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消費者問題速報 VOL.155 (2017年3月)

1 ファクタリングに名を借りた債権譲渡契約について、金銭消費貸借契約に準じるものであるとして、利息制限法の類推適用をしたうえで、過払金返還請求を認めた判決(大阪地裁平成29年3月3日判決)

 本訴請求は、原告が(運送業者)が、被告に対して、原告・被告間の集合債権(運送役務による運送料債権、以下「本件債権」とする)の譲渡が実質的には譲渡担保であり、金銭消費貸借取引であることから利息制限法を適用すると過払いが生じているとして、被告に対して、過払金約491万円の請求を求めたものである。

 一般に、ファクタリング(債権譲渡)とは、企業がファクタリング会社に対して手数料を支払って売掛金を売却して現金化する手法である。この場合、企業とファクタリング会社との取り決めにおいて、償還請求権(売掛金が回収不能となった場合、ファクタリング会社が企業に対して売掛金の買い戻しを請求できる権利)が設定される場合とそうでない場合があるが、償還請求権無し(ノンリコース)の場合、ファクタリング会社が売掛先の信用リスクを負うため、そのような信用リスクを負わない償還請求権有りの場合と比べて、手数料が高くなる。

 本件の主な争点は、原告被告間の金銭授受を伴う取引(本件取引)の法的性質が、ファクタリング(債権譲渡)なのか、ファクタリングに名を借りただけの債権譲渡担保付の貸金なのかである。仮に後者であるとすれば、利息制限法の適用(類推適用)が問題となる。

 裁判所は、結論として、本件取引がファクタリング(債権譲渡)ではなく、債権譲渡担保付の貸金であるとして、利息制限法の適用を認めた。その判断の分かれ目となった一番のポイントは、「ファクタリング会社である被告が債権回収リスクを殆ど負っていないこと」であった。

 すなわち、裁判所は、①金銭消費貸借契約であれば、貸主は、利息制限法所定の制限利率の限度でしか利息を収受することができず、債権の売買契約ということでこれを上回る利益を上げることができることが正当化されるとすれば、買主が、売買対象の債権につきある程度の回収リスクを負うなど、相応の理由があってしかるべきであるところ、被告は、債権回収のリスクをほとんど負っていないこと、②被告が上げた利益は、専ら原告との間で繰り返し授受された金員の差額によるものであり、債権を売買の対象としたとはいえ、その代金の一部しか支払わないで済むとか、債権のうち一定の金額のみをあえて売買の対象にするなど、債権の額面とは無関係に金銭の授受がなされていたこと、③原告が買戻しを行わなかった場合には、譲渡債権の全額が回収できたときに初めて債権譲渡代金全額の支払をうけるとか、債権の一定金額分のみの譲渡のために各債務者に債権譲渡通知が発送されてしまうといった不利益を受けるから、本件取引においては、買戻しを行わざるを得ない立場にあったことなどを認定した。

 そのうえで、裁判所は、「本件取引は,金銭消費貸借に準じるものというべきであるから,利息制限法1条の類推適用を受ける者と解するのが相当である。」として、原告からの過払金請求を認容した。

 

2 被告(商品先物取引業者)従業員による不招請勧誘、適合性原則違反、説明義務違反等の違法行為を認定したうえで、取引が全体として違法であるとして、被告に対する使用者責任を認めた判決(東京地裁平成29年1月26日判決)

 被告(商品先物取引業者)従業員から勧誘を受けて、商品先物取引を行った原告が、被告に対して、被告従業員による不招請勧誘、適合性原則違反、説明義務違反等の行為により、上記取引は全体として違法であるとして、使用者責任に基づく損害賠償として、約1455万円(うち132万円が弁護士費用)及びその取引終了日から支払済まで年5%の遅延損害金の支払を求めた事案である。

 裁判所は、原告の録音データ(被告従業員とのやりとりを録音したもの)から丁寧に事実認定をしたうえで、本件取引に係る被告従業員らの勧誘行為、受託行為は、全体として不招請勧誘、適合性原則違反、説明義務違反、仕切り拒否等の違法による不法行為を構成するとして、使用者責任を認めた。

 損害については、預託金額から返還金額を控除した金額約1323万円を認めるとともに、被告従業員らの違法性の程度が高いとして、原告の職歴経歴等を考慮しても過失相殺として考慮すべき原告の過失は認められないとして、過失相殺を否定した。弁護士費用132万円を損害として認めたうえで、請求の趣旨記載どおりの判決主文となった。

 【判決文は先物取引裁判例集76号掲載予定】