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消費者問題速報 VOL.154 (2017年2月)

1 CO2排出権商法業者の従業員に対する不法行為責任を認めた判決(東京地方裁判所平成28年12月26日判決)

 CO2商法業者の営業担当従業員に対して,不法行為に基づく損害賠償請求を行なった事案。同業者内において,営業担当従業員は,「顧問」から具体的な勧誘の方針や指示を受け,その指導の下で営業活動を行っていた。

 判決は、業者が実態のないCO2排出権について、原告に預託保証金名目で金員を交付させたことが詐欺行為に該当するとした上で、上述の営業担当従業員の業務内容及び業者の規模から,営業担当従業員らは,詐欺行為に該当すること,又は賭博に該当することを認識していたものと認め,業者の役員及び営業担当従業員は,一体となって組織的に顧客に対する違法な本件取引の勧誘を行っていたものと認めるのが相当であると認定している。

 そして、直接には原告に対する本件取引の勧誘を行ったものではないものの,営業担当従業員が原告に対して本件取引を勧誘するに当たり,少なくとも,自らその組織的な違法行為の一翼を担い,担当従業員と同様に顧客に対して本件取引を勧誘することにより,担当従業員が違法行為に及ぶことを容易にし,これを助長又は幇助したものであると認定し共同不法行為責任を肯定している。

 他方、業者の従業員であっても、郵便物の発送などを担当していたに過ぎない事務職員については、違法行為の実態を認識していたまでとは認定できないとして、共同不法行為責任を否定している。

 

2 株主が提起した粉飾決算にかかる損害賠償請求訴訟について,旧経営陣のほか,株式上場時の主幹事であった証券会社にも賠償責任を認めた判決(東京裁判所平成28年12月20日判決)

 東京証券取引所に上場していた企業の粉飾決算により,同企業の株主が損害を被ったとして,同株主が同企業の旧経営陣のほか株式上場時の主幹事であった証券会社にも金商法上の責任及び不法行為責任を追求した事案である。

 判決は、元引受証券会社(主幹事証券会社)の注意義務について,発行会社の上場に当たり,有価証券届出書等の開示書類の正確性について発行会社の説明内容が信頼するに足りるものであるかどうかの裏付け調査を厳正に行うべき注意義務を負うと解すべきであるし,会計監査人による監査を経た財務情報についても会計監査人に対するヒアリング等を実施し,監査制度を信頼することができるかどうかを厳正に審査すべき注意義務を負うと解すべきであると判示した。

 その上で,まず,売上高の異常な増加など,粉飾を疑わせる事情について,必ずしも粉飾を疑わせる事情と把握しなかったことについては相当な注意を欠いたと評価することは出来ないと判断した。

 他方,内部者が作成したことが推認される匿名投書(第1投書)について,粉飾決算である事実がその手口を含め具体的に指摘されており、懐疑心をもって粉飾の疑いを打ち消すだけの十分な引受審査を行うべきであるのに,何らの調査を行わなかったこと、及び、匿名投書(第2投書)を受領した後,何らの追加調査を行わなかったことについて,主幹事証券会社としての注意を尽くしたとは認め難いと判断し、発行市場で購入した原告に対する金商法21条1項4号,同17条の損害賠償責任を肯定した。

 もっとも、不法行為責任については,元引受証券会社は,発行会社が提出しようとしている有価証券届出書に虚偽の記載があることを知っていたかあるいは容易に知り得たにもかかわらず漫然とこれを放置し,発行会社において虚偽の記載がある有価証券届出書を提出することを許すなど実質的にみて虚偽の記載がある有価証券届出書の提出に加担したと評価できるような場合に,いわゆる流通市場において株式を取得する投資者に対して不法行為責任を負うと解するのが相当であると判示したうえ,本件では漫然と放置したものとまでは評価することができないとして,不法行為責任は否定された。

 

3 事業者の不特定多数の消費者に向けた働きかけは,そのことから直ちに「勧誘」に当たらないとはいえない,とした判例(最高裁平成29年1月24日判決)

 最高裁は,消費者契約法12条の「勧誘」の意義に関し,事業者等が不特定多数の消費者に向けて働きかけを行う場合を,同条の適用対象から一律に除外することは,同法の趣旨目的に照らし相当とはいい難いと判示しました。

 本判決は,消費者契約法の不当勧誘規制にふれて同法4条及び5条を明示的に引用し,「例えば,事業者が,その記載内容全体から判断して消費者が当該事業者の商品等の内容や取引条件その他これらの取引に関する事項を具体的に認識し得るような新聞広告により不特定多数の消費者に向けて働きかけを行うときは,当該働きかけが個別の消費者の意思形成に直接影響を与えることもあり得るから」と,理由付けています。

 本判決は,広告・チラシの記載内容が消費者の意思形成に影響を与える程度によっては,消費者契約法4条による取消しが肯定され得ることを含意しており,ネット広告やDM,新聞折込みチラシなどを契機に,セールス・トークなく締結された不当契約からの救済に活用できる重要な判決です。   【最高裁HP