愛知県弁護士会トップページ> 愛知県弁護士会とは > 消費者委員会 > 消費者問題速報
消費者問題速報 VOL.164 (2018年2月)
1 金及び白金の地金売買契約が,現物まがい私的差金決済契約にあたり,公序良俗に反 する違法な取引であるとして,取引業者及びその代表者らの不法行為責任を認めた判決 (東京高裁平成30年1月25日判決)
本件は,東京地裁平成29年7月5日判決の控訴審判決である。
事案の概要及び原審の判断については,消費者問題速報VOL.159の4に掲載済 みである。控訴審判決も,原審を概ね引用し,本件地金売買契約が私的な差金決済を目 的とする私的差金決済契約であることを認めた。
控訴審判決では,さらに,本件地金売買契約が「商品市場における取引ではなく,顧 客である被控訴人と控訴人会社とのいわゆる相対的取引によって行われるものであるか ら,取引秩序の維持についての制度的担保はなく,顧客による投下資本の回収又は金等 地金の引渡しは控訴人会社の資産状況に依存することになるが,控訴人会社では顧客財 産に対する法的な分離措置は採られておらず,被控訴人を含む控訴人会社の顧客は,控 訴人会社の信用力について多大なリスクを負うことになる。」こと,及び,「金等の価 格が下落し,顧客が中途解約をした場合には,顧客に損失が生じる一方で控訴人会社が 利益を得,金等の価格が上昇し,顧客が中途解約をした場合には,顧客が利益を得る一 方で控訴人会社に損失が生じることとなり,本件各契約の締結により,買主である顧客 と売主である控訴人会社との間に,不可避的に利益相反の関係が生じることになる」こ とを挙げ,本件地金売買契約が前払式割賦販売契約に該当するか否かを論ずるまでもな く,公序良俗に反する違法な取引であることを認めた。
【判決文はあおい法律事務所HPに掲載】
2 4号建築物であっても,構造計算によりエラーが出た場合には,建築基準法20条の 求める安全性の有無を検討しなければならないとして,車庫の構造安全性の瑕疵を認め た判決(大津地裁長浜支部平成30年1月12日判決)
本件は,鉄骨平屋建車庫(所謂4号建築物)地中梁の鉄筋不足等の瑕疵が判明したため,注文者が請負人に対し,建替費用等の損害賠償を求めた事案である。
瑕疵の有無について,本判決は以下のとおり判示した。
「建築基準法に定められた建築物に関する最低限の技術的水準を充足することは契約条 当然の前提と考えられ,特段の事情がない限り,当事者間の黙示の合意の最低限を画す るものとして契約内容を補完,補充するものというべきである。」。そして,地中梁の 鉄筋不足について,「本件車庫は,4号建築物であって,直ちに,構造計算によってそ の構造安全性を確かめられるべき建築物ではない。しかし,本件車庫には…建築基準法 施行令67条2項違反があるため,同法20条4号ロにより,構造計算によって構造安 全性を確かめられる必要がある。仮に,この点をさておき,4号建築物については,当 事者間に特段の約定等がない限り,構造計算によって確かめられる安全性を有すること が請負契約等の内容とはならず,構造計算により安全性に問題があるとしても,その点 が直ちに瑕疵に当たるとは言えないとの見解によるものとしても,同法20条は,4号 建築物についても,…安全な構造のものとすることを求めているから,構造計算により エラーが出た場合には,その結果をも一つの判断基準として,同条の定める安全性の有 無を検討すべきである。」とした上で,本件車庫には構造計算上エラーが出ており,請 負人による本件車庫の安全性についての主張は認められないとして,本件車庫の地中梁 の構造について構造安全性の瑕疵を認めた。
4号建築物とは,建築基準法6条1項4号に定める建築物であり,①木造の2階建又は平屋建の建築物,②鉄筋コンクリート造又は鉄骨造の平屋建の建築物がこれに該当する(一定の大規模なものを除く。)。4号建築物については,同法6条の4で,建築士が設計した場合に構造安全性の審査が省略され,構造図面の提出が不要であるという手続的特例を受けるとともに,同法20条1項4号イ及びロで,仕様規定を充足すれば構造計算が免除されるという実体的特例を受けるが,この場合でも,構造計算上NGとなった場合には瑕疵となり得ると判断した点に本判決の意義がある。
3 法定書面に記載された「商品名」(特商法施行規則3条4号,割賦販売法施行規則79条3号)につき具体的記載がないとして,顧客からのクーリングオフの主張を認めた判決(名古屋簡裁平成30年1月29日判決)
本件は,原告が,被告会社との間で,原告が訴外会社との間で締結した学習教材売買 契約の代金についてクレジット契約を締結し,原告が,被告会社に対し,同クレジット 契約に基づき金銭を支払ったが,その後,原告が前記売買契約をクーリングオフにより 取り消し,前記クレジット契約もクーリングオフにより取り消したことを理由として, 原告が被告会社に対し,不当利得の返還を求めた事案である。
本件では,購入対象商品の学習教材の認識について争いがあり,原告が購入した学習 教材が,原告主張の「中学1年から高校3年までの6年分のセット教材」であるか,被 告主張の「中1から中3 5科目ハードディスク」であるかが争点となった。
本判決は,特商法が,事業者と消費者の間の知識や経験,情報量等に能力差がありな がら,事業者の勧誘によって契約を締結してしまう消費者の特性から民法の契約規定に修正を加えていることや,クーリングオフ制度が,事業者の不適正勧誘を抑制し,消費者の契約に伴う被害の防止,不当な契約の拘束力からの解法を目的としていることから, 事業者に課された法定書面の交付義務に関する規定は厳格に解釈すべきであるとした上で,前記消費者の特性からすれば,一般通常人の知識,経験や情報量を有すると認められる消費者であっても,前記消費者保護法制の趣旨目的に照らせば,その保護が図られるべきことは当然であるとした。そして,原告が契約一般に関する知識,経験及び情報量を有しており,契約当事者として,契約に対する認識の希薄さが認められるとしても,原告も消費者保護法制において消費者として保護されるため,原告の購入した学習教材に,高校1年生から高校3年生までの学習教材を含むものではないとの事実を推認することはできないとして,原告の主張を認めた。
そして,以上の判断を前提に,本判決は,売買契約書の商品名の記載のみによっては 消費者が購入した商品等を客観的に認識できるには概括的にすぎ,購入した対象商品に ついて他との特定識別という点においても一義的に解するのは困難であり,クレジット 契約で対象とした学習教材と客観的に一致するか否かの判断を可能にする程度にまで具 体的に記載されているとはいえず,クレジット契約書も商品名の記載を欠くため,いずれも法定書面として不備があるとして,原告のクーリングオフの主張を認めた。