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消費者問題速報 VOL.159 (2017年8月)

1 特商法第5条の法定書面に記載された「商品名」につき具体的記載が無いとして、顧客からのクーリングオフの主張を認めた判決(京都地裁平成28年10月11日判決)

 本件は、訪問販売によって高校受験対策の教材を販売した業者が、顧客に対して販売代金の請求を求めたところ、顧客側より、クーリングオフの主張がなされた事案である。

 訪問販売のクーリングオフは、特定商取引に関する法律(以下、「特商法」という)第5条に定められた様式の書面(以下、「法定書面」という)を交付してから8日を経過するまでに行う必要があるが、この様式を満たさない書面を交付してもクーリングオフ期間は開始されない。本件では、顧客が業者から売買契約書等の交付を受けてから既に8日は経過していたため、当該売買契約書等が特商法第5条の様式を満たすか否かが争点となった。

 特商法施行規則3条4号は、特商法第5条の様式として、訪問販売契約を締結した際には、「商品名」を記載するよう要求している。

 判決は、法定書面に記載すべき「商品名」は、「実際の商品と客観的に一致しているかどうかの判断を可能にする程度の記載がされる必要がある」と判示した。そして、売買契約書等に記載された商品名と、実際に顧客に交付された各種高校受験対策教材の名称は、「相当程度かけはなれた記載」となっており、「本件各教材と客観的に一致しているかどうかの判断を可能とする程度に具体的な記載はされていなかった」と判示し、業者が顧客に交付した売買契約書等は特商法が定める法定書面に該当しないとして、顧客側のクーリングオフを認め、業者の請求を棄却した。               【判例時報2333号103頁掲載】

2 消滅時効完成後に、貸金業者が債務者に対して和解契約書に署名・押印をさせて債務の承認をさせた事案において、消滅時効の援用を認めた判決(名古屋簡裁平成29年7月11日判決)

 本件は、最終弁済日から13年を経過した後、貸金業者が、債務者の住所を突き止め、顧客宅に訪問し、債務の減額や分割弁済などが記載された和解契約書を取り交わし、債務者に対して、債務の支払いを求めたところ、債務者側が消滅時効を主張した事案である。

 判決は、消滅時効完成後であっても、債務者が債務の承認をした場合には、以後その債務について消滅時効を援用することは許されないが、交渉経過や債務承認がなされた状況等を総合考慮し、「もはや債務者が時効を援用しないであろうと債権者が信頼することが相当と認め得る状況」が存在しない場合には、債務者は尚も消滅時効が援用可能であると判示した。

 その上で、判決は、一般に高額の請求を受けた債務者は分割払いの申し出をしてその場をしのごうとする心理状態になることや、債務者が和解契約締結後に一切弁済をしていないこと、債務者が弁護士に相談後直ちに消滅時効の援用を行っていることから、「もはや債務者が時効を援用しないであろうと債権者が信頼することが相当と認め得る状況」が存在しないとして、債務者の消滅時効の主張を認めた。     【名古屋消費者信用問題研究会HP

 http://www.kabarai.net/judgement/other.html

3 株価指数取引及び先物取引について、業者の説明義務違反及び断定的判断の提供を理由とした不法行為を認めた判決(過失相殺は株価指数取引について4割,先物取引について3割)(東京地裁平成29年8月9日判決)

 本件は、業者から飛び込み営業を受けて、株価指数取引及び先物取引を開始した顧客が(株式・投資信託の投資経験はあるが、その他の投資経験は無い)、同取引により損失を被ったところ、同取引を開始・継続したことは業者による説明義務違反及び断定的判断の提供が原因となったものであるとして、業者に対して、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。

 判決は、業者が顧客に対して、取引の仕組みやリスク等が記載された冊子、契約締結前交付書面を交付していた事実を認定しつつも、業者はこれらの書面の内容について具体的な説明がないこと、滞在時間約1時間の間に株価指数取引の経験の無い顧客に十分に理解できる程度の説明がなされたとは到底考えられないこと、後日の通話記録からしても顧客は取引の仕組みやリスクを理解していたとは認められないことなどから、説明義務違反の不法行為が成立することを認めた。

 また、判決は、株価指数取引における指標や、先物の価格について、顧客の有利に変動するであろうことを強調した説明は、利益が得られることが確実であると誤認させるものであるとして、断定的判断の提供を理由とする不法行為が成立することを認めた。

 他方で、判決は、手数料を含めた取引損全体を損害として認めたものの、顧客が、取引期間中(株価指数取引は約1年6か月、先物取引は約1年9か月)、自ら取引の仕組みや内容について習熟しようとせず、また損害の拡大を自ら防止しようとしなかった点について過失があるとして、株価指数取引について4割、先物取引については3割の過失相殺を行った(先物取引は、取引の仕組みやリスクの理解が比較的困難であることが理由)。

 【判決文はあおい法律事務所HPに掲載】

4 金及び白金の地金売買契約が、現物まがい私的差金決済取引であり公序良俗に反する違法な取引であるとして、業者及びその代表者らの不法行為責任を認めた判決(過失相殺無し)(東京地裁平成29年7月5日判決)

 本件は、金又は白金の地金売買契約によって、代金及び手数料名目で多額の金員を振り込まされた顧客が、当該地金売買契約は実質的には現物まがい私的差金決済取引(先物まがい取引)であると主張して、業者や,当該業者の代表者・取締役・担当者らに対して、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。

 本件地金売買契約においては、代金の支払いは、200回前後の分割払い(16~18年間)とされているが、分割払いが完了して初めて、金又は白金地金の所有権が顧客に移転し、その間に業者は金又は白金地金を取得しておく義務を負わないものとされている。

 しかも、顧客は、上記分割払いの期間中、いつでも中途解約をすることができるが、中途解約の際には、「解約通知書を受領した当日の東京商品取引所の金乃至白金の「標準取引」の1番限清算値」を基準として、既払金との差額決済がなされるものとされている。

 判決は、以上の事実を認定の上、本件地金売買契約を、「将来の時点での金地金等の取引価格の変動という偶然の事情で…私的な差金決済を目的とする私的差金決済契約」であり、「これは商品市場における取引によらないで商品市場における相場を利用して差金を授受することを目的とした行為」であると認定した。そして、当該行為を行うためには、商品先物取引法の許可や金融商品取引法の登録を要するところ、業者はこれらの許可ないし登録を行っていないため、本件地金売買契約を締結させた行為は、公序良俗に著しく違反し、私法上も不法行為が成立することを認めた。

 【判決文はあおい法律事務所HPに掲載】