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消費者問題速報 VOL.163 (2018年1月)

1 原野商法事案において,詐欺行為を行った訴外会社に対し,名義の使用を承諾した宅地建物取引士の共同不法行為責任を認めた事例(秋田地方裁判所大曲支部平成29年9月22日判決)。

 本件は,昭和50年頃に原野商法の被害に遭い,原野を所有している被害者(原告)に対し,訴外会社従業員が「原野を買い取る」などと言って欺き,原告に損害を与えた事案である。

 訴外会社が示した不動産の売買契約書及び重要事項説明書には,売買契約書の宅地建物取引主任者として被告の記名及び印影が表示され,重要事項説明書の「説明をする宅地建物取引主任者」欄にも被告の記名及び印影が表示されていた。宅地建物取引士である被告は,訴外会社に対し名義の使用は承諾したが,訴外会社がどのような仕事をしているかについては知らなかったとして,不法行為責任を負わないと争った。

 判決は,宅建業法15条,同条の2,35条,68条,同条の2の規定をあげ,その「趣旨は,宅地又は建物の取引の専門家の宅地建物取引士が,宅地又は建物の売買等の契約が成立するまでの間に,宅地建物取引業者の相手方等に対し,重要事項説明書を交付して説明すること等によって,購入者等の利益を保護することである」とし,その「趣旨からすると,被告は,訴外会社に対し名義の使用を承諾したことによって,私法上,訴外会社が被告の名義を悪用して訴外会社の顧客に対し適法な取引行為を装って詐欺行為をするなどして損害を被らせることを予見する義務があり,かつ,予見することができたというべきであり,さらに,被告は私法上,訴外会社に対し名義の使用を承諾することによって,訴外会社の顧客に対し損害を被らせる行為をしてはならない法的義務を負っていたというべきである」と判示し,被告には同義務違反があり,少なくとも過失によって,訴外会社らの原告に対する詐欺行為を幇助したのであるから,訴外会社らとともに共同不法行為責任を負うべきとして,損害賠償の支払義務を認めた。             

2 証券会社で行った株式の信用取引が過当取引にあたるとして,証券会社の賠償責任を認めた事例(東京地方裁判所平成29年11月17日判決)。

 本件原告は,昭和11年生まれの女性であり,上場企業勤務後,会社を設立し,代表取締役として経営をする等していた。原告は,被告SMBCフレンド証券において,株式の現物取引及び信用取引並びに投資信託取引等を行ったが,被告に適合性違反,説明義務違反,過当取引等の違法行為があったとして,不法行為に基づく損害賠償請求を求めた。

 判決では,「株式の信用取引の勧誘をする際には,原告のこれまでの投資経験との差に鑑み,株式の信用取引のリスクの高さや投資判断の困難さについて,具体的に理解できるよう十分な時間をかけ,また適切な資料を示すなどして説明すべきであるといえる」とした上で,被告担当者は,信用取引のリスクについて十分な説明をしていないばかりでなく,ペアトレード方式で信用取引を行えばほぼ確実に利益をあげることができるような説明をし,被告からの取引内容確認の電話に対し『はい。』とだけ返事をし,よくわからないとは言わないように指示をしたこと,原告が空売りや評価損の意味すら理解していなかったこと,被告担当者が,損失は出ているが全体としてはプラスになっているなどと事実に反する説明をしたこと,原告が信用取引をやめたいと再三告げていたのに,その都度,被告担当者らは,利益をだすようにするからといって,信用取引を継続させていたこと等を認定し,「被告担当者は,悪意で原告の口座を支配して,信用取引を主導し,過度な取引を行わせたものであって,その目的は手数料を得ることにあった」として,株式の信用取引について,過当取引にあたるとして,被告の不法行為責任を認めた(現物取引については責任否定)。過失相殺なし。確定。