費者問題速報 VOL.168 (2018年6月)
1 投資事業有限責任組合の無限責任組合員である会社が,詐欺行為により出資金を支払わせ,顧客に損害が発生したとして,当該会社及びその役員らに対し損害賠償を命じた判決(大阪高裁平成30年5月18日判決)
本判決は,株式投資を目的とする投資事業有限責任組合の無限責任組合員である控訴人会社が,投資勧誘にあたり,顧客から預かった出資金のうち,所定の約定手数料及び約定報酬以外の部分は投資資金として適切に運用される旨の虚偽の事実を告げ,顧客を欺いて投資事業有限責任組合契約を締結させたこと,実際には上記手数料等以外の出資金の大部分を関連するコンサルティング会社に送金し,同社から資金を還流させて受領した上で,控訴人会社の運転資金に充てていたことを認定した上で,かかる運営及び虚偽の事実を告げて勧誘する行為を控訴人会社の役員らが中心となって推進していたとして,控訴人会社及び同役員らによる共同不法行為の成立を認め,出資金として支払った金額と同額(及び弁護士費用相当額)の損害賠償を命じた。
なお,本判決の原審(京都地裁平成28年(ワ)第2968号)は,原審被告ら(控訴人ら)が答弁書等何ら提出せず口頭弁論期日にも出頭しなかったことから,全部認容判決が下されている。
2 成年年齢が18歳に
平成30年6月13日,民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げること等を内容とする民法の一部を改正する法律が成立しました(施行日:平成34年4月1日)。また,女性の婚姻開始年齢も,16歳から18歳に引き上げられ,男女の婚姻開始年齢が統一されました。
このほか,年齢要件を定める他の法令についても,必要に応じて18歳に引き下げるなどの法改正が行われます。
この成年年齢の引き下げにより,18歳・19歳の若年者が未成年取消権(民法5条2項)を喪失することによる消費者被害拡大,親権の対象から外れることによる自立困難な若年者の困窮の増大,同一学年に成年と未成年が混在することによる高校教育での生徒指導の困難化,養育費支払終期の繰上げの可能性など,多くの弊害が生じることが指摘されています。
3 消費者契約法の一部改正について
平成28年の法改正の際,消費者契約法専門調査会報告書において,今後の検討課題とされた論点については必要な措置を講ずるよう,衆・参消費者特別委員会で附帯決議がなされ,これを受けて,このたび消費者契約法が改正されました(消費者契約法の一部を改正する法律(平成30年法律第54号))。改正の概要は以下のとおりです(施行日:平成31年6月15日)。
◆取り消し得る不当な勧誘行為の追加等
(1)社会生活上の経験不足の不当な利用
① 不安をあおる告知
例:就活中の学生の不安を知りつつ,「このままでは一生成功しない,この就職セミナーが必要」と告げて勧誘
② 恋愛感情等に乗じた人間関係の濫用
例:消費者の恋愛感情を知りつつ,「契約してくれないと関係を続けない」と告げて勧誘
(2)加齢等による判断力の低下の不当な利用
例:認知症で判断力が著しく低下した消費者の不安を知りつつ「この食品を買って食べなければ,今の健康は維持できない」と告げて勧誘
(3)霊感等による知見を用いた告知
例:「私は霊が見える。あなたには悪霊が憑いておりそのままでは病状が悪化する。この数珠を買えば悪霊が去る」と告げて勧誘
(4)契約締結前に債務の内容を実施等
例:注文を受ける前に,消費者が必要な寸法にさお竹を切断し,代金を請求
(5)不利益事実の不告知の要件緩和
例:「日照良好」と説明しつつ,隣地にマンションが建つことを故意に告げず,マンションを販売→故意要件に重過失を追加
◆無効となる不当な契約条項の追加等
(1)消費者の後見等を理由とする解除条項の追加
例:「賃借人(消費者)が成年被後見人になった場合,直ちに,賃貸人(事業者)は契約を解除できる」
(2)事業者が自分の責任を自ら決める条項
例:「当社が過失のあることを認めた場合に限り,当社は損害賠償責任を負う」
◆事業者の努力義務の明示
(1)条項の作成
解釈に疑義が生じない明確なもので平易なものになるよう配慮
(2)情報の提供
個々の消費者の知識及び経験を考慮した上で必要な情報を提供